確実に一流のヴェルディバリトンとなれる逸材 Gustavo Castillo

 

Gustavo Castillo   (グスターヴォ カスティッロ)はベネズエラのバリトン歌手。

エル・システマにより音楽教育を受けた後、2016年にスカラ座の研修所に入っているようですが、既にかなり完成された演奏をしています。

特にイタリア物を得意とする理想的なハイバリトンの声を持っていると言っても良く、
レパートリーはロッシーニ~プッチーニまでのイタリアオペラは勿論のこと、
フンバーティングのヘンゼルとグレーテルやトマのハムレットのような作品から、コンサート歌手としても主教曲のソリストをこなしています。
明るさと軽やかさがありながら、芯のしっかりした声を持っていることからも、今後世界的に一流バリトンと認識される日も遠くないのではないかと思っています。

 

 

 

ドニゼッティ ドン・パスクワーレ Pronta io son
ソプラノ Francesca Manzo

こういうブッファ役を歌うと、
何かと前にカンカン当てた声で歌う人が多く、
極端なことを言えば、勢いと大げさな演技でも、
声量さへあればそれなりに上手く聴こえてしまう。

ですがカスティッロは深い響きを維持し、明確な発音と明るい響きでありながら、
深さを失わずに細かいパッセージも性格にフォームを崩さず歌えています。
中々こういった歌手はいそうでいません。

 

 

 

 

メルカダンテ イル・ブラーヴォ Della vita nel sentiero… Abbellita da un tuo riso

 

メルカダンテはベッリーニやドニゼッティと同じような時代の、
いわゆるベルカントオペラの作曲家ですが、極端に現代では演奏機会が少ない作曲家です。
グランド オペラ作曲家ではアレヴィやマイアベーアが同時代にいるのですが、そのような当時は売れっ子でも今は二流扱いされている作曲家達とさへ並んで論じられない、
当時売れっ子イタリアオペラ作曲家なのでした・・・。

そんな訳で、アリアも今一つぱっとしない印象を受けますが、
ドニゼッティだって70作以上残しているにも関わらず、現代で演奏されるのはごく一部ですし、
その中でバリトンアリアなんて清教徒くらいしか演奏会で頻繁に歌われる曲はないのではないかと思います。
そんな訳で、もう少しメルカダンテは演奏機会増えても良いんじゃないかな。と個人的には思っていたりします。

それは置いといて、カスティッロの演奏ですが、
本当に理想的なイタリアのロマン派のオペラ、中でもセリアを歌うのにピッタリな声ではないでしょうか?
強さと太さがありながら、決して重々しくなく、若さも感じられる。
高音も勢いで出すのではなく、しっかりした技術の土台の上に安定した響きが乗っているので、
常にフレージングに余裕があります。

 

 

 

 

ヴェルディ ルイーザ・ミラー Sacra la scelta è d’un consorte… Ah! Fu giusto il mio sospetto

 

こちらは最近(2019年10月の演奏)
個人的に数あるヴェルディの素晴らしいバリトンアリアの中でも、
このルイーザのアリアが一番好きと言っても良いかもしれない曲なのですが、
勢いに任せて歌われることが多い中、カスティッロは見事なフレージングで歌っていますね。

少々大人しく、特にカデンツァは「正確に歌いました」感が強いので、
まだまだ表現面では磨かなければいけない部分はあると思います。
それでも、高音の美しさは格別で、声が薄くならず、それでいて明るく伸びるので
このまま歳を重ねれば理想的なヴェルディバリトンになるのではないかと期待せずにはいられません。
これだけ高音出るんだから。最後のAsは上に上げて欲しいな~。

 

 

 

 

ヴェルディ 椿姫 Di Provenza il mar, il suol

 

ルイーザよりこっちの方がカスティッロの上手さが際立つかもしれません。
力技で高音を出すようなことがなく、全ての母音が明確で奥まって響きが落ちることもない。
歌唱としては理想的なのではないかと思います。

 

ベネズエラのような非常に厳しい国からでもこうやって素晴らしい歌手が出てくるのですから、
どうしても日本の声楽教育に問題があると思わずにはいられません。

高崎芸術劇場みたいなことをやっているようでは話になりません。
無駄にホールだけ作っても文化は発展しない。

逆に貧しい国でもこうやって高い能力を持った芸術家は育つのを見れば、
明らかにお金の使い方が間違っていることがわかると思います。

こういう現実を直視して国、各自治体、音楽大学は教育の在り方をしっかり考えて欲しいと思います。
器楽に比べて特に声楽は間違えなく遅れている。

 

カスティッロの演奏はYOUTUBE上にはイタリア物しかないので、
この声でドイツ物をどう歌っているのかわからないのが残念ですが、
今後の予定を見ても、ルチアのエンリーコや蝶々夫人のシャープレスといったイタリアオペラなことから、
やはり今後はイタリアオペラがレパートリーの中心になっていくのではないかと推測されます。

ですが、彼の歌唱は大変丁寧で、意外にリートも上手そうな気もしますし、様々なレパートリーを聴いてみたくなる魅力があります。
今後の活動から目が離せない、素晴らしい才能を持った歌手であることは間違えありません。

 

コメントする