イタリア語の美しさが際立つソプラノDaria Masiero

Daria Masiero(ダリア マシエーロ)はイタリア

ヴィヴァルディ音楽院でチェロと声楽を学び、2005年にスカラ座研修所でフレーニに師事し2000年にカルーソー声楽コンクールで優勝。
というイタリアオペラのエリートコースとも言えるキャリアを築いてきたのがマシエーロ。
ですが、個人的に彼女の歌唱は、フレーニよりも、ヴィヴァルディ音楽院時代に師事していたという、Rita Orlandi Malaspinaという歌手に近いと思います。

 

 

Rita Orlandi Malaspina

1937~2017
恥ずかしながらこの人の歌唱は聴いたことがありませんでしたが、
明るい響きと柔らかい母音で、イタリア語の美しさが中低音ほど際立ちます。
個人的な好みとして、フレーニより好きです。

それはさておきマシエーロの歌唱は、オルランディ・マラスピーナの声の特徴をそのまま受け継いだような歌唱をしています。

 

 

 

2005年、BBC Cardiff Singers of the Worldでファイナリストになった時の演奏

2005年なので、これが音楽院を卒業してすぐの演奏ということになりますが、
とんでもなく上手いですね。
なぜこれで優勝ではなくファイナリストなのか謎です。

なお、この年の優勝者はNicole Cabellでした。

 

 

 

Nicole Cabell

 

 

 

同じコンクール内ではありませんが、ちょうど同じ曲の音源がありましたので、比較してみましょう。

 

 

 

モーツァルト フィガロの結婚 Dove sono

Nicole Cabellは、しっかり発音しようとすることで母音が硬くなり、
随所で不要なアクセントがついて、声が割れてしまっていますが、
Daria MASIEROは母音に柔らかさがあり、不自然なアクセントや息を必要以上にぶつけたような、暴力的な声になることがありません。
ディナーミクや、言葉の音色に関してはまだまだ深堀していかなかればいけない部分が多々ありますが、若い歌手が技巧に走っても良いことはほとんどないので、これくらい真っすぐ歌ってくれると気持ちが良いものですね。

 

 

 

 

プッチーニ 蝶々夫人 Un bel dì vedremo

 

https://www.youtube.com/watch?v=6h5ZjGPWNGI

出だしの音がちょうどパッサージョということもあって、F~Gは奥に入ってしまう感じはありますが、それでも表現が本当に素晴らしいです。
技術的にはもっとピアノで歌って欲しいところとか、パッサージョ付近の特に”i”母音が、”e”に近すぎて違う母音に聴こえてしまうほどである・・・とか、突っ込めるところはあるので完璧な演奏と言うつもりはありませんが、それらを差し引いても役柄の感情が流れ込んでくるかのような表現には圧倒されるものがあります。

頭で理解している正しい発音とかリズムとかではなくて、もっと感情と直結した音色や微妙な間の感じかたは、やっぱり語るように歌えているからこそ可能な表現でなのでしょう。

 

 

 

 

 

 

2019年の演奏会の断片的な映像ではありますが、
これが一番アップされていりう中で最近の演奏になります。

トスティの歌曲を最初歌っていますが、フォームといい呼吸といい、本当に上手い!
力んで硬くなることがなくて、常に身体が開いた状態で歌えている。
というのは、まさに彼女のような歌手の状態を言うのでしょう。

口だけでなく、顔の表情も、肩から下の使い方も、緊張する瞬間が全然ない。
マシエーロの声や歌唱が好きかどうかは好みが分かれる部分かもしれませんが、
歌唱フォームということに限れば理想的だと私は思います。

例えば、最近で最も発声的に完成されているイタリア人のソプラノと言えば、
フリットーリの名前が挙がると思いますが、
彼女と比較すると、マシエーロの優れている部分と、課題が見えてきます。

 

 

 

MILLEPORTE

 

 

 

Barbara Frittoli

曲はフィガロの結婚の伯爵夫人のアリア。
流石に響きのポインがマシエーロより前で明るく、より発音が明確なのですが、
一方で母音がマシエーロより硬いように感じますし、開放感でもマシエーロの方が方や胸の辺りが脱力して開いている感じがします。

この違いが何か考えた時、
フリットーリは最小限の息の量で、全て無駄なく声として出力されているのに対して、
マシエーロはパッサージョ付近で必要以上に息を吐き過ぎて太くなってしまったりするため、音域によって響きが奥に行ってしまって母音の質が変わってしまう。
私の感覚としてはこんな感じで予想していますが、あくまで私個人の感覚であり、正しいかどうかを確認するすべもないので、読者の方はあまり真に受けないでいただきたいのですが・・・。

 

 

 

 

プッチーニ 蝶々夫人 Tu! Tu! Tu!

 

2019年11月、ヴェローナでの蝶々さんの演奏なのですが、
この演奏は正直蝶々さんと言うよりトゥーランドット姫。
ここまで劇的に歌わなくても、マシエーロの声ならもっと楽に歌えるだろうに勿体ない。
こういうのを聴くと、マシエーロの課題は感情が高まっても頭の片隅には冷静さをもってブレスコントロールできるようにすること。かもしれません。

イタリア国内では大きな劇場で歌っているようですが、国外ではあまり歌っていなさそうなので、今後日本に来るかどうかは微妙なところではありますが、
まだ年齢的には40前後でしょうから、リリコスピント~ドラマティコのソプラノとして、今後の活躍が期待大なのは間違えありません。

 

8件のコメント

  • さくら より:

    こんにちは。いつも楽しく読んでいます。
    私は趣味で声楽を初めて1年くらいの者なのですが、声楽的に良い声とはどんなものなのだろうと色々調べてみるうちにこのサイトにたどり着きました。

    Yuyaさんの評論を読んでみて、動画で聞いてみて…としているのですが、いまいち私には良い悪いが分かりません(^-^; まだ聞きなれていないから仕方ないとは思うのですが、色々聞いてみたり自分で歌ってみたりしているとそのうち分かるようになるでしょうか??

    お暇な時にでもご返信いただけるとありがたいです。

    • Yuya より:

      さくらさん

      メッセージ頂きありがとうございます。
      「声楽的に良い声」についてということで、
      こんなことを書いたら元も子もないかもしれませんが、
      そんなものは存在しない。というのが私の意見です。

      どういうことかと言いますと、
      例えばイタリアのベルカントオペラといわれるロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティの全盛期のテノール歌手は、
      今のように力強い高音ではなく、ファルセットに近い声で歌っていたと言われており、
      初めて力強い高音で歌ったテノール歌手をロッシーニは酷評しています。

      つまり、声楽的に正しい声でロッシーニ以前の音楽を歌うならば、
      プッチーニのようなヴェリズモオペラを歌うのと同じような声でロッシーニ以前の作品を歌うことは間違えになってしまいますが、
      現代のテノール歌手がモーツァルトと近現代の作品で全く違う歌唱法をするなんてことはありませんよね。

      これは一つの例ですが、
      カルーソーやカラスといった影響力の大きな歌手が現れる度に、聴衆の趣向がかわったり、
      あるいは演奏様式によって同じ作品でも合う歌い方というのは違ってきますから、
      絶対的に正しい歌唱法というものは存在しないと言って良いと思っています。

      声楽を初めて1年ということで、漠然とした良い声を求めるのではなく、
      自分自身がどんな声で、どんな歌を歌いたいのかを習っている先生と相談しながら追い求めていく方が有意義に声楽を学ぶことができます。
      これは間違えありません。

      さくらさん自身のやりたい音楽が見えてくると、演奏の好き嫌いがはっきりしてきて、その延長線上で漠然とした好き嫌いに自分なりの理由を見いだせた時に、演奏の良し悪しがご自身の中で見えてくるのではないでしょうか?

      私が褒めてる歌手が下手だと思っても、何も問題ありませんし、
      逆も然りです!
      あくまで色々な歌手を知るきっかけとして役立てて頂ければ幸いです。

      • さくら より:

        Yuyaさん

        返信ありがとうございます。声楽の動画を色々調べていると、野太いこもっているような声で歌っている方がけっこう多く、こういう歌い方がスタンダードなのかしら私はあんまり好きじゃないなぁとちょっと困っていたのですが、Yuyaさんのご意見が聞けてすっきりしました。自分の声と相談しつつ良い歌が歌えるように練習していこうと思います。といってもコロナでレッスンはなくなって、自粛で家で1人になる時が減ってしまったのでなかなか練習もできないのですが…(^-^;

        私はチェチーリアバルトリが大好きなのですが、彼女も影響力が大きな歌手だったりするのでしょうか?なんか彼女はとてもすごい気がします。人間ってこんなにアジリタできるんだと驚きました。

        Yuyaさんがブログで歌手を色々紹介してくれているおかげでとても動画が調べてやすくて助かっています。歌うまいなぁと思った歌手がいたんですが、名前が読めなくてすっかり忘れていたところ、その歌手がサビーヌドゥヴィエルという人だと分かったのでとても助かりました!

        • Yuya より:

          さくらさん

          この自粛狂騒曲で音楽活動が全くできないのは皆同じなんですね。
          早く伸び伸び歌えるようになりたいものです。

          さてバルトリですが、彼女は10数年前に大ブレークして世界的に最も有名なメゾソプラノと言える歌手になりました。
          でも、飛行機嫌いな上に、大劇場で歌うのは自分の声に向いてないと考えていたようで、最近はそこまで目立つ活動はしてないかもしれません。
          その上、歌っている曲もマニアックなイタリアバロック物が多かったりと、一般的なスター歌手とはちょっとタイプが違うかもしれませんね。

          バルトリの声は特殊なので、例えばロッシーニを歌うにしてもご自身が歌う参考にするのはあまり向かないかもしれません。
          彼女の歌唱は生まれ持った才能と、先生(バルトリの母親)による彼女に合った訓練の賜物だと思いますので、
          あの歌唱は一世一代の曲芸といった感じがします。

          ドゥヴィエルは理想的な歌い方をしていると思いますよ!
          若い時のネトレプコより全然上手いと思うんですけど、なぜ日本ではそこまで人気が出ないのか不思議です。

          一般的にオペラっぽい声と思われる声がお好きではない。というように読み取れたのですが、
          声楽に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょう?

          私は入り口が合唱だったので、ドラマティックな作品、
          ヴェルディ、プッチーニ、ワーグナー・・・といったものは声楽を始めたばかりの頃苦手でした。

          • さくら より:

            Yuyaさん

            コロナ、なかなか長引きそうでもありますね。隙をついて歌わねば…

            バルトリさん、飛行機苦手なんですか、面白いですね。マイナーなバロック物を開拓したことでより個性が輝いてるような気もします。聞いていてとても楽しい気持ちになるので大好きです!ドゥヴィエルさんはあまり日本では人気ないんですか、意外です。あの手の高い声は日本人受けもけっこういいんじゃないかしら…とおもいますがねぇ。

            小1の時の音楽の授業で合唱っぽい歌い方で先生が歌うので、それを真似したのが最初のきっかけですね!声が高い方なので頭声やら裏声やらで声楽っぽく歌うのが得意だったようです。それで紆余曲折あり、中学校か高校の時に夜の女王のアリアを初めて聞いて、こんな歌い方もあるんだと(オペラは太い声で、ロングトーンでゆったりと歌ってるイメージでした)めちゃくちゃ感動したのがきっかけでコロラトゥーラソプラノの曲を色々と聞くようになりました。聞くより歌いたい!ってなったのですが、通える距離に教室がなく…なんとか大学に入ってから声楽を習えるようになった次第です。それから良い声とは何ぞや?とさらに色々曲を聞いてみるようになりました。それで、「けっこう太い声が多いぞ、こういう声の方がいいのかしら」とか、「太い軽いは声質の差だから、別の視点で良い悪いが決まるんじゃないかしら」とか悩んでおりました。好みがコロラトゥーラソプラノだったので、太めの声に慣れていないのも原因かしらと思います。それじゃあ、耳を肥やすためにとりあえず色々聞いてみるかと思ったのですが、太い声の良さはイマイチぴんとこないし、聞くより歌いたいしで、なかなか肥える気配もございません(笑)

            特にディアナ・ダムラウの声が好きです。この方の夜の女王のアリアを聞いて完全にハマりました。オリー伯爵のアデル役で歌ってるのもとても好きで、私の1番好きな声です!でも、椿姫はあんまり合ってないのかな?と思います。なんとなく声が太いというか、無理してる感があるような気がして…

          • Yuya より:

            さくらさん

            詳細を教えて頂きありがとうございます。
            まるで専門に声楽を勉強されているかのように真剣に考えていらっしゃるので驚きました!

            やっぱり自分と似たような声に興味を持ってしまいますし、逆に逆立ちしても出せないような声は中々とっつきにくいですよね。
            特に、聴く専門ではなく、ご自身も歌うとなれば尚更でしょう。

            推察するに、さくらさんが求めている「いい声」は、
            ご自身が演奏する立場での理想形。
            「こういう風に歌えるようになりたい。」
            「頑張ればこういう曲が歌えるかもしれない。」
            という方向の延長線上にいる歌手になってしまうのだと思いますよ。
            でも、それは全然悪いことではありませんし、声も好みも変わっていきますから、
            無理に好きになれない歌手を聴く必要はないと思います。

            後、ダムラウの声に関しての感覚は正しいですよ!
            間違えなく椿姫は合っていません。
            と言うより、最近は明らかに太い声になってしまっていますね。
            合わないレパートリーを歌い続けると、どうしても声を消耗してしまいますし、
            更に悪いことに、ステロイドなどを使って無理やり声を維持していると、本来持っている自然な響きが失われて、
            どこか不健康で不自然な声になってしまうんですよね。
            彼女に関しては、私も過去の記事に書きました通り、全く同じ意見です。

            最後に、少し説教くさくなりますが、
            『コロラトゥーラソプラノ』という声種は存在しません。
            私もイタリアへ留学していた方から注意されたのですが、『コロラトゥーラ』は技術であって、
            声の高さや質を表す言葉ではないので不適切なのだそうですよ。
            一般的には通じてしまうので問題ないのですが、予備知識として書かせて頂きました。

  • さくら より:

    Yuyaさん

    すみません、すっかり返信が遅れてしまいました。

    確かに私は、色々な歌手の歌声を通して自分の理想の声を模索しているように思います!気に入った声の方を中心に聞いてみて、耳を肥やして、理想的な歌を歌えるように頑張りたいと思います。長々コメントしてしまいましたが、アドバイスなどなど本当にありがとうございます。

    ダムラウさんを知っている人が周囲にいないので、意見が合う方を見つけることができてとても嬉しいです。彼女の若い頃は本当に美声なので、だいぶん勿体なく思います。コロナで中止になってしまいましたが、名古屋でダムラウさんのコンサートがある予定でした。その演目ににノルマがあったので、やっぱりそういう路線でいくのかもしれませんね。

    ネットでコロラトゥーラやらレッジェーロやら書いていて、皆適当に使い分けてるのかしらと思ったのですが、ちゃんと使い分けがあるのですね。なかなか知識を身につける場もないので、お教えいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます。

    がっつり声楽の勉強がしてみたいと思っていたりするので(なかなか難しいですが)、音大の声楽科で学んでいる人には憧れがあったりします。やっぱり知識量も豊富ですし。yuyaさんのブログには色々ためになることが書いているので本当にありがたいです!

    • Yuya より:

      さくらさん

      名古屋にお住まいなんですね。
      もし興味があればとても信頼できる指導者をご紹介することはできますよ。
      声種がメゾなので、さくらさんの声質とは違いますが、もし興味があれば「お問い合わせ」フォームからご連絡頂ければ詳細情報をお知らせ致します。

      周りにダムラウを知ってる方がいないとは・・・時代を感じてしまいます。
      私が大学生の時は、ナタリー・デセイとディアーナ・ダムラウが双璧で、
      他の歌手は知らないみたいな感じの人はいましたが、
      今は皆が知ってる歌手といったら誰になるのでしょうか?

      音大の声楽科では残念ながらガッツリ声楽の勉強はできませんよ。
      まず問題なのは解剖学的に声を学ぶ授業がないことで、
      運よく合う先生に出会えれば報われますが、
      感覚的な指導しかできない先生に当たってしまい、その感覚が自分に合わない場合は悪夢です。

      それでも理論的に身体の動きがわかっていると、感覚的な指導でも自分の言葉に変換することができるようになりますので、
      その一助となればと思って記事を書いています。
      鑑賞が趣味の方に色々な歌手を紹介したいのは勿論ですが、
      さくらさんのような歌をやっている方に役立つ記事を書くことが目標なので、そのように言って頂けてとても励みになります。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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