メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その⑤

メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック 5回目

 

今回は2演目

ドニゼッティのロベルト・デヴリュー

オッフェンバックのホフマン物語

です。

 

≪ロベルト・デヴリュー≫

 

エリザベッタ役

 

Angela Meade(アンジェラ ミード)

1977年米国生まれのソプラノ歌手。
Wikiを見る限り、米国内の有名なコンクールを総なめにしている歌手のようです。
・Metropolitan Opera National Council Auditions (2007)
・the Grand Prize at the Montreal International Musical Competition (2009)
・In 2011 she was awarded the prestigious Richard Tucker Award
・in 2012 she was the recipient of the Metropolitan Opera’s Beverly Sills Artist Award
歌っている作品はドニゼッティやヴェルディのリリコ~リリコスピントの役で、イタリア物以外はあまり歌っていなさそうです。

 

私的には不思議な歌手です。
無茶苦茶良い声の部分があると思ったら、押し押しの声の部分もあって、
しかも特定の音域や発音に癖があるという訳ではない。
どちらかと言えば低音域で押した声になる傾向が強いのですが、
上行音形でも声質が急に変わることがあったり、良い声を持っているのは確かなんですが、歌が上手いとはちょっと違うような気がします。

 

 

 

 

 

 

Jamie Barton(ジェイミー バートン)

1981年米国生まれのメゾソプラノ歌手。
様々な賞を受賞していますが、ガーディアン誌に
“a great artist, no question, with an imperturbable steadiness of tone, and a nobility of utterance that invites comparison not so much with her contemporaries as with mid-20th century greats such as Kirsten Flagstad.”
メゾソプラノなのに、「20世紀のフラグスタートと同じような響きの安定と高貴な発声」と書かれるとは凄いことですね。
※nobility of utteranceは言語的な意味の発話なのか、声的な発声と捉えて良いのかわからなかったので、英語に強い方で私の理解が間違っていたらご指摘お願いします。

 

 

Kirsten Flagstad

 

ガーディアンほどの記事に書かれていることですから、私ごときの耳とは全然違う次元で文章にされているのだと思いますが、
それでもあえて言います。
私にはどこにもフラグスタートとバートンの共通点を見つけることができません。

 

バートンがワーグナーを歌ってる映像が、ほんの一言歌ってるものしか残念ながらありませんでしたので、有名なアリアを歌ってる映像にしました。
参考までにドイツ語を歌っているものとしてはシューベルトの歌曲も貼っておきます。

 

 

声質はソプラノとメゾなので全然違うことは分かりますが、
発声も全く別物です。
フラグスタートは一部の低音を除いて、全て頬骨から上に息の流れがあって、そこに声が乗っている感じで、決して太い声にはなりませんが、バートンは母音の種類や音域によって様々な癖が出ます。
低音では詰まったような声になり易く、中音域の開口母音(特に”a”母音)もよく言うお団子声(クネーデル)な感じです。”i”母音は少し前に出ますが、喉声っぽさがあります。
「imperturbable steadiness of tone 揺れない安定した響き」がいったい何を指した言葉なのか残念ながら私には全然わかりません。
こうなってしまうから、基本的に私は声楽の評論って信用してないんですけど、
皆様はバートンについてのガーディアン誌の文章についてどうお感じになりましたでしょうか?

 

 

 

 

 

 

ロベルト・デヴリュー役

 

Stephen Costello(ステパン コステッロ)

1981年、米国生まれのテノール歌手。
2006年がオペラデビューのようですが、現在まで歌っている役はベルカント物を中心としたイタリア語の作品とフランスリリック作品で変わっていません。

 

 

デビュー年2006年の演奏

25歳でこの完成度は大したものですね。
早熟型の歌手だったのか、この人は良くも悪くも特徴的な声ではないし、声量も声質も圧倒的なところはないにしても、安定して無難に歌えるということは凄いことです。
まだ30代なので、これから徐々に重い役に移行していくとは思いますが、フォームを崩さず、まだしばらくはリリコレッジェーロ~リリコの役を歌い続けて欲しいものです。

 

 

 

 

 

 

David Portillo(デヴィッド ポルティッロ)

米国のテノール歌手。
高音を楽々と出せるテノールとして称賛されているようですが、
歌っている役を見ると、モーツァルト物(特に魔笛のタミーノ)だったり、メトのデビューがさまよえるオランダ人の舵取り役だったりと、そこまで高音を連発する役を歌っている感じではありません。

明るくて軽い音色には魅力があるのですが、何といってもところどころ完全に鼻声になるのは気になります。
とは言え、上半身だけの高音という訳でもない、その一方で横に広がってしまうこともあって、
良い音とそうでない音のギャップが大きいように思います。
正確な年齢はわかりませんが、まだ20代だと思いますので声質が良い方向で安定してくると良いテノールになりそうです。

 

 

 

ノッテンガム公爵役

 

Davide Luciano(ダヴィデ ルチアーノ)

 

イタリア生まれのバリトン歌手。
音楽一家の生まれで器楽の勉強をしていたものの、声楽を始めたのは19歳と遅めだったようですが、
Tiziana Fabbricini、Domenico Colaianni、Daniela Barcellona 、Marco Bertiといった素晴らしい歌手のマスタークラスを受けているところを見ると、教育を受ける環境は恵まれていたのでしょう。
また、現在はモーツァルト~ヴェリズモ作品までイタリアオペラだけを歌っているようですが、デビューは魔笛のパパゲーノというちょっと変わった経歴が個人的には興味深いです。

 

ブッファ役を得意としているようですが、演技やデフォルメした声で受けを狙うのではなく、しっかりした歌唱の上でフォームを崩すことなく歌うことができるとても良い歌手だと思います。
そこまでバリバリ鳴ってる声という訳ではありませんが、無駄な癖のない理想的な歌唱をしていると思います。
これも教わっている指導者がよかったのでしょうね。

 

 

Domenico Colaianni

 

 

 

Tiziana Fabbricini

 

有名な歌手ではなくても、こういうレベルの高い歌手が沢山いるというところにイタリアの底力を見た気がします。

 

 

 

 

≪ホフマン物語≫

 

オランピア役

 

 

Erin Morley(エリン モーリー)

米国生まれのソプラノ歌手。
ジュリアード音楽院を出て、下記のコンクールで1位を受賞しています。
the Jessie Kneisel Lieder Competition in 2002,
Licia Albanese-Puccini Competition in 2006.
役としては、イタリア、ドイツ、フランス物のコロラトゥーラを駆使する役から、ややリリックめのものを歌っており、軽い声ながらもモーツァルトのブッファものの役(スザンナ、ツェルリーナ、デスピーナなど)や、愛の妙薬のアディーナといったテッシトゥーラが低めの作品は意図的に歌っていないように見えるところに、自身の声をよく理解したレパートリー選びをされている印象を受けます。

 

こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、
米国人で、米国を中心に活動されている歌手でも、こういう軽やかな響きで、低音も押したり籠ったりせず、発音が奥まることもなくい、
技術がありながらも無駄なものをそぎ落とした歌唱ができる方がいることに驚きました。
6年以上前にオランピアを歌った映像もあるのですが、そちらよりも遥かにこちらのバラの騎士の演奏の方が洗練されているので、今回こちらの動画を添付しました。

 

 

 

 

 

 

アントニア役

 

Olga Kulchynska(オルガ クルチンスカ)

1990年、ウクライナ生まれのソプラノ歌手。
ヨーロッパや東欧、ロシアを中心に活躍しており米国では殆ど歌っていなかったようですが、
2020年にムゼッタを歌ってメトデビューをしたばかりのようです。
レパートリーは軽めの声の役が中心ではありますが、幅広くイタリア、ドイツ、フランス、ロシア物を歌っているようです。

 

今回はフランス語の作品ですが、イタリア語のスーブレット役が一番の合っていると思います。
その辺りは過去記事にしておりますので、興味があるかたはご覧ください。

 

◆関連記事

東欧から現れた気鋭のスーブレットソプラノOlga Kulchynska

 

 

 

ジュリエッタ役

Veronica Simeoni(ヴェロニカ シメオーニ)

イタリアのメゾソプラノ歌手。
歴史的名ソプラノの一人にも数えられるであろう Raina Kabaivanska に声楽を学んでいたようです。
歌唱については過去記事にも書いておりますのでそちらも参照ください。

 

 

◆関連記事

久々に現れた本格派イタリア人メゾの大器Veronica Simeoni

 

 

 

 

 

ニコラウス役

 

Tara Erraught(タラ エロート)

1986年、アイルランド生まれのメゾソプラノ歌手。
ロッシーニ作品を得意としているようですが、ヤナーチェクのオペラや、Jシュトラウスのこうもり、オルロフスキーなんかも歌っているようです。

私の感覚としては、この人はメゾではなくソプラノの声に聴こえる。
ソプラノが無理してメゾやってるみたいな。
上のチェネレントラのアリアでも低音が鳴らないことはわかるものの、技巧的にはしっかり歌えているので違和感は感じないかもしれません。

 

 

ですが、こういうティトの慈悲のセストのアリアでも、技巧ではないものを聴かせないといけないアリアでは低音が明らかに物足りないし線が細い。
響きも広がりに欠ける印象で、響きが乗りきっていないので、余計に低音も響かないように感じます。
こちらのアリアの演奏を聴けば、
ソプラノ歌手だと言われても多くの人は「いやメゾソプラノだろ!」という反応はしないのではないかと思います。

因みに2016年に東京の春音楽祭で初来日してリサイタルを行っています。
その時のインタビュー記事はコチラ

 

 

 

 

 

 

ントニアの母役

 

Olesya Petrova(オレシャ ペトロワ)

 

ロシア生まれのメゾソプラノ歌手。
アイーダのアムネリスやトロヴァトーレのアズチェーナを得意とするドラマティックメゾです。

このタイプのパワー系歌手がオペレッタにフィットするとはちょっと思えないのですが、
この役もそれなりに歌っている役のようなので、実際は上手く適応するのでしょうか・・・。
個人的には苦手なタイプです。

 

 

 

ホフマン

 

 

Matthew Polenzani(マシュー ポレンザーニ)

日本でもオペラファンには人気知名度の高い歌手で、特に女性ファンが多い印象を受けます。
プロフィールはタワレコに日本語のものがありましたので、コチラもご参照ください。

 

声のコントロールは上手いんですが、どうもこの人の歌唱にはフレージングや言葉の音色が感じられなくて好きになりません。

 

 

 

 

 

Peter Anders

 

アンダースの演奏が優れているとかそういうことではなく、言葉に対する声の色やフレージング、伴奏との掛け合いといった部分を聴いた時、ポレンザーニの演奏がなんとなく上手そうに聴こえるように歌ってるだけで、中身が軽いように感じてしまう訳です。

 

 

 

 

 

4人の召使

 

Aaron Blake(アーロン ブレイク)

米国のテノール歌手。
2017年にGeorge London Foundation Awardを受賞し
ニューヨークタイムズにて「youthful fervor and endearing sweet sound」と書かれたとあります。

こちらの評論は、前に紹介したガーディアンのものよりしっくりきます。
確かに甘く情熱的という表現はその通りではないかと思います。

「情熱」という部分だけ見れば、良い意味での若さとは言えますが、この演奏で言えばエドガルドは貴族ですから、ヴェリズモのように歌ってはいけないし、情熱の中にも絶対気品が必要だと考えると、個人的にはもう少しポルタメントや、泣きを入れるのは自重して欲しいところです。

とは言っても、高音の輝きは大したもので、逆に低音で少し詰め気味になるのが解消されると本当に良い歌手になるのではないかという気がします。

 

 

 

 

4人の悪

Luca Pisaroni(ルカ ピサローニ)

こちらは第一回で紹介しましたのでそちらをご参照ください。

メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その①

 

こんな感じでしょうか。

やっぱり2演目分のキャストを紹介しようとすると大変ですね。

普通に1人の歌手を掘り下げて紹介するより、沢山の歌手を簡潔に紹介する方が時間が実は大変だったりします。

しかし、米国人歌手は特にこういう機会がないとあまり調べることがないので、Aaron BlakeやErin Morleyのような歌手を見つけられるのは、こういう記事を書けばこそでもありますので、やっぱり有名歌劇場の主要歌手をチェックするというのは面白いものです。

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