不思議な魅力のあるセルビア人ソプラノ Dušica Bijelić

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Dušica Bijelić(デュシカ ビジュリック)はセルビアのソプラノ歌手。

 

セルビアでは幼少期にピアノやダンスを習い始め、その後声楽を初めた後、ウィーン音楽大学でGabriele Lechnerに師事、さらに今度はローマでサンタチェチーリア音楽院でRenata Scottoに習い、次はニューヨークのBard College Conservatory of Musicの大学院でDawn Upshawらの指導を受け、バルセロナでRaul Gimenez、マリリン ホーンのワークショップでRenée Flemingのマスタークラスを受講するという大変勤勉な歌手。

参考までにこんな歌手に習っています。

 

 

 

Gabriele Lechner

 

 

 

Dawn Upshaw

 

 

 

Raul Gimenez

 

 

こうやって見てみると、あまりにも習っている歌手のタイプが違い過ぎて、
ビジェリックがどんなレパートリーを歌っているのかすら想像できないのではないでしょうか?

オペラでは2012年から英国ロイヤルオペラで歌っているものの主役はなく、2014年のコジ・ファン・トゥッテのデスピーナを歌ったのが一番大きな役かもしれません。
しかし、声を聴くと絶対スーブレットじゃないんですよね(笑)
さらにその後産休による活動休止を挟んでいるようなので、そこでも恐らく声が変わっているでしょう。

 

 

 

プッチーニ ラ・ボエーム Quando men’ vo

 

こちらは2009年の演奏なので、まだオペラデビューする前のものです。
チリメンヴィブラートが掛かっていたり、ピアノの表現も粗削りなんですけど、変に上手く歌おうとし過ぎず、自分の表現を追求している姿が個人的には好きです。
やっぱり退屈じゃない演奏って大事だと思います。

声を聴いている感じだと、ちょうど始まりEの音があまり得意じゃないように聴こえるんですが、音色は暗めでメゾっぽさがありながら声は高い。。。
籠っているように聴こえなくもないけど、高音は抜けているようにも聴こえる。
中々不思議な声の持ち主だと思います。

 

 

 

コープランド Heart we will forget him

https://www.youtube.com/watch?v=J74PHfWIDNc

 

【歌詞】

Heart,we will forget him
You and I,tonight.
You may forget the warmth he gave,
I will forget the light.

When you have done,pray tell me,
That I my thoughts may dim;
Haste! lest while you’re lagging,
I may remember him!

 

 

【日本語訳】

心よ 彼のことは忘れましょう
あなたとあたし、今宵
あなたは彼のくれた暖かさを忘れるの
あたしは光を忘れるつもりよ

もしあなたが忘れたなら あたしに教えてちょうだい
あたしの考えていることがぼやけていくようにと
急いで! あなたがぐずぐずしている間に
あたしは彼を思い出してしまうかも知れない!

 

 

米語の作品は勉強したことないので、
発音などの細かい部分はわからないのですが、
ビジュリックの良さも、改善点も見える演奏だと思います。
なんといっても良い部分は響きが太くならないところ。

やや奥まった感じはあるものの、フォルテの表現でもピアノと同じポジションで響かせることができています。
これが少しでも大きな声を出そうとして太くなってしまうとコントロールを失ってしまうので、音程によっても響きの質が不均等になってしまったり、Messa di voceが上手くできなくなります。

こういう曲は特にブレスコントロールが上手くないと上手く歌うことはできませんので、純粋に歌が上手い歌手だなという印象を受けます。

 

一方の課題としては中音域が鼻に入り易いところでしょうか?
出だしの「Heart」が既に鼻に入っていますね。
しかし低音は美しい響きで歌えるのが不思議で
「warmth he gave」みたいな部分はソプラノには難しいと思うのですが、
そこらのメゾより魅力的な響きと表現をされていると感じました。

鼻に入っていることが聴いて分かり易いのは”a”母音なのですが、
影響が一番出ているのは”i”母音で、最後の「him」みたいなのが揺れてしまうのはがその証拠と言えるでしょう。
詰まっている声の場合”i”母音は”e”と”i”の中間みたいな音になりますし、
喉声の場合は鋭く貧しい響きで、逆に揺れないものの硬い響きになります。
よって”i”母音を伸ばしてチリメンヴィブラートが掛かってしまうとなると、原因は鼻に入っている可能性が高いと考えるのが自然かと思います。
では他の歌手はどうか。
歌曲の名手、オジェーの演奏と比較してみてください。

 

 

 

Arleen Augér

この人はとにかく均等な響きで歌える高い技術を持っているのですが、
こういう歌手と比べれば、一層ビジェリックの「warmth he gave」の部分の低音の響きがいかに特殊かがわかると思います。
ちょっと「gave」の響きが潰れてしまっているのだけは残念ですけど、
粗もある一方で、オジェーのような完璧な技術で歌う歌手よりも面白い演奏をするなというのが私の意見です。

 

 

 

 

 

カールマン バヤデールから抜粋

 

ハンガリーの作曲家カールマンのオペレッタ、バヤデールのビジュリックの歌っている部分の抜粋映像です。
ダンスの嗜みもあるということで、もしかしたらオペレッタは彼女にとって一番魅力を引き出せる分野なのかもしれません。
強さと軽さのある高音と、ちょっと影のある声質も合っているように思います。
ただ、繰り返しになりますが、鼻に入ってしまう影響で発音が不明瞭に聴こえてしまうことがあるのは勿体ないですね。

ここでは紹介しませんが、
ヴェルディのオテッロのデズデーモナのアリアを歌っている映像もあるのですが、
それを聴くと、母音に厚みがないために密度の薄い音楽に聴こえてしまいます。
顔の前面だけに響きを集める声だと、イタリア物で、特にリリックより重い声が求められるような作品を歌うには向かないのではないかと思います。
このようにビジェリックは一概に一流歌手とは言えないかもしれませんが、
様々な名歌手から指導を受け、ただ技術や美声があるだけの歌手にはない音楽性を育んできた方のように見受けられるので、今後どのような歌を歌っていくのか楽しみに見守りたいと思います。

 

 

CD

 

 

 

 

 

 

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