30代半ばにして理想的なパパゲーノの声を持つバリトン Rafael Fingerlos

ウィーン音楽大学を優秀な成績で卒業し、 Peter Schreier、Angelika Kirchschlagerといった著名な歌手のマスタークラスを受けた後、2016年にはウィーン国立歌劇場で歌っているのですが、
なんとウィーン国立デビュー年が来日公演でRシュトラウスのナクソス島のアリアドネでハルレキンを歌った年でした。
こういうことを知ると、若くて将来性のある歌手をいち早く日本で紹介してくれたとも受け取れる一方、金の掛かる有名歌手は一部に配置して、なるべく日本公演の利益を最大化しようと、ギャラの安い若手歌手を起用しているように見えなくもありません。。。。いゃいゃ邪推でした、すいません。
フィンガーロスはドイツ、オーストリア系のバリトン歌手に多い、オペラならモーツァルトやRシュトラウスを得意としながら、コンサート歌手としても幅広く活動しているタイプですが、それに加えて近現代オペラも積極的に演奏しているようです。
声はリリックというよりはかなり厚みがあって強さもある、バスバリトンのような音質で高音もしっかり出せるので、単純に声の良さだけでも惹きつけられます。
Rシュトラウス Heimliche Aufforderung、Zueignung

安定感のある響きでありながら硬さがなく、
しっかり支えの効いた強い声でありながら暖かみがある。
リートを歌うバリトンとしては理想的な声の歌手ではないかと私なんかは思ってしまうのですがいかがでしょうか?
とは言え完璧な訳では全然ありません。
まだまだ棒歌いに近く、ずっと良い声でただ歌っているだけに聴こえなくもない。
これが2016年の演奏なので、ウィーン国立歌劇場の一員として来日した年になりますから、そう考えると、やっぱり一流歌劇場の海外公演は時期尚早だったのでは?という感じもしてきます。
Fシューベルト An die Musik

2017の演奏でCD録音ということもあると思いますが、
上で紹介したRシュトラウスの歌曲とは全然違って実に柔軟な歌唱です。
ただ、部分的に言葉の発音が気になる・・・
【歌詞】

Du holde Kunst,in wieviel grauen Stunden,
Wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt,
Hast du mein Herz zu warmer Lieb entzunden,
Hast mich in eine beßre Welt entrückt!

Oft hat ein Seufzer,deiner Harf’ entflossen,
Ein süßer,heiliger Akkord von dir
Den Himmel beßrer Zeiten mir erschlossen,
Du holde Kunst,ich danke dir dafür!

【日本語訳】

いとおしい芸術よ、どれほどのくすんだ時間、
私が荒れ果てた人生の環にくるみ込まれた時、
あなたは私の心に温かい愛の火をつけて、
私をより良い世界に連れ去ってくれたことか!

しばしば、あなたの竪琴から発せられる嘆息、
あなたの甘く厳粛な和音が
より良い時間の天国を私に開いてくれた、
いとおしい芸術よ、あなたに感謝する!

例えば歌い出してすぐの「grauen」、
普通は「アウ」ではなく「アオ」に近い発音になります。
次の「Kreis」のアクセント変じゃない?
他は全然気にならないのですが、この二か所が何か違う気がする。
他の曲でもそういうところがあるんですよね。
シューベルト An den Mond

やっぱり「Auge」とか「Einsamkeit」みたいな時に気になる。
それでも声に関しては言うことないほど完成度が高く、柔と剛を兼ね備えて自在に操れる技術は、35歳にもなっていない若手バリトンとは思えない程成熟していると思います。
モーツァルト 魔笛 二重唱 Pa pa pa
ソプラノ Daniela Fally

このパパパは名演奏だと思います。
パパゲーナを歌っているファリーとフィンガーロスの声の相性がとても良く、
周りで演奏している木管楽器のアンサンブルがまた素敵です。
因みに、ホルンは金管楽器ではありますが木管楽器のアンサンブルに通例として加わる楽器なので、あえて木管アンサンブルと表現しております。
フィンガーロスの歌唱ですが
言葉と音楽の切れ味に声の良さも存分に聴かせてくれます。
フルオケで歌われているのとは違うので単純な比較はできませんが、
ブレンデルの声で、更に発音がクリアになった感じすらします。
Wolfgang Brendel(パパパは2:29:55~)

ブレンデルの声には重量感があるんですが、
フィンガーロスは軽さがありながら響きの強さ、厚みはしっかりあって、
それでいて硬さがなく暖かい声質なので、これ以上パパゲーノに向いている声もそうないのではないかと思えてしまいます。
これから更に歳を重ねれば声に深みが出てくるでしょうし、
そうなってくればAndreas Schmidtにも劣らないマーラーやRシュトラウスのリート録音を残してくれることでしょう。
東京の春音楽祭は最近同じような歌手ばっか呼んでるので、そろそろフィンガーロスみたいな人を呼んでくれないものか!
とりあえず日本でリーダーアーベントをやってくれる日が楽しみです。
最後は季節が季節なのでこの演奏を貼っておきます。
Stille Nacht
テノール  Bernhard Berchtold

テノールとバリトンの重唱でギター伴奏による「きよしこの夜」
この時期にはとても合いますね。
CD

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