深い表現力を備えた若手メゾソプラノKarina Kherunts

Karina Kherunts(カリーナ ヘルンツ)はロシアのメゾソプラノ。

2019 BBC Cardiff Singer of the Worldの入賞者という以外では名前の知られた歌手ではないかもしれませんが、表現力の面では、私が聴いた限りは現在活躍している名前の知れた多くの歌手にも負けない逸材だと思いましたので、今回紹介することにしました。

経歴を見てみると、ロシアとウクライナで音楽を学んだ後、様々な国際コンクールで入賞していることがわかりました。
All-Russian Obukhova Vocal Contest in 2010
Competizione dell’ Opera in Minsk in 2012
Opera Singing Competition of Portofino, Italy in 2015・・・
こんな感じで様々なコンクールを受けているのですが、そんな多くのコンクールより、
BBC Cardiff Singer of the Worldでの入賞が最も大きな宣伝効果を持つというのを見ると、
有名コンクールの影響力はまだまだ大きいのかもしれません。

Kheruntsは2019の地点で32歳ということだったので、1987年頃の生まれでしょうから、
メゾソプラノとしてはまだまだ伸び盛りの年齢と言っても良いでしょう。
※名前が「ケルンツ」、と読むのか「ヘルンツ」と読むのかわからないので、一応ここではヘルンツで統一して書いていきます。

 

 

 

 

ロッシーニ タンクレーディ Di Tanti Palpiti

こちらがヘルンツの歌唱でYOUTUBEに上がっている一番古いものです。
2012年以前ということで、25歳より若い時のものでしょう。

 

 

 

2019 BBC Cardiff Singer of the Worldでの演奏

こちらが同じ曲で、2019年のものです。
上の演奏と下の演奏とでは明らかに響きの質が違いますね。

具体的には、上の演奏では喉に圧力をかけて無理やり鳴らしているような声で、
たえず伸ばしている音では不自然なヴィブラートが掛かっています。

一方下の演奏では、音色こそまだ暗さがあり、作った感じの不自然さは残っているものの、
響いているポジションはかなり軽くなり、安定して前に響いています。

そうは言ってもイタリアオペラを歌う声としては相応しいとは言えません。

 

 

 

 

プロコフィエフ フォークソング KATERINA

 

ヘルンツの魅力が発揮されるのは、オペラより歌曲です。
恥ずかしながらプロコフィエフのKATERINAという曲は知りませんでした。

調べてみても、バレエ音楽に登場する役の名前としてしか出てこないので、あまり有名ではない曲なのかもしれませんが、なんとも伴奏のゆるい雰囲気とロシア語の響き、そしてヘルンツの影のある、それでいて重くない響きとの相性が絶妙です。
歌詞を調べられなかったのが残念ですが、こういう聴かせ所のない取り留めのない曲を、
なんかいいな~。と思わせてくれる演奏が出来るって素晴らしいことだと思います。

 

 

 

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ブラームス .Immer Leiser Wird Mein Schlummer

 

 

 

【歌詞】

Immer leiser wird mein Schlummer,
Nur wie Schleier liegt mein Kummer
Zitternd über mir.
Oft im Traume hör ich dich
Rufen drauß vor meiner Tür,
Niemand wacht und öffnet dir,
Ich erwach und weine bitterlich.

Ja,ich werde sterben müssen,
Eine Andre wirst du küssen,
Wenn ich bleich und kalt.
Eh die Maienlüfte wehn,
Eh die Drossel singt im Wald:
Willst du mich noch einmal sehn,
Komm,o komme bald!

 

 

 

【日本語訳】

わが眠りは一層浅くなり
まるでヴェールのように、悲しみだけが
震えながら私を包む
時折 夢の中で私はあなたの声を聞く
私の戸口の前で呼んでいるのを
だが誰も目覚めず あなたを呼び入れない
私は目覚め 苦い涙を流すのだ

そうだ、私は死ぬのだろう
他の人にあなたはくちづけするのだ
もし私が青ざめ冷たくなってしまったならば
五月の風が吹く前に
ツグミが森で歌いだす前に
もしもあなたがもう一度私に会いたいと思ってくれるなら
来ておくれ、おお来ておくれ今すぐ!

 

 

 

この曲を得意としているようで、
私個人としてはそこまでブラームスの歌曲は好きになれないのですが、
この演奏には震えました。
歌詞と音楽と声と言葉の音色の使い方や発音がこれ程までにハマるとは!
例えばルートヴィヒの演奏と比較しても全然劣りません。

 

 

 

Christa Ludwig

ライヴということもそうですが、
無駄なヴィブラートのなさ、
何よりも、語尾の歌い終わりまで神経の行き届いた歌唱をしているヘルンツの方が、個人的にルートヴィヒより好みの演奏です。
この人なら、ブラームスの歌曲だけでCD出しても欲しいと思える完成度だ。

 

ちなみに、
これだけの演奏をできるヘルンツはBBC CARDIFF SINGER OF THE WORLDでは入賞でした。
ではそこで優勝した歌手はよっぽど上手いのか?

と気になるところではないでしょうか?

 

 

 

Andrei Kymac(1位)

 

 

 

 

Katie Bray(聴衆賞)

 

 

 

 

Mingjie Lei(歌曲部門1位)

中国人のテノールだけはBBCでの完全なかたちでの演奏音源がないので、1年古いものですが、
優勝したバリトンも聴衆賞のメゾも、喉がよほど強いんだろうな。と思わせる圧力過多な声で、
特にメゾの方は、この声が聴衆に支持されたのは英国人歌手だから。
という以外には理由が思い浮かびません。
中国人テノールの演奏は、モーツァルトを歌うには綺麗に歌えそうですが、
とにかくファルセットに近過ぎる頭声だけの響きで、胸の響きが全くないので中低音では劇的表現ができない。
この発声では合う曲はかなり限定されてしまうのではないかと思います。

 

 

 

 

 

ビゼー カルメン Seguidilla

 

BBCでロッシーニではなく、もっと相応しい曲を歌っていれば・・・
と思わなくもないのですが、やっぱり私は上に紹介した3人より、ヘルンツの方が上手いと思えて仕方ない。

ただ、イタリア語やフランス語を歌うと”e”母音で押してしまう癖が目立つ感じがします。
胸声が自然にこれだけ鳴ってしまうにも関わらず、それでいて声の焦点は絞れている。
これでもっと奥の方で作った感じの癖が取れてくると本当に素晴らしいメゾになるのではないかと期待したくなります。

20代半ば~30代にかけてでの進歩を見れば、ヘルンツが弛まず努力をしていることは容易に想像がつくので、このまま40前後になった時にどんな演奏をしているのか本当に楽しみです。

 

メールカウンセリング門次郎

 

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