【プチ評論】2022年、年末イタリアとロシアのコンサート比較

イタリアの名門歌劇場
フェニーチェのニューイヤーコンサートの映像がYOUTUBEにアップされていました。

ニューイヤーコンサート2023というタイトルなのですが、
行われたのは2022年12月29日のようです・・・。

一方ロシアでは、12月28日にロッシーニ ガラ・コンサートが行われた模様がYOUTUBEにアップされていましたので、この二つの演奏会を聴いて行きたいと思います。

 

 

New Year’s Concert 2023 in Venice at the Teatro La Fenice

<CAST>

La Fenice Orchestra & Choir
Conductor Daniel Harding
Chorus Master Alfonso Caiani

soprano Federica Lombardi
tenor Freddie De Tommaso

 

 

 

 

 

 

 

Россини-гала

<CAST>

Bariton Vasily Ladyuk
Soprano Anna Aglatova
Tenor Sergey Romanovsky
Mezzo soprano Polina Shamaeva
Bass Nikolay kazansky

 

 

いやぁ、ロシアの低声陣はレベル高いっすねぇ。

ラヂュークは静岡国際オペラコンクールで優勝し、その後も度々来日しているので、
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に良いバリトン歌手です。
強い声ながら、シャープな響きで、重々しさがなく高音も強い。
下手なテノールよりよっぽど素晴らしい高音を出します。

 

 

リムスキー=コルサコフの「サトコ」というオペラのアリアで最高音のAs(五線より上の♭)を出すのですが、その辺りが余裕に出せる。

この演奏は10年近く前のものなので、今はもっと良くなっています。

 

比較する訳ではないのですが、やっぱり先日のNHKニューイヤーの男声陣が全員叫んでいたことに改めてがっかりさせられてしまう。

 

 

 

ロドリーゴの死は、やっぱりこういう長く静かなフレージングの中で、強く深い声を出さないとダメ。
奥行がある声であっても、発音のポイントはどの母音でも前にあってブレがなく、響きが上の前歯~硬口蓋付近にあって全然叫んでいない。

 

 

 

カザンスキーも響きのポイントは立派ですね。

32:00~セビリャの「陰口の歌」を歌っているのですが、

深さと太さのある声でありながらも、前にしっかり芯があって、低い音を歌っても発音が籠らない。
ちょっと鼻の後ろに息を当てるような硬さがあって、高めの音になると鼻っぽいところに入ることがあるのが気になりますが、それでも低音がこれだけクリアに鳴る歌手は希少だと思います。

 

 

 

 

 

一方フェニーチェの方ですが、
Federica Lombardiの声がなんか不健康になっている。

 

以下が2017年のもの

 

 

 

こちらが2022年、(フェニーチェのノルマのアリアは18:35~聴けます)

明らかに響きが全部落ちてしまって喉が鳴っている感じなんですよね。
この症状は、私の経験上ではステロイドを常用した歌手に診られるもので、
日本にも、ニューイヤーに出てた歌手に同様の症状が聴かれる方がいましたね。

2017年の演奏では、癖の強い歌唱ではありましたが、少なくともどういう演奏をしたいかの方向性が見えて、彼女の表現や息遣いが伝わってくる演奏になっていましたが、
今ではこんな不健康な声になってしまって、ポジションだけそれっぽいところで、一瞬深さのある声に聴こえるのですが、響きが落ちて喉だけは鳴るので、低音は太い声が出ても声が飛んでいかないので、発音も不明瞭になってしまうという残念な状態です。

 

 

テノールのFreddie De Tommasoの方はと言うと、
持っている声はコレッリに似て立派なんですが、泣きをわざと入れているのか、技術的な問題で裏返っているのか判断が難しいところはあるものの、母音によって響きの質にバラツキがあるのが気になります。
”i”母音だけはやたら良いポイントに入るんですが、開口母音になると特に響きのポイントが落ちるため、どうしてもレガートの質が落ちる。
フェニーチェのコンサートでは、40:20~辺りからNessun dormaを歌っていますので、
それを聴くと、響きが前に乗っている時と、詰り気味になっている時の違いがよくわかると思います。

 

この映像、蝶々さんを歌っているグリゴリアンが大変素晴らしいので、
弱音になっても、フォルテのような緊張感で声が飛んでいるのがわかると思います。
こういう響きを聴けば、ロンバルディの声を不健康だと書いた理由がわかって頂けるのではないかと思います。

 

Tommasoの母音がブレているためレガートが甘くなっているということについては、
ルチアーノ・ガンチという個人的大変素晴らしい発声技術で歌っていると思うテノールと比較して頂けると、その辺りも体感的に分ると思います。

 

Luciano Ganci

ゆったりしたブレスで、太い声でも、言葉を薄い響きに乗せて喋るような感じ。
こういう演奏が私は好きですし、自然な発声で歌っていると思えるんですよね。

 

と言う訳で、ロシアの歌手は体格と声に恵まれているが、パワーで押し切るようなイメージは過去のことで、今は技術的にもイタリアの歌手に引けを取らない歌手が沢山出て来ているということを改めて感じました。

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