深みと輝かしさを兼ね備えたハイソプラノ Giulia Bolcato

Giulia Bolcato(ジュリア ボルカート)はイタリアのソプラノ歌手。

モンテヴェルディやヘンデルのようなイタリア古典作品から、ハイドンのオラトリオやRシュトラウスのオペラのようなドイツ作品。
更には近現代の作品まで広いレパートリーを持っているようです。

そんな彼女の特筆すべきは輝かしい高音で、
Online Musik Magazinというところでは、輝かしく射貫くような高音を持ったソプラノとして評価されていました。

確かにこの人の高音、私の感覚的にはグルベローヴァに似てる。

ということで、グルベローヴァと同じ曲で演奏を比較してみましょう。

 

アルディーティ  Il bacio

 

 

 

Edita Gruberova

 

 

 

 

グルベローヴァは若い頃は、結構口が横に開いてしまう場面があったんですが、80年代辺りから改善されていたりします。

ボルカートは声だけでなく、口のフォームも改善された後のグルベローヴァに近いものを感じます。

口のフォームは本当に難しいもので、
奥の空間を広くしようとすると舌が力んでしまって、結局の喉が閉まってしまう。

ボルカートやグルベの凄いところは、奥歯の後ろの方まで、正にあくびをするように開いていながら、舌が引っ込まないところ。

こういう口の開け方は果たして表情筋や、顎の下~耳の裏にかけてつながっている顎二腹筋をマッサージしたりすることで誰でも力まずにできるようになるものなのかはわかりませんが、ストレッチすることで改善できることがあるのは間違えありません。

考えてみると声楽の指導現場で、こういった口を開けるための筋肉をどう柔軟にしていくかってことに言及されているのを聞いたことがない。。。

 

 

 

モンテヴェルディ Quel sguardo sdegnosetto

この人の発声は、過度な音圧がなくて、最小限の息の量で効率的に声に変換できていることで、ここまで喉に圧を掛けない脱力した声を出せる歌手は滅多にいないと思います。

こういう演奏を聴いていると、声量なんて正直どうでもよくなってきます。
小さい声でもどこまでもノビていくような澄んだ響きで、体格的に西洋人に太刀打ちできない多くの日本人歌手は、特にこういう歌唱をお手本にすべきなのではないかと思えてしまう。

 

 

ヘンデル Gloria in Excelsis Deo

15分程度の結構長い演奏なのですが、
あまりに素晴らしくて聴き入ってしまいました。

映像でも彼女が歌っている表情や口のフォームがよく見えるので、とても参考になります。

声がずっと軟口蓋に張り付いているかのように、声の太さが均一で(一番最後の曲のアーメンの「メン」だけちょっと崩れる時があるけど微々たる問題)、低音ではとても小さい声にも関わらず弦楽器の上に音が乗ってる感じで、伴奏の上に響きを乗せる感じの歌い方を聞いてると、これこそバロック演奏の理想形だなと思えてしまう。

14:27~フィナーレの華やかなセクションになるのですが、
ここが特に圧巻で、表情を見ていても、頬筋を吊り上げたり、ブレスの時に喉や肩が動いたり一切しない。
下半身や横隔膜の辺りを見ても、決して大きな圧力を掛けている感じもなく、
ただただブレスコントロールの絶妙さに圧倒されます。

強烈な個性のある演奏をする人ではないので、
将来的にスター歌手と呼ばれるかはわかりませんが、
発声技術的にはここまで完成されている人は現代ほとんどいないのではないかと思いました。

今後の彼女の活動には特に注目していきたいと思います。

 

 

 

4件のコメント

  • 杉田輝夫 より:

    随分喉声が強い浅い響きの声ですね!
    まるっきり上に響きが抜けない!
    グルベローヴァと比較するのはいかがなものと思いますが?

    • Yuya より:

      杉田輝夫様

      >喉声が強い浅い響きの声
      →では、杉田さんが良いと思う深い響きの声で、現在活躍している若手歌手を教えてください。
       わざわざこのような書き込みをされるのですから、当然優れた歌手をご存じなのでしょう。

      >グルベローヴァと比較するのはいかがなものと思いますが?
      →どんな問題があるのでしょうか?
       スポーツでは若い有望な選手を名選手と比較することなんて日常的に行われてますし、
       それこそフォームの類似点を挙げることに何の問題があるのかわかりませんので、どのような問題があるか御指南いただけますか?

  • 小川元子 より:

    素晴らしいご投稿ありがとうございました。
    私もこの方はグルベローヴァさんと並んで然り、コロラトゥーラが目指す技量はトップクラスかと思いました。ご紹介ありがとうございました。
    トゥーランドットやマクベス夫人、ミミ、伯爵夫人のような太く深いビブラート辺りをオペラ歌手と思い込んでいる方は、コロラトゥーラがどのように苦労しているか知るのにかなり時間がかかると思います。
    逆に喉声に聴こえるというのは、無駄な息漏れが無い褒め言葉かもしれませんね。例えば最後の黄金期コロラトゥーラ、ご健在のマルゲリータ·グリエルミさん(オスカル、ルチア他)は素晴らしい艶の声です。
    これからも時々拝見致します。頑張ってください♪♪

    • Yuya より:

      小川元子様

      励ましのコメントありがとうございます。
      音楽はスポーツと違って数字で優劣をつけられませんから、どうしても客観的に歌唱を評価しようとすれば、
      楽譜通りに歌っているかくらいしかなくなりますが、
      だからと言ってボーカロイドが歴代の名歌手より優れていると言う人は絶対にいませんから、
      どのような演奏が上手いと言えるのか、良い声と言えるのか、といった部分を少しでも伝えられればと思って記事を書いています。

      だからこそ、自分が好きな演奏と、技術的に優れた演奏をなるべく区別していますが、それでも主観的になってしまうのはどうしようもありませんので、最後は読者の方が色々な演奏を聴いて判断して頂ければと思っています。
      私の意見に共感できなくても、色々な歌手の演奏を聴くきっかけになれば良いのですけどね。

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