名テノール フランシスコ アライサ 日本でのリサイタル映像3連発!!

Francisco Araiza(フランシスコ アライサ) については、日本語のwikiもあるので、
経歴などはコチラを参照頂くのっが早いかと思います。

1980年代~90年代に比較的頻繁に来日してリサイタルを行っていたようで、
1986年に来日した時の水車小屋の断片的な映像は昔からあったのですが、
先日、歌曲ではなくアリアリサイタルの映像がYOUTUBEにあがりました。

 

 

 

1992年サントリーホールでのリサイタル

 

1曲目から、モーツァルトのイドメネオのアリアを見事に歌っている!
モーツァルトのテノールアリアとしては厚いオーケストラ伴奏な上に超絶技巧を必要とする難曲で、ロッシーニのアリアのような超高音を必要としない分、逆に軽過ぎる声だと役に合わず、重い声だとモーツァルトの音楽に聴こえないという・・・、
単純に音を歌うだけでも難しいですが、求められる声も加味すると、技巧が得意なだけで上手く歌えるアリアではないのがこの曲の大変なところです。

そんなアリアを出てき一発目に易々と歌ってしまうアライサはやっぱり一流のテノールです。

その後は次々と本来はスピント~ドラマティックテノールが歌うようなアリアを歌っていくのですが、魔弾の射手、アイーダ、カルメン、アンドレア・シェニエ、といったアリアが、
愛の妙薬や、最後に歌うリゴレットのアリアと同じように違和感なく、声を作らず歌えてしまうところに彼の賢さがあると思います。

アンドレア・シェニエやマノン・レスコーのアリアは、どうしたって音楽に声が影響されて劇的な表現をしたくなってしまうものですが、自分の声の限界を超えない範囲でしっかりコントロールして歌える。
魔弾の射手でも、ドイツ語の発音のポイントは抑えながらも決して硬い響きにはならない。

アライサの声に関しては、ファルセットと実声の境界線がないような軽い声にも関わらず、暗めの深い響きがあって、カラっと抜けるような響きではないものの、決して籠っている訳ではない。

好き嫌いが分かれる特殊な声と言えなくもないですが、
個人的にこのキンキンしない声は、イタリアオペラより、歌曲でこそ良さが出ると考え得います。

 

 

 

 

1988年 サントリーホールでのリーダーアーベント

テノールが歌うシューマンの「詩人の恋」と言えば、
フリッツ ヴンダーリヒの演奏が鉄板ですが、アライサの演奏も名演と名高く、この演奏も素晴らしいですね。

ヴンダーリヒの録音の最大の欠点は良いリート伴奏者に恵まれなかったこと!
それに比べて、この演奏でも伴奏を勤めているアーウィン・ゲージは歌曲伴奏の大御所と言っても良いほど優れた伴奏者ですから、純粋な歌手の声だけではなく、
絶妙な呼吸、間の取り方が歌とピアノでリンクする様は聴いていて本当に心地よいです。

日本語字幕が出るので、この映像は是非堪能して頂きたいのですが、
どんな早口になっても一つ一つの言葉に表情があって、
逆に遅いテンポでは、間延びせずに呼吸と連動した繊細なディナーミクを自在に操ることができる。
これは歌と伴奏の技術だけでなく、双方でやりたい音楽が明確に共有できていないとこうはなりません。

歌唱のことについてもう少し詳しく書くと、
アライサのドイツ物の歌唱は、母音の扱いが非常に丁寧で明確であることが特に優れた点ではないかと思います。

ドイツ語の歌をやると、100人習ったら99人の声楽教師は、まず子音の扱いの重要性について指導されることでしょう。
しかし、アライサの演奏を聴いてもそこまで強い子音は聴こえてこないにも関わらず、発音は明確で違和感がありません。

例えば、リートを得意とするテノールの大御所として最も有名なのがシュライアー

 

 

 

Peter Schreier

一番比較して違いが分かるのは、3曲目の
「Die Rose,Die Lilie,Die Taube」でしょうか

アライサ(1:06~1:43)
シュライアー(2:46~3:15)

シュライアーの演奏は、確かに言葉は明確なのですが、ただの早口にしか聞こえませんし、一つ一つの言葉に色がないのです。
これは単純にシュライアーの歌っているテンポが速いからではなく、音価の中で維持できている母音の長さが決定的に違うことが大きいです。

例えば無声子音で表情をつけようとすると、不自然に暴力的な音になったり、ゆっくり発音すると音の出だしが決まらず、リズムが遅れて聴こえたりとしてしまうようなことになってしまうため、結局音に表情を付けるの役割の大半を母音が担っているのです。

母音を長く維持することでブツブツ音節ごとに細切れに聴こえるのではなく、単語、あるいはフレーズとして歌詞が聞き手に認識できるようになりる。だからレガートで歌うことが重要になってくる訳です。

そんな訳で、アライサは、子音が多いドイツ語であっても、理想的なレガートで歌えている。
と言い換えることもできます。

 

 

 

 

1990年 サントリーホールでのリーダーアーベント

こちらでは、珍しくシューベルトの魔王を歌ってます。
アライサの魔王は初めて聴きました、魔王が凄い優しそうであまり怖くない(笑)

この演奏会は彩り豊かです。
モーツァルトからシューベルト、シューマン、リスト、シュトラウス、チェイコフスキー、ラフマニノフ、トスティ、スペインの作曲家オブラドルス、ポンセ

トスティは、普段オペラしか歌わないような歌手が喉を温めるためか、アンコールでとりあえず歌うといった感じで扱われることが多く、歌曲を本当に上手く歌える歌手が演奏会で取り上げるのはあまり見たことがありません。
それだけに、トスティの歌曲は色々趣向を凝らしたものになっていて、個人的には新鮮でした。

現代では特に幅広いレパートリーを誇る歌手は沢山いますが、
アライサのように、どの曲を歌っても高い水準で演奏できる歌手はそう多くありません。

2年おきに来日して、これだけ質の良い演奏会をしていたのか~
と思うと、もう少し早く生まれていれば聴けたのに、という気持ちになります。

それにしても、よくぞこれだけ映像が完璧に残っていてYOUTUBEにアップされたものだと驚いてしまいます。
どの演奏会もプログラム、演奏の質とも申し分ありません。

それにしてもアーウィン ゲージの伴奏は素晴らしいですね。
ピアノがスタインウェイでなくベーゼンドルファーなのも良いのかもしれない。

 

 

 

CD

 

 

 

4件のコメント

  • 鎌田滋子(Shigeko Kiki Kamada) より:

    私は、1995年くらいまで、Club de Araiza と言う、日本のファンクラブ(Araiza自身から承認されていました)の会長をしておりました。もちろん、ここにアップされたコンサートは、全部ライブで聞いています。特に、この「詩人の恋」のコンサートは絶品でした。彼のファンになったのは、1981年(?)ミラノスカラ座の引越し公演の「セヴィリアの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵役の時からです。アバド指揮NucciのFigaro,セヴィリアのお手本のような素晴らしい公演でした。海外にも聴きに行きました。旧東ベルリン歌劇場の「ローエングリン」、ウイーンのMusik Verainでのリサイタル等。素晴らしかったです。常に、謙虚で、知的で、ラテンアメリカ出身とは、思えないほどです。そして、スペイン語(Native)イタリア語、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語(オネーギンのレンスキーをロシアはじめ各所で歌っています)を自由に使える語学力の素晴らしさ!リードのコンサートでもう一度日本に来て欲しかったです。
    今年70歳!オペラは50歳代で引退したようです。youtubeに公開レッスンも
    アップされていますが、出し惜しみせず(このような先生は珍しい)総ての生徒に
    教えている姿には頭が下がります。いまでも、大ファンです。鎌田滋子(ソプラノ)

    • Yuya より:

      鎌田滋子さん

      ファンクラブの会長をされていたのですか!
      私の拙い記事にわざわざメッセージ頂きありがとうございます。

      オペラ、50代で引退されていたとのことですが、
      以下のリンクの通り、2018年のボローニャ市立歌劇場でジャンニ・スキッキに出演していたようですよ。

      http://www.tcbo.it/eventi/gianni-schicchi/

      アライサは本当にレパートリーが広い上に。現代に多い、とりあえず何でも手を出す。
      というタイプとは全然違って、言語能力も相まって真摯に作品と向き合った上、自身の声をよく理解して歌っている大変聡明な歌手ですね。
      本来ならロシーニを歌っていた歌手が、ワーグナーのヘルデンテノール役を歌うなんてやってはいけないことだと思うのですが、
      アライサは自分の表現、声を崩すことなく、しっかりワーグナーが求める音楽にアジャストして歌うことができていたと思います。
      ヴァルキューレのジークムントの音源を聴いた時は全然違和感がなくて本当に驚きました。

      マスタークラスの映像、日本人のテノールを教えてるのもあったのを見ると、
      日本でも、アライサに教えを受けた歌手がこれから活躍するようになるかもしれませんね。

      • 鎌田滋子 より:

        返信メールありがとうございました。また、ジャンニ・スキッキの映像も思いがけず見ることができて、感謝いたします。アライサの声は、[La Voce Grazia]と言う、エレガントな、洗練された、美しい声と欧州のある批評に載っていたことがあります。決して大きな声ではありません。高音も、彼独自の方法で出しています。イタリアオペラのベルカントからすると、少し違うのかもしれません。ワグナーを歌い初めた時、多くのファンや批評家は、「なんと無謀な!」と批判の声が出ました。でも、あれだけドイツ語が堪能で、ドイツ音楽に傾倒している彼にとって、ワグナーは
        憧れのオペラの世界だったと思います。素晴らしいオーケストラの中で進められるワグナーの楽劇の音楽世界は、イタリア・フランスオペラとは比較出来ない、音楽の高みではないでしょうか?
        アライサの、ローエングリンとワルターは、他のどのようなテノールより素敵です。そして、若い頃より歌っている、モーツァルトの
        オペラのテノールの役は彼以上の歌手はその後出ていない気がします。特に、ドイツ語のオペラ(魔笛、後宮よりの逃走等)に
        ついては、彼の右に出るテノールは今後も多分出ないでしょう!
        10年ほど前から、Vittorio Grigoloが気に入っています。でも
        声も音楽も少々チャライ?のです。まあ、そこがVittorioの個性・魅力?かもしれませんけど?スカラで、「ルチア」「ボエーム」「リゴレット」を見ました。でも、あの有り余るサービス精神とほとばしるパッションは、アライサには無かったものです。まだ、42歳です。生粋のイタリア人テノールとして頑張ってほしいと思っています。貴方様のブログ、今後も楽しみに拝見いたします。
        鎌田滋子

        • Yuya より:

          鎌田滋子様

          ありがとうございます。
          私もアライサはドイツ物が一番良いというのは共通の意見です。
          YOUTUBEにある中では、冬の旅も好きな演奏ですが、Rシュトラウスの歌曲[Winterliebe]が最高に格好くて。
          テノールが歌うんだったらコレしかない。という演奏だと思っています。

          こちらこそ、まだまだ知識も経験も浅いので、至らぬ点も多々あると思いますが、
          今後ともよろしくお願いいたします。

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