ルーマニアの至宝Sylvia Greenberg は多くの日本人ソプラノの教科書だ!

Sylvia Greenberg(シルヴィア グリーンベルグ(グリーンバーグ))は1955年ルーマニア生まれのソプラノ歌手。

無茶苦茶軽い声でコロラトゥーラを得意とする、日本人に多いタイプのソプラノがこのグリーンベルグ。
この人の響きが特徴的で、全て頬っぺたのの後ろで鳴っているような、
やや奥まった感じではあるものの、どんな音域を歌っても全く喉に負荷がかかっていないのがわかるような角のない丸さがあります。

 

 

 

モーツァルト コンサートアリア No che non sei capace

コロラトゥーラの名手として有名なアジア人といえばジョーでしょう。

 

 

 

Sumi Jo

 

ジョーは録音でグリーンベルグは難しい箇所のリピートなしで歌っているとは言えライヴです。
それにも関わらず、明らかにジョーの方がやや喉声になってしまっています。
矛盾しているように聴こえるかもしれませんが、高い響きで歌うためには、高いポジションを狙ってはいけないということ。

「頭のてっぺんに抜けるように」とか、
「額に響かせて」とか言う方がいるのですが、グリーンベルグの声はどこに響いているでしょうか?
頭のてっぺんでもなければおでこでもなく、勿論鼻先でもありません。
今度は超絶技巧ではないものを聴いてみましょう

 

 

 

オルフ カルミ・ナブラーナ ’In Trutina’ and ‘Dulcissime’

最初の深みのある中音域、「Dulcissime」の柔らかさのある高音、
どれもピアニッシモの表現として理想的で、欧米人に比べて体格で劣る日本人が、世界で通用する歌を歌うために最も身に着けるべき技術がこの演奏に凝縮されているように思います。
中でも映像冒頭の「In Trutina」の響き。
細い声でありながら、大気に解けるような広がりで、 音程の跳躍でも角が立たない洗練されたレガートは何を歌うにしても必要な技術です。
何かと発声の良し悪しを論ずる時、高音が楽に出るかどうかが焦点になり勝ちですが、何を歌うにしても避けて通れないのは中低音であり、誰でも当たり前に出せる音をどれほど洗練させられるかにこそ、本来は焦点を持っていくべきなのではないでしょうか?

 

 

 

 

Jシュトラウス Frühlingsstimmen

さて、この曲では今までと明らかに声が違います。
オペレッタ用に完全に歌い方を変えているのです。
映他の演奏と違うところを挙げる。

◆響き
頬っぺた、あるいは鼻の後ろ辺りで安定したものが、
ここではもっと前にきて、明るく言葉も明瞭になった分、深みがなく、やや角の立つものになり、時々鼻に入ることもある。

◆口のフォーム
縦に開けていたものが、横にの要素が強くなり、
上の前歯も見えている部分が多くなった。
と言うより、ずっと白い歯を見せて歌っています。
大体の日本人ソプラノはこのフォームに近いかたちで歌っていると言っても良いかもしれません。

 

「口を横に開けるな、縦に開けろ!」
というのははっきり言ってアマチュア合唱団の指導ですら当たり前のように言われることですが、なぜこれがプロでも中々実践できないのでしょうか?

思うに、
例えば野球で、投手なら
「上体ではなく下半身主導で腕を振れ!」とか
打者なら「肩を開かないように軸足の回転でバットを振れ」とか解説者が言いますが、
彼等プロ野球選手は毎日のように自分のフォームのチェック、加齢によって変化した身体へのアジャストを試行錯誤している訳です。
その結果足りない筋肉を補うトレーニングをしたり、プロテインの知識を得たり、食事に気を使ったり色々対策をしているのですが、
それでも野球に多少詳しい人ならわかる程度の癖が治せなかったりするのです。

果たして日本で活躍している声楽家のどれほどの人が、自分のフォームに日々気を配っているでしょうか?
因みに、パヴァロッティですら専属のボイストレーナーがいたことを考えれば、それほど歌唱フォームは崩れ易いものであることがよくわかります。

 

 

 

 

 

 

モーツァルト 後宮からの誘拐 Martern aller Arten

話をグリーンベルグに戻しまして、
やっぱり「春の声」を歌った時とは全然違う声です。
これで、ドイツ語だからイタリア語やラテン語とは違う声になっている訳ではないこともはっきりしました。
しかし、一方でイタリア語やラテン語より、ドイツ語の方がもっと顔の前面の響きが強いです。

こうして聴いてみれば、言語や歌う演目に寄っても響きのポイントを微調整しているのがわかります。

このようにグリーンベルグは圧倒的な声量や、とてつもない美声という訳ではありませんが、研ぎ澄まされた技術と知性で一流歌手となりました。
それも、ただ超絶技巧を売りにして、超高音で喝采を集めるタイプではなく、高音を出さなくても魅力的な旋律を歌い上げることができる。
これほど同じ声質の声楽学習者にとって教科書としてうってつけの歌手はそうはいないのではないでしょうか。

それ程大劇場を席巻して名声を世界中に轟かせた歌手ではないかもしれませんし、CDなどへの録音もあまりありません。
それに加えてYOUTUBEにもこれ以外ほぼ音源が落ちていないのですが、それでも少ない映像や音源から聴けるグリーンバーグの演奏は間違えなく一流歌手のそれだと言えます。

 

 

 

CD

 


 

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