2019年NEUE STIMMENの優勝者Anna El-Khashemの声はどこに向かうのか?

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Anna El-Khashem(アンナ エルハシェム)は1996年、ロシア生まれのソプラノ歌手。

 

ロシアからドイツへ渡り、バイエルン国立歌劇場の研修所で研鑽を積み、現在はヘッセン州立劇場ウィスバーデンで歌っています。

エルハシェムが注目を集めたのは、何と言っても昨年の新しい声コンクール(NEUE STIMMEN 2019)で優勝したことでしょう。

今までに、Elena Obraztsova, Brigitte Fassbaender, Anna Tomowa-Sintow, Edith Wiens, Natalie Dessayといった錚々たる名歌手のマスタークラスを受けており、まさに今後の活躍が期待される若手ソプラノと言えるでしょう。

 

 

 

ヴェルディ 椿姫 addio del passato

 

こちらは2015年の演奏で、この年が彼女にとってオペラデビュー年とのことです。

21歳の演奏ということなので、まだまだ粗削りではありますが、
深い表現が必要な曲を、よく自分の音楽として消化して歌えているのではないかと思います。
技術的にも特に高音のピアノの表現が20歳そこそこの歌手とは思えない完成度ですね。

 

 

 

 

1) W.A.Mozart. Susanna’s recitative and aria from “Le nozze di Figaro”
2) F.Liszt “Oh! Quand je dors”(5:10~)
3) Russian folk song “Not a Single Path Crosses the Field…”(10:14~)

こちらは2016年の演奏。
そこまで2015年の演奏と比較して声に変化はありませんが、
最後に歌うRussian folk songはアカペラで声を堪能できるので是非聴いてみてください。
丁寧な音楽作りと高音の美しさはこの曲でも健在ですが、低音では響きが太くなってしまって、声質が高音と比較すると粗い印象を受けますし、中音域はかなり鼻に入り易く下行音型、上行音型問わず、音域によって響きにバラツキがあることは否めません。
それでも年齢を考えれば、素晴らしい技術と音楽性の持ち主であることは確かでしょう。

 

 

 

 

ヘンデル ジュリオ・チェーザレ Da tempeste il legno infranto

こちらがNEUE STIMMEN 2019での演奏です。
この演奏はまるで今までの演奏とは別人のようですね。

まるでメゾソプラノのような声で、と言うか、バルトリ路線を目指しているんでしょうか?
確かに上品に歌う曲ではありませんが、エルカシェムの声の美点が全く生かされない選曲です。

低音も出せることを証明したかったのでしょうか?
ちょっとこの演奏で聴かせる声には品格を感じることができません。
クレオパトラ役ですよね、このアリア歌うのは・・・・

 

 

 

 

リムスキーコルサコフ サドコ Kolibelnaya

 

ヘンデルの演奏と比較すると声は良いのですが、2016年の演奏と比較すると響きが落ちてしまい、美しかった高音のピアニッシモも最後の部分なんかを聴いても、どうも音程が上がり切らない印象を受けます。

中音域が鼻声になり易いところは改善されるどころかさらに酷くなっているように聴こえる上に、”e”母音は特に平べったくなっている。

声が浅いとか、表現に粗さがあるとかなら年齢的に今後の成長が期待できるのですが、
彼女の場合は、表現的にも声的にも年齢の割に成熟していて、どちらかと言えば、自分の声の範囲を逸脱した表現を求めているように見えること、と表現すれば良いでしょうか。
このまま歳を重ねて、声が良い方向にいく姿があまり想像できないのが心配です。

ただ、幸いなことにそこまで重い役をまだ歌っている様子もなく、
2020年はロシアオペラも歌う予定がありながらも、中心はドイツ物のようなので、
響きは前でも鼻に入らないポジションを上手く見出すことができれば、随分良い方向に行けるのではないかと思います。

聴いた感じ、イタリア語だと母音を太くし過ぎて響きが落ち易い傾向にあるので、現在の活動の拠点がドイツであることもプラスの要素かもしれません。

NEUE STIMMENで注目される人には、案外知名度が先行して伸び悩む歌手が多いので、今年が彼女にとって重要な年になるのではないかと個人的には考えています。

 

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余談ですが

今世間は何でも自粛ムードですが、
音楽家は当然演奏することがお仕事です。

今日も、何か月も前から稽古していたトゥーランドット役を目前に控えてた方から、キャンセルになったと悲痛なメールが届きました。

コンサートを決行するアーティストを我がままだと叩く人達もいますが、
この国の芸術に対する支援は全くと言って良いほどアテにできないことを考えれば、スカラ座が閉鎖を決めるのとは訳が違う。
公演がなくなったらいったい彼等彼女等はどうやって生活しろと言うのでしょうか。

その一方では当たり前のようにパチンコ屋が営業している訳です。
空気が悪く、比較的高齢者が集まり易く、誰が触ったかもわからない台に入れ代わり立ち代わり人が座る訳ですから、冷静に考えれば学校より先にそっちやゲーセンに休業要請すべきところなのですが、コンサートや演劇を中止しない人の方が、パチンコやる人間より非常識であるかのように思われてしまう。

この空気には絶望感しか感じません。

どうかこの記事を見た方には、今演奏会を中止にせずに決行する演奏家や舞台人がいたとしても暖かい目で見て頂ければ幸いです。

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