エジプトから現れたエリートソプラノFatma Said

Fatma Said(ファトゥマ(ファトマ) ザイード(サイド))はエジプトのソプラノ歌手。

正確な名前の発音が分からなくて申し訳ないのですが、サイードはエジプト出身で、ベルリンにて音楽の教育を受け、奨学金生としてスカラ座の研修所で学び、
今年、2019年にはワーナークラシックスと専属契約を交わすというスター街道驀進中のエリートソプラノ歌手です。

数々の国際コンクールでも入賞を果たし、特に20歳頃で既にシューマン国際コンクールで入選しているというキャリアの持ち主。

既にコンサート歌手としては、
ボストン交響楽団をはじめ、トーンハレ、BBC、バーミンガムといった有名所と共演をしている他、ヴィリャゾンやフローレスといった人気テノールと同じ舞台で演奏会をしています。
逆にオペラの舞台には立っている痕跡がなく、良い歌手ではあるのですが、
有名歌劇場に出て主役を歌っているような歌手ではないのに、なぜこれ程のスピードで知名度が上がっているのかはちょっと不思議ではあります。

 

 

 

シューマン 歌曲
Er ist’s(0:17~)
Aufträge(2:50~)
Singet nicht in Trauertönen(4:18)

 

 

この演奏は2012年シューマン 国際コンクールの入賞者演奏とのこと。
年齢ははっきりわかりませんが、2009年にベルリンのハンス アイスラー音楽高校に入学しているようなので、20前後の演奏とみるのが妥当でしょう。
そう考えると恐るべき才能であることが分かると思います。
ただ良い声が出るのではなく、寧ろ音楽性の成熟こそザイードの特筆すべき点でしょう。

この人の歌からは、若い歌手ならではの単純に歌うことへの喜びが溢れているようで、
上手いのにほほえましくもある。
3曲目の「悲しい響きで歌わないで」は、可愛らしく歌うだけでなく、
ある程度色気というか、いたずらっぽさが欲しい曲なので、
1曲目、2曲目に比べるとひねりが欲しい気がするのですが、それでも年齢を考えれば、これだけ歌えるだけでも単純に凄いです。

 

 

 

Rシュトラウス 歌曲集乙女の花 Epheu

 

 

【歌詞】

Aber Epheu nenn’ ich jene Mädchen
mit den sanften Worten,
mit dem Haar,dem schlichten,hellen
um den leis’ gewölbten Brau’n,
mit den braunen seelenvollen Rehenaugen,
die in Tränen steh’n so oft,
in ihren Tränen gerade sind unwiderstehlich;
ohne Kraft und Selbstgefühl,
schmucklos mit verborg’ner Blüte,
doch mit unerschöpflich tiefer
treuer inniger Empfindung
können sie mit eigner Triebkraft
nie sich heben aus den Wurzeln,
sind geboren,sich zu ranken
liebend um ein ander Leben:
an der ersten Lieb’umrankung
hängt ihr ganzes Lebensschicksal,
denn sie zählen zu den seltnen Blumen,
die nur einmal blühen.

 

 

【日本語訳】

だけどぼくはその娘たちを木ヅタと名づけよう
とても穏やかな言葉づかいで
髪は、すっきりして明るくて
軽やかに彼女の細い眉のまわりになびき
茶色の魂のあふれた牡鹿のような瞳で
しばしば涙にくれて立っている
彼女たちの涙は自分ではどうしようもない
意志もなければ自意識もない
目立たない花で飾りけない
けれども底知れない深さの
真心のこもった感情と共に
彼女たちは自分自身の力ではできないのだ
その根でひとりで立つことが
生まれついているのだ、絡み付くようにと
愛情を込めて 別の命へと
初めてその愛を絡みつかせた者に
彼女たちの命の定めを みな賭けるのだ
だから彼女たちは希少な花のうちに数えられる
ただ一度しか咲かないゆえに

 

比較的初期のシュトラウスの歌曲で、
この曲集では、wasserrose(スイレン)が一番有名だと思うのですが、
この「木づた」も味わい深く、そして若いソプラノ歌手が歌うのに向いた曲です。
所々ザイード特有のポルタメントがあって、本来はあまり好ましくないのですが、
この人がやるとセンスよく聴こえるのが不思議。
ちなみに、フランスのソプラノでもこんなプーランクの曲なんかにありそうなポルタメントの掛け方はしません。
例えば、0:48の「Rehenaugen」や、一番最後「nur einmal blühen」といった歌詞ですね。

 

 

 

Sandrine Piau

ザイードは本当に歌唱センスの良さが光るのですが、
技術的にはまだまだな部分も見受けられます。
例えば、ピオーに比べて母音の響きの質にバラツキがあり、無駄なヴィブラートもあります。
更に低い音ではかなり地声気味になり、高音と低音では統一された響きで歌えるところまでは至っていません。
とは言っても、恐らくこの演奏も25歳位だと思うので、十分に上手いんですが、
それでも、持っている声が美しく、歌も上手い上にレパートリーも踏み間違っていないので、余計に声そのもの弱点が露呈し難い。

あえて欠点を指摘するなら、全体的に鼻の響きが強く、”a”母音は特に鼻声になり易いように聴こえます。

 

 

 

 

プーランク Les Chemins de l’amour

 

薄く上澄みの、美しい響きだけで歌える能力には感嘆しますが、
逆にシュトラウスで聴かせたようなポルタメントこそこの曲では必要なんですよね。

それと、やっぱり全体的に鼻に入っているので言葉ごとに音色の変化が出ない。
この曲は、ジャンスの演奏が神演なので是非模範演奏を聴いて頂きたいのです。

 

 

 

 

Véronique Gens

ジャンスとヴィニョールズという理想的な組み合わせなので、他人の演奏と比較すること自体が間違ってはいるのですが、ザイードの言葉のさばき方と、ジャンスのそれとでは決定的に明瞭さにも音色にも差があることがわかると思います。
ザイードは本当に美しい響きを持っているだけに、響きで歌い過ぎて言葉で喋る部分がまだ甘いということがわかると思います。

 

 

 

 

モーツァルト 魔笛 二重唱 パパパ
テノール Rolando Villazon

 

ヴィリャゾンがパパゲーノ???
とりあえずネタ映像として最後に紹介してみました。

さてさて、今後このエジプトのソプラノはリアルアイーダになるのか、
それともずっと軽いソプラノのままなのか?

そもそも、レパートリーはこれからどうなるのか?
オペラには出ず、コンサート歌手としてメインに歌っていくのでしょうか・・・。
この声が歳を重ねるとどうなっていくのかも含めて今後の活動には注目したいと思います。

 

 

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