Mirella Freniの歌唱は本当に理想的なのだろうか!?

Mirella Freni(ミレッラ フレーニ)は1935年イタリア生まれのソプラノ歌手。

戦後の偉大なイタリア人歌手として、パヴァロッティと並んで名前が挙がるのがフレーニであり、
歌を勉強すると、好き嫌いは別として彼等の発声が理想的だということは大抵の人の共通認識ではないかと思います。

 

ですが、最近本当にフレーニの歌唱が理想的なのか疑問に思うようになったので、ちょっと検証してみようと思います。

まず、フレーニに師事した歌手を見てみましょう。

 

 

Maija Kovalevska
プッチーニ ラ・ボエーム Si mi chiamano Mimi

ラトヴィア出身のソプラノでフレーニの弟子で、06年にドミンゴ国際声楽コンクールの優勝者

 

 

 

Maddalena Calderoni
プッチーニ マノン・レスコー Sola perduta abbandonata

フレーニだけでなく、コッソット、ヴァーレットといった錚々たる歌手に師事しています。

 

 

 

Maria Aleida Rodriguez

フレーニのマスタークラスも受けていますが、カバリエにも習っています。

 

日本人でも、
ソプラノ歌手の安藤赴美子氏
バリトン歌手の宮本史利氏(フレーニの愛弟子を公言されている方)
などが教えを受けています。

 

 

それでは当人の歌唱を時代を分けて聴いてみましょう。

 

 

(1967年)
ビゼー カルメン  Je dis que rien ne m’épouvante

ミカエラは当たり役と言われています。
ですが、現代絶賛活躍中のヨンシェヴァの方が、どう聴いても自然な発声に聴こえないでしょうか?

 

 

 

Sonya Yoncheva

 

 

 

 

(1974年)
モーツァルト フィガロの結婚 E Susanna non vien…Dove sono

どうもフレーニは生徒に対して、
「Avanti! (前へ)」ということをよく言うのだそうで、
師事した歌手も本人も、声を聴けば確かに全部前に響かせているんですよね。

そして、「ヴィブラートは自然につくものだ!」
とも言っているそうですが、確かに自然な音には倍音があって、
豊富な倍音を含んだ響きが素晴らしい歌声と言われているので、言っていることはきっと合っているのでしょうが、フレーニのヴィブラートが本当に自然なのかは別問題だと思います。
と言うのも、例えばフィガロの結婚の伯爵夫人のアリア。
フレーニの系譜として現在活躍している歌手にフリットーリを挙げる方がよくいますが、こちらもどう聴いても別物なんです。

 

 

 

Barbara Frittoli

どんなに録音状況を加味して贔屓めに聴いてもフレーニはレガートが甘い。

アリアの開始は
(フレーニ 2:00~)
(フリットーリ 1:55~)

ヴィブラートの質も二人は違うのですが、
何と言っても差が出るのが、アリアの冒頭の歌詞の歌い方
「Dove sono i bei momenti, di dolcezza e di piacer,」

ここを上手く歌えるソプラノは一流だと思います。
それ位難しい。

何が難しいかって、
「Dove」の”ve”や「dolcezza」の処理の仕方、
そして「piacer」の”cer”。

フレーニは”e”母音を押してますね。
この後の部分もそうですが、低い音域の”e”母音はハッキリ言ってそこまで上手くないです。
さらに「dolcezza」も、プッチーニ歌うみたいなポルタメント掛けててモーツァルトを歌うスタイルではありません。
時代を考えればこれもアリだったのかもしれませんが・・・。

それに比べてフリットーリ
”e”母音をギリギリまで”i”母音の幅に通して上手く処理してますね。
このフレーズは、長いブレスで変なヴィブラートが掛からず、喉声にもならず、ピアノでレガートに、母音を均等な響きで歌う。
これが全てできないとダメなので、歌う方は本当に神経を使います。

更に冒頭以上に音量落として、長いフレージングで歌わないといけない再現部は個人的にこのアリアで一番注目するところですが、
フリットーリの歌唱は呼吸をするように自然に包み込むようなピアノで歌えています。ライヴのCD録音の方が演奏としては素晴らしいですが、この映像でも十分上手い。

ここを比べただけでも、フレーニとフリットーリは全くタイプの違う歌手だということがお分かり頂けると思います。
では続いて、フレーニの当たり役と言われるファウストのマルゲリーテ役はどうでしょうか。

 

 

 

(1980年)
グノー ファウスト(全曲)

Faust: Alfredo Kraus
Mefistófeles: Nicolai Ghiaurov
Margerite: Mirella Freni
Valentin: Robert Wilbert

(ファウストのアリア 52:30~)
(マルゲリーテのアリア 1:00:00~)

クラウスとフレーニのアリアが続くので、響きを比較して頂きたいのですが、
中低音を歌う時の響きが、クラウスは高音と同じ質なのですが、
フレーニは低音がかなりドスの効いた声で、響きで歌うのとは程遠いものになっています。
勿論声その物は大変立派で素晴らしいのですが、歌として上手いかと聞かれれば疑問です。

 

 

 

 

(1996年)
プッチーニ ラ・ボエーム(全曲)

Mimi:Mirella Freni
Rodolfo:Luciano Pavarotti
Musetta : Anna Rita Taliento
Marcello : Lucio Gallo
Schaunard : Pietro Spagnoli
Colline : Nicolai Ghiaurov

 

因みにこの映像は、パヴァロッティがChe gelidaを低く移調して歌っているというかなり残念なやつです。

流石に60を過ぎた演奏では、幾ら最大当たり役と言っても衰えは隠せないので、もう少し若い時のミミも参考までに。

 

 

(1964年)
パヴァロッティとフレーニの二重唱 O soave fanciulla

パヴァロッティはジラーレした、いわゆる息の回っている声なのですが、
フレーニは直線的なので響きの質もレガートの質も全然違います。
この二人を同列に扱うのははっきり言ってオカシイです。

まぁ、フレーニはテノールで言うならパヴァロッティよりドミンゴの発声に近いことは間違えないでしょう。

 

 

同じくラ・ボエームから ドミンゴとの二重唱 Sono andati

この二人の声は完全一致ぢゃないでしょうか!?

 

 

では、パヴァロッティと同列で扱うべきイタリア人ソプラノは?
と聞かれれば、フレーニより1年年上のスコットの方が断然相応しいでしょう!

 

Renata Scotto

声の良さはフレーニかもしれませんが、響きの柔軟性とフレージングや言葉の扱い、音色の使い分けは比較にならないくらいスコットの方が上手い。

今、野球ではボールの回転数を計ってストレートの質の良さを評価していますが、声楽に於いても第何倍音まで鳴っているかを計測する装置とかあれば、きっと良い響きの豊かさを数値化できると思うんですけどね・・・。
でも倍音唱法という邪道な発声があったか\(^o^)/

 

 

参考までに倍音唱法はこんなのです。

現代音楽にはコレで歌うのとかあるんですけど、実際は使うことないですね(笑)

 

 

こうやってじっくり聴いてみれば、
フレーニ=イタリアオペラを歌うのに理想的な発声
という構図ではないことがわかって頂けるのではないかと思います。

確かにフレーニの声はイタリアのリリックなヒロイン役を歌うのに理想的な声なのですが、声が良いことと、歌が上手いこと、発声的に良いことは同義ではありません。

恐らく、このような記事を書くと反感を持つ方もいらっしゃるでしょうが、
これはいろんな年代の演奏を聴いた上で、フレーニがレガートで歌う技術に難があり、フォルテで歌った時に、特に中音域の”e”母音では押したような声になり易いこと、
モーツァルトを歌った時に露呈するように、常にヴィブラートが掛かった声になっていることは事実です。

これらを総合して言えることは、
ベルカントの定義がいかに曖昧なものかということですね。

イタリア人の著名な歌手の歌唱は何でもベルカントなのでしょうか・・・・?
そんな訳ないでしょ!てことです。

現代では鉄板として素晴らしい!と信じられている歌手も、実はちょっと神格化されて過ぎて宗教的に崇められているだけかもしれない・・・。
そんな疑問はどっかで持っていた方が良いと思います。

実際、シュヴァルツコップやホッターは、ドイツではそこまで偉大な歌手だと思われていなかったりするらしく、逆に日本の方が崇められている傾向があると聞きますので、こうしてビッグネームを冷静な耳で評価し直すことも必要だと感じて、今回はこのような記事を書きました。

 

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