Elena Stikhinaの歌唱は日本人のリリコスピントソプラノが参考にすべき逸材だ!

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Elena Stikhina(エレナ スティヒナ)は1986年、ロシア生まれのソプラノ歌手。

2016年にドミンゴの主催しているコンクールOperaliaで聴衆賞を受賞し、
2017年頃から世界的な歌劇場で歌い始めています。
特にロシア、フランス、ドイツ、米国の劇場で歌っていたようですが、
昨年、2019年のザルツブルク音楽祭で、現在トップクラスのソプラノ、ヨンシェヴァの代役でケルビーニのメディアに出演して成功したことで更に注目されるようになったソプラノです。

声質としてはリリコスピントということで、歌っているレパートリーはヴェルディ、プッチーニ、チャイコフスキー、ワーグナー作品に集中しています。

 

 

 

ヴェルディ 運命の力 Расе, расе mio Dio

 

ロシア系のスピント~ドラマティックな声と言われると、どうしても太めの声で大音量の歌手を想像してしまいますが、スティヒナはそのような声とは正反対です。

細くて強い弱音を中心に丁寧に旋律線を描き、劇的表現より、内面表現を重視するような歌唱スタイルは、誤解を恐れず言えばリート的な表現を、本来そのような表現で歌われないオペラに持ち込んだという意味で、かなり革新的と言えるかもしれません。

まだレガートの技術が完成されておらず、響きは前にありながらも発音が奥めなため、歌唱にはまだ物足りなさがありますが、スティヒナの目指す方向性の音楽にはとても好感がもてます。

 

 

 

 

プッチーニ トスカ トスカとカヴァラドッシ、1幕の二重唱
テノール Stefano La Colla

こちらは2019年の演奏。
二人ともトスカやカヴァラドッシを一般的に歌う声と比較すると軽めな上に、
ピアノの表現を多用するために、確かにドラマ性には物足りなさを感じる反面、こんなにも色気に満ちた重唱だったのか?という気づきを与えてくる、
中々興味深い演奏ではないかと思います。

スティヒナの良さは、朗々と歌う時だけでなく、中低音で喋る時も響きの質がかわらず、
全般的にどんな場面の歌唱でも雑みがないことではないかと思います。

 

 

 

 

ヴェルディ トロヴァトーレ Tacea la notte placida

 

こちらも上記と同じ演奏会からです。
プッチーニとは違って、ヴェルディの音楽はとてもカッチリしていてオケが表現を助けてくれませんから、歌手自らの音楽に推進力がなければはっきりした旋律線を描くことができません。
スティヒナはその辺りの歌い分も見事で、トスカで聴かせた緩やかな時間の流れの呼吸感とは逆に、カヴァレッタなんかは特に不自然なルバートを使わずに非常にカッチリした歌唱でありながらも、応答で紹介した運命の力の時よりも上質のレガートで歌えるようになっている。
声でも表現でも大変レベルの高い演奏をしているのではないかと思います。

 

 

 

 

ケルビーニ メデア  Du Trouble Affreux

 

こちらが昨年のザルツブルク音楽祭での演奏でしょう。
ケルビーニという作曲家はこの作品だけで有名な気がしますが、時代としては古典派です。
カラスの演奏とこの作品がセットのように語られることが多いだけに、非常にドラマティックな役というイメージが先行しているように感じますが、古典派の作品であるということを考えれば、カラスが理想的なメデアというのは違う気がしているのですが、例えば、この役を元々歌う予定だったヨンシャヴァでも必要以上に劇的な歌唱をしているように私には聴こえます。

 

 

 

Sonya Yoncheva

ヨンシャヴァは個人的には大好きな歌手なのですが、この演奏では劇的な表現が方でリズム感を犠牲にしているところには好感が持てません。
一方のスティヒナは古典派作品の様式をしっかり踏襲した上で、拍節感を失わない範囲内での表現を実践しているので大変聴きやすいです。

 

 

 

 

プッチーニ 蝶々夫人 Un bel di vedremo

 

こちらも2019年の演奏。
スティヒナの演奏は、表現的には個人的に世界でもトップクラスなのではないかと思います。
では彼女の現代の課題は何か少し考えてみようと思います。

まず、少しですが喉が上がり気味で硬い声であるということ。
細い響きで歌うのは良いのですが、中低音で胸の響きが全然ないのは不自然な感じがします。
高い響きで中低音も歌おうとすることは大変素晴らしいのですが、表現や音楽によっては胸の響きを混ぜていかないと言葉や役に即した音色は出ません。
私は日本人のソプラノ歌手、浦田典子氏の中低音の響きは、現代のリリックソプラノ中でも理想的なバランスで響いているのではないかと思っていたりします。

 

 

 

浦田典子

母音では”e”母音が時々横に開いてしまう傾向があったり、高音で声を太くし過ぎてしまう傾向はありますが、中低音で喋る時の響きは理想的なのではないかと思います。

スティヒナは、中低音で喋る時に響きを落とさないように歌おうとした結果として、鼻に入ってしまっている。
インタビューでちょっと喋っている動画があって、喋っている声を聴いたのですが、やはり歌声よりも豊かで温かみのある声でした。

 

 

 

インタビューで喋っているのは0:22~

(ドイツ語では スティキナと発音してますが、”k”は発音しないはずなので、Stikhinaと書いてスティヒナで良いと思います)

この喋っている部分の響きが歌でも要所で駆使できるようになってくると、もっと音色的な面で言葉に立体感が出てくるでしょう。

様式感やリズム感、ディナーミクやフレージングといった横と縦のラインには穴がないですね。
無駄なヴィブラートもなく、ポルタメントやルバートもしないですしね。
そこに声の色や言葉の出し方が付いてくると、理想的な歌手になるのではないかと思います。

 

このように、決して太い声でも圧倒的な声量がある訳でもないスティヒナですが、このように素晴らしいリリコスピントとしてスター街道を驀進しています。
このような状況を考えれば、体格的に不利な日本人のリリコスピント~ドラマティックな作品を歌う歌手にとってはとても参考になる歌唱スタイルなのではないかと思います。

 

スケジュールを見ると、
オランダ人のゼンタ、ヴァルキューレのジークリンデは既に歌っているようなので、今後はワーグナー作品を歌っている音源もYOUTUBEにあがってくるのではないかと思って期待しています♪

まだ若い歌手ですし、このまま伸びていくと本当に現代を代表するようなリリコスピントになるのではないかという期待が高まります。

 

 


 

 

4件のコメント

  • 佐々木達也 より:

    興味深く拝読致しました。昨年パリに行った際にバスティーユで運命の力を見ることができ、その際に一番印象に残ったのがこの人でした。技術的なことは分かりませんが、凛とした歌声と佇まいに感銘を受け、拍手も一番もらっていたと思います。ネトレプコのように出世していくのでしょうか。
    実はこちらのブログにたどり着いたのは、最近Bernheimのネモリーノをウィーンの無料配信で聴いて大変気に入り、情報を調べていたからでした。あとヨンチェヴァも気になっていて、実際に聴ける日が来るのを楽しみにしています。
    長文で失礼しました。

    • Yuya より:

      佐々木達也さん

      メッセージ頂きありがとうございます。
      Elena Stikhinaを生で聴かれたんですね!
      ネトレプコのように派手な歌唱をする歌手ではなく、
      端正で過度な劇的表現はせずに内向きな表現に魅力があるように聴こえるので、
      どちらかと言えば玄人好みな歌手のように見えます。

      Bernheimはとっても素晴らしい技術のある歌手ですし、勿論ヨンシェヴァも現在最高級のソプラノですね。
      高い声が出るとか、声量があるといった表面的な部分に惑わされず、本当に良い歌手を聴く耳を持っていらっしゃいますね。

  • オペラ好きの人 より:

    本記事興味深く拝読しました。
    こちらに転載している動画では確かにElena Stikhina氏は確かにお上手だと思います。しかしたまたま聞いた“Vissi d’arte”(後でリンクを張っておきます)の演奏では響きが落ちて、しかも奥に引っ込んだような声で何を言っているのかわからない歌唱で、果たして本当に同一人物か怪しまれるほどです。2022年の演奏ですので残念ながら声を失ったのかもしれません。

    https://www.youtube.com/watch?v=7ifPS6Puc6c

    • Yuya より:

      オペラ好きの人様

      情報提供ありがとうございます。
      本当ですね。
      2022年から急に声が硬くなって喉声になってしまっている!

      歌い過ぎて声を失ったというより、発声フォームが狂ってしまってます。
      短期間で歌唱が著しく変わる歌手には、慢性的なステロイド使用や、レパートリーの変化が影響することが多いように思うのですが、この人の場合、特にレパートリーが2010年代後半と2020年代で大きな変化もありませんし、
      声そのものには大きな変化がないように思いますので、なぜこれほど歌唱が劣化してしまったのかは、不謹慎ではありますが興味のあるところです。

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