【評論】 第65回 NHKニューイヤーオペラコンサート

毎年恒例のNHKニューイヤーコンサートの評論です。

 

日時:2022年1月3日(月)

開場:午後6時
開演:午後7時
終演:午後9時
会場 東京芸術劇場コンサートホール(東京都豊島区西池袋1-8-1)

 

<出演>
(ソプラノ)
石橋栄実、大村博美、小林厚子、砂川涼子、高橋維、森麻季、森谷真理

(メゾ・ソプラノ)
山下牧子

(テノール)
笛田博昭、福井敬、村上敏明、宮里直樹

(バリトン)
大西宇宙、上江隼人、黒田博、須藤慎吾

(バス)
妻屋秀和

 

基本的にソロの部分のみ個々の評論を書いていきますので、重唱については割愛します。
なので、ソロでの出番がなかった歌手についてはちゃんと書けていませんのでご了承ください。
評論に入る前に、司会で喋ってる黒田博氏の喋り声が詰まっていて聞き苦しいのは私だけでしょうか?

 

 

<評論>

テノール:宮里直樹
リゴレット「あれか これか」

宮里氏の声が素晴らしいことは前提として、
この曲を歌うにはスピントに歌い過ぎる。
これについては、最後に市原太郎氏の録音を一番下に張り付けているので、
宮里氏の歌唱と比較して頂くと、圧力過多で押しが強すぎる。という意味が伝わるかと思います。

 

 

 

 

ソプラノ:高橋維
「みんながご存じ」

多くのコロラトゥーラを得意とするソプラノに有り勝ちな、言葉が聴こえない。
中低音が鳴らない。といったことがなかっただけで、日本国内ではトップクラスではないかと思います。
ドニゼッティのブッファ作品を歌うにはテンポ感が重すぎる感じがしないでもありませんでしたし、
発音に対して音色に色彩感が伴っていないという部分は今後の改善点ではないかと思います。
後は、そこまで超高音は出す必要なかったのではないかと・・・

 

 

 

 

バス:妻屋秀和
ロッシーニ「陰口はそよ風のように」

妻屋氏が日本人バスとしては圧倒的な声を持っていることは既に分かっていますが、問題はなぜロッシーニを歌ったのかということ。
ヴェルディのシリアスな曲を歌っても、ロッシーニを歌っても同じような歌い方をするのが個人的にはどうも違和感を感じる。とにかく声が硬い。
そこまで声を集める必要があるのだろうか?と思えてしまう。

 

 

 

バリトン:大西宇宙
ドン・ジョヴァンニ「シャンパンの歌」

この前に詰まった声バリトン黒田博氏が歌っていたことも影響しているのかもしれないが、
大西氏だけ世界で通用する声をしている。
早口でも勢いで声を張り上げているのではなくて余裕がある。
こういうちゃんとした声を聴くと安心する。

 

 

 

ソプラノ:森谷真理
後宮からの誘拐「あらゆる責め苦が」

森谷氏、昔より酷くなった。。。
いきなり出だしから喉がガリガリいってる音がするし、なぜこんな詰めた声になってしまったのか・・・。
中低音は昔から詰まっていたが、高音もなんか変になっている。
ベルクのルルとか声に合わない曲をやり過ぎて声が変になっている気がする。
もう少し自分の声とレパートリーを考えて欲しいものです。
ウィーンに留学していたのだから、モーツァルトこそ高橋維氏に歌って欲しかった。

 

 

 

メゾソプラノ:山下牧子
カルメン「セギディーリャ」

ここまで中低音のドスの効いた声が出せるメゾは日本人にはあまりいないのですが、
そもそもこんな声だったかな。
もっと端正にドイツ物を歌っていた印象があったのですが、
喉がガリガリしてる音が聞こえるし、最後の高音は出てないし、コントラルトになったのか。
全然曲のイメージとも合ってない歌い方でこれはちょっとないかな。

 

 

 

ソプラノ:砂川涼子
カルメン「何を恐れることがありましょう」

魔笛のパミーナは酷いことになっていましたが、こちらは得意にしている曲だけあってまだ良い。
とは言え、やっぱりレガートが甘く弱音で響きが乗らない。
声がミカエラに合っていることから良さそうに聴こえるのですが、歌が上手いのかどうかと言うと個人的には疑問。

 

 

 

 

バリトン:須藤慎吾
カルメン「闘牛士の歌」

ヴェルディなんかを歌っているイメージがあったのですが、中音域より高い音が全て勢いで、
吠えているのに声に芯がなく、伸ばしてる五線の上のFの音が揺れているという残念な状況なのですが、
驚いたことに、低音が良い声!
無理に低い音を鳴らそうとしないと良い声してるんだな。ということを知りました。

 

 

 

ソプラノ:森麻季
コルンゴルト「私に残された幸せ」

最高音のB以外全部変な声な上に、ドイツ語の発音も変なの
と言うか、この部分は重唱である。なぜこんだけテノールが出演するのに、森麻季一人に歌わせるのかも理解不能。
パウールとマリエッタの歌い分けなんて森氏にできる訳もなく、セリフ部分だけをそれっぽく声を作る小賢しさよ。
ただただオケの美しさを台無しにする歌唱が展開された。

 

 

 

本当はこういう曲です。

 

 

テノール:村上敏明
ワーグナー冬の嵐は過ぎ去り

拍の頭に一々アクセントがくるこの歌唱は何なんだろう。
3分に満たないこの曲を聴くだけで喉が痛くなる。
ドイツ語の発音では、̈”ü”がまともにできないという、
高校生合唱コンクールで聴いたマーラーの演奏より発音が悪くて噴き出してしまった。

 

 

 

ソプラノ:小林厚子
ドン・カルロ「泣かないで友よ」

おぉ、やっと声の圧力ではなく、響きで歌える歌手が出てきた。
高音はちょっとアレでしたし、音程が微妙に下がり気味になるところもありましたが、
中音低音のレガートは中々見事で。押してない声を聴くだけで安心します。
後もう少し発音が前に出てくれればかなり良い感じ。

 

 

バリトン:上江隼人
仮面舞踏会「お前こそ心を汚す者」

一方、圧力で押しまくるバリトンの上江氏。
持ってる声は良いんですけど、正直彼はテノールだと思うのです。
でも本日は調子が悪いのか、Gは失敗してましたし、低音も鳴らない。
コレ黒い声とは言いません。国営放送は適当なことを吹聴してはいけない。

 

 

 

デル・モナコすら本当にオテッロを歌う黒い声ではないと言われる程に、黒い声は希少なのである。
黒い声とはこういう人のことを言う

Ramon Vinay

 

 

 

因みに、ドイツの黒い声は指環のハーゲン役を歌うような声のことを言います。

 

 

 

 

 

テノール:福井敬
プッチーニ「星は光りぬ」

もういい加減このお方について書くことがなくなってきたのですが、
この人や村上氏の声を聴いていると、ボロボロなのに人工的なキンキンした、疑似ティンブロ(芯のある響き)が出せるドーピングって凄いなぁ。と現在の医学の発展に思いを馳せるのでありました。
この声は既に人間のものではない。トランスヒューマンの声である。

 

 

テノール:笛田博昭
道化師「衣装を着けろ」

日本人テノールとして仕方ないのかもしれないが、本来は道化師を歌うような声ではない。
それでも、吠えずに自分の声の表現範囲を越えなようにコントロールしていたのは流石。
この辺りは、福井氏や村上氏とは全然違う次元の歌手であるということを印象付けた。

 

 

ソプラノ:大村博美
運命の力「神よ平和を与えたまえ」

発音がちゃんと飛ぶのは流石なのですが、本来リリックな声だったのが、悪い意味で暗く重い、作った感じの声になってしまっていたのが残念。

やはり2018年の声の方が柔軟さがあった。

 

 

 

ソロがなかった石橋栄実氏はちゃんと聴いてみたいと思いました。
ここで聴く限り、森氏より間違えなく上手い。

 

 

 

<全体を通して>

なぜここまで圧力過多な声を押し出すような歌い方をする歌手ばかりなのだろうか?
これ、冗談ではなく、檀ふみの喋り声が殆どの歌手の歌声より心地よかった。
彼女の喋ってる声と、それこそ村上氏や福井氏、森谷氏、森氏などいかに不自然に人工的な響きを作って歌ってるかってのがよくわかるのです。

 

途中で過去の歌手の特集をやってましたが、
市原太郎氏、昔は本当に凄い歌手でした。

こうして聴くと、宮里氏がマントヴァ公爵を歌うには圧力任せで硬過ぎる。というのが分かるのではないかと思います。
ただ高音を輝かしく聴かせる。というだけでなく、その次のステップに宮里氏が進めるのかで、市原太郎や山路芳久レベルに到達できるかが決まる。
まだ若いので、力を抜く方法を模索して欲しいものです。

 

 

 

そして、山路芳久

耳直しありがとうございました!

 

最後に、私事ですが、YOUTUBEチャンネルでも声楽に関する情報を発信しておりますので、
もしよろしければご覧になって頂ければ幸いです。

https://www.youtube.com/user/narisusama/videos

9件のコメント

  • 秘密のあっこちゃん より:

    なんとなく楽しくもないし感動もしませんでした。森谷さんどうしたんだろう?
    やはり私も大西さんが1番余裕で歌われているように思いました
    山路さん市原さんをみられたことは良かったですがかえって今日歌われた方達とのレベルの差を感じました

    • Yuya より:

      秘密のあっこちゃん様

      コメントありがとうございます。
      他の方からも森谷氏の演奏には心配の声が寄せられたのですが。
      正直、5年位前までは夜の女王なんかを得意としていたのに、今では全く違うレパートリー歌ってますから、
      声に合わない曲を歌って喉を酷使した代償が大きいのだと思います。

      確かに山路さん市原さんクラスの歌手が今いるかと言われると難しいところですが、
      海外で活躍している素晴らしい日本人歌手はいますし、
      国内で歌っている歌手でも、あそこに出ていた人達より上手い人は沢山いるので、今の歌手のレベルが低いという訳では必ずしもないですよ。

  • 喜右衛門 より:

    番組の司会で、決して入江さんの声を「黒い声」とは言ってませんでしたよ。
    書かれた文章では誤解があるかもしれませんので改めて訂正します。
    黒田さんは「イタリアで黒い声という表現があるがあるんです。奥行きのある密度の濃い声のことで、ヴェルディを歌える声としての最高の褒め言葉なんです。」と言ってます。(その後に、入江さんが歌ったので、入江さんの声をそう認めているように聞こえますが、、、。)
    確かに私も入江さんの声はヴェルディバリトンの声ではなく、軽くてテノールっぽく思います。

    ちなみに黒田さんはイタリアでアルド・プロッティの過酷なレッスンを受けた弟子です。聞きかじりで言っているわけではないので誤解されませんようにお願いします。黒田さんの声は詰まっているというより、こもった声です。それは本人が意識して、最大限にこもった声を追求しているからたそうです。(本人が舞台で言っていた)

    • Yuya より:

      喜右衛門様

      コメントありがとうございます。
      まず、「入江」ではなく「上江」さんですので訂正させて頂きます。

      「奥行きのある密度の濃い声のことで、ヴェルディを歌える声としての最高の褒め言葉」と言って、ヴェルディのアリアを歌う歌手が登場すれば、
      視聴者は彼がその声だと思わないでしょうか?
      NHKが視聴者に誤解を与えるような表現をされていたので、本当の「黒い声」とは何かを解説したまでです。
      正しく視聴者に伝える意志があるのなら、バスティアニーニやカプッチッリ、それこそプロッティの演奏なんかを流して紹介していたはずです。

      >黒田さんはイタリアでアルド・プロッティの過酷なレッスンを受けた弟子です。
      →それが実力とどう関係するのでしょうか?
       黒田氏はイタリアに2年留学しようですが、あちらで活躍した実績は私が調べた限りありません。
       第一線を退いて指導者としてしか活動していない昔の大歌手は、言い方は悪いですけどお金さへ積めば大抵教えてくれますよ!
       私ですら、デル・モナコの弟子だったアウグスティーニに一回2万払えば教えて貰えましたし。マルティヌッチも3万5千円払えば教えてくれるみたいですから。
       後、私は履歴書を見て演奏を聴いているのではありません。
       独学だろうが、パヴァロッティに習っていようが、メトに出演した実績があろうが、その瞬間にどんな演奏ができるか以外に意味はありません。

      • 喜右衛門 より:

        上江さんでしたか、名前を4度も間違えてすみません。
        う〜ん、そう誤解する可能性があると言えば、ないとは言えませんかね…。仰るように、そこで「かつての名歌手バスティアニーニやカップッチルリのような声ですね。」と例を出して説明しておけば、誤解はなかったかもしれませんね。
        あぁ、かつての大歌手にレッスンを受けたから素晴らしい演奏をするという意味でプロッティを出したわけではなく、黒田さんはイタリアで生活していたから「黒い声」の本場の言葉の意味をわかっているはずだという意図です。訳もわからず司会台本にあったから「黒い声」の話をしたわけでは無いだろうという意味です。
        マルティヌッチが3万5千円で教えてくれるなら1度レッスンを受けてみたいものです。
        あくまでもこちらは御批評なので、賛同し参考になることもあったり、私とは違うなあと感じることもありつつ、いつも読ませていただいてます。ご返信ありがとうございました。

        • Yuya より:

          喜右衛門様

          そういう意味でしたか。
          こちらこそ、正しく文章を理解せずに反論するような形になって申し訳ありません。
          こちらこそ今後ともよろしくお願いします。

          マルティヌッチのレッスンは、伴奏者5千円、当人レッスン3万円だそうですよ。
          まぁ、デヴィーアのような歌手が日本でマスタークラスやった時の通訳と伴奏含めたレッスンが5万近かったのを考えるとマシと言えるのかもしれませんが、
          そんな所に通い続けられる人なんてよほどのお金持ちじゃないと無理なので、若い歌手を金ヅルにせず、ちゃんと教えられる指導者が日本には必要だなとつくづく感じます。

          • 喜右衛門 より:

            賛同!
            一度くらいならレッスン受けられますが、続けては無理ですよね。

  • 喜右衛門 より:

    今年の歌い手の中で良かったのは、大西さん、笛田さん、砂川さん(この批評では甘利褒められてないですけど…)大村さんでした。
    特に大西宇宙さんはとても素晴らしいと思いました。YouTubeなどでの演奏でも見事な歌を聴くことができますし、「題名のない音楽会」でもウエストサイドストーリーのナンバーを歌ってましたが、声の響きも音楽表現も「超素晴らしい」との一言に尽きます。“海外で活躍している”と言えるのはこのような方だと思います。(生では聴いたことがないですけど)
    笛田さんは生で聞くと、凄いボリュームの声で他の方とは別格!しかし、吠えてなくて、柔らかく空間を響かせる。素晴らしい声を持っているだけに、疲れないよう仕事を限定して、声をすり減らさずに適した役で長く活躍してほしいと思います。

    • Yuya より:

      喜右衛門様

      そうですね。
      大西さんは素晴らしいですね。
      高音も無理がなく、それでいて日本人バリトンに有り勝ちな、テノールがバリトンをやっているという感じでも全然なく、
      本当にしっかりしたバリトン歌手です。
      それでいて、レパートリーも広く、歌曲演奏にも熱心でいらっしゃる。
      今年の秋に詩人の恋をやる予定なので楽しみです。

      笛田さんは、日本人離れした声を持っていらっしゃって、昔は高音に命掛けているような、典型的なテノール馬鹿の演奏をしていたのですが、
      最近は発散するだけではない演奏スタイルになりましたよね。ただ、日本では仕方ないのかもしれませんが、重いレパートリーに偏り勝ちな所が気になります。
      フォームを崩さなければ良いのですが・・・。

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