若くして完成された声を持つテノールPavel Petrov

Pavel Petrov(パヴェル ペトロフ)はベラルーシのテノール歌手。

 

まだ20代半ばながらも完成度の高いリリコレッジェーロテノールとして活躍しており、熱量の高い美声でありながらも、全く勢いだけで歌うわけではなく、技術と理性をもってしっかりコントロールされた歌唱をすること。
そして輝かしい高音だけでなく、低音も決して雑にならず、美しい響きを維持できることからも声が良いだけのテノールとは一線を画していると言えるでしょう。

 

 

 

ロッシーニ スターバトマーテル Cujus animam

 

この人の声は、ラテン系の歌手のような熱っぽさがありながらも感情が先走ることなく、非常に冷静で理性的な歌唱ができる技術があります。
そして、こういう軽い声の歌手にとって低音は鳴り難いものですが、中低音の響きも輝きがあり、弱音でも響きの質が変わらず前に飛んでいます。
最後のハイCisにも余裕があり、それでいて誇張することもなく淡々と歌う辺りが素晴らしいです。

あえて言えば、冷静に歌い過ぎていて、あまり言葉の意味に即した子音のスピード感や音色になっていない部分については、今後磨いていって欲しい部分になるでしょうか。

具体的に例を挙げると

Quae maerebat et dolebat et tremebat dum videbat nati poenas inclyti
(そして歎き、悲しみ、震えるその子が罰を受けるのを目にしながら)

という歌詞が繰り返される3:08~
単純に語尾の”t”が飛んでいないとかいう問題ではなく、
「dolebat 悲しみ」とか「tremebat 震え」という言葉は子音の扱い方で色を出さないといけない。

 

 

 

 

グリーグ Ein Traum

 

【歌詞】

Mir träumte einst ein schöner Traum:
Mich liebte eine blonde Maid;
Es war am grünen Waldesraum,
Es war zur warmen Frühlingszeit:

Die Knospe sprang,der Waldbach schwoll,
Fern aus dem Dorfe scholl Geläut –
Wir waren ganzer Wonne voll,
Versunken ganz in Seligkeit.

Und schöner noch als einst der Traum
Begab es sich in Wirklichkeit –
Es war am grünen Waldesraum,
Es war zur warmen Frühlingszeit:

Der Waldbach schwoll,die Knospe sprang,
Geläut erscholl vom Dorfe her –
Ich hielt dich fest,ich hielt dich lang
Und lasse dich nun nimmermehr!

O frühlingsgrüner Waldesraum!
Du lebst in mir durch alle Zeit –
Dort ward die Wirklichkeit zum Traum,
Dort ward der Traum zur Wirklichkeit!

 

 

【日本語訳】

ある時ぼくは夢を見た とても美しい夢を
ぼくを愛してくれたんだ ひとりのブロンドの娘が
それは緑の森の中だった
それは暖かな春の時だった

つぼみが開き 森の小川は水かさを増し
遠くの村では鐘が鳴っていた
ぼくたちはとても満ち足りて
幸せ一杯の気持ちに浸っていた

そんな昔の夢よりも素晴らしことが
現実となったのだ
それは緑の森の中だった
それは暖かな春の時だった

森の小川は水かさを増し つぼみは開き
鐘が遠くの村から響いていた
ぼくは君を固く抱いた、君をずっと抱いた
そして君を決して離さない!

おお、春の緑あふれる森の広がりよ!
君はぼくの中でいつまでもずっと生き続けるだろう
そこでは現実が夢となり
そこでは夢が現実となったのだ!

 

リートを聴くと、一層子音の扱いには課題が多いことがわかりますね。
曲が曲だけに、声が良ければそれなりに上手く聴こえるんですけど、それじゃぁリートをあえて歌う意味がありません。
何と言っても、”ö”が正しく発音できておらず、ただの”o”のように聴こえるのはまずい。
更に”ü”も”u”のように聴こえる。ということはウムラウトがちゃんと発音できないという決定的な問題があるということではないか!
その他細々書くとそれだけで文字数がかさむので、このくらいにしておきますが、
ペトロフは声も技術も、フレージングのセンスも持っているのですが、言葉に対する感覚が欠けていると言えるかもしれません。

 

 

 

チャイコフスキー エフゲニー・オネーギン Kuda, kuda vy udalilis・・・
プッチーニ ラ・ボエーム Che gelida manina

出だしの「kuda」の”da”が開けっ広げに明る過ぎて曲と音色が全然合っていない。
ボエームにしても、声とアリアの相性はとても良いのに、テンポが速すぎたり、音楽が淡泊過ぎる、要するに長短アクセントが全然出ていないので、音楽が流れてしまって声は良いのに物足りなさを感じてしまう。
歌が下手な訳ではないのですが、一言で言えば勉強不足な歌なのがすぐ分かってしまうところが勿体ない。

まだ20代なので、伸びしろは当然まだまだあるので期待はできますが、
声の問題以上に、感覚の面は簡単には変われない部分でもあるので、今後も声は良いのに勿体ない歌手になってしまわないか心配でもあります。

 

 

 

 

ヴェルディ 椿姫 Libiamo ne’ lieti calici
ソプラノ Julia Lezhneva、Ekaterina Semenchuk

重唱ではありますが、これまでの演奏に比べればこちらは素晴らしいです。
この曲はいい加減に歌う。という言い方をしたら失礼ですが、これほど丁寧に歌われる演奏はなかなかないと思います。
ペトロフは間違えなく素晴らしい素質を持ったテノールなので、今後もこういう演奏を聴かせてほしいと思います。
まだYOUTUBE上に音源が少ないですが、華もありますし、近い内に大きな舞台で活躍することでしょう。

 

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