リートを演じるように歌うメゾソプラノWallis Giunta

Wallis Giunta(ワリス ジウンタ)は1985年、カナダ生まれのメゾソプラノ歌手。

2011年にCanadian Opera Company Ensemble Studio とthe Metropolitan Opera Lindemann Young Artist Development Program

2013年にThe Juilliard School Artist Diploma in Opera Studies で学んでおり、
Edith Wiensに師事していたようです。

エディス・ウィーンズはリートの名手として有名なことでもわかるように、
ジウンタもオペラより歌曲で個性を発揮している歌手と言えると思います。

 

 

 

シューベルト Gretchen am Spinnrade

私はこの演奏を初めて聴いて、
女性版のボストリッジか?
と思いました。

これは主観ではありますが、リートには二通りの歌い方があると思います。
1つは、あくまで語りてとして物語を紡ぐ歌い方。
もう1つは、落語のように、全ての登場人物を演じる歌い方です。
ボストリッジが有名になったのは、正に一人で何役も歌うオペラであるかのようにリートを歌うことによってでした。
ジウンタの演奏はまさに役として歌っているように見えます。

因みに、こう言ってしまったら元も子もないのですが、
私はこういう演奏はあまり好きではありません(笑)

リートは百人一首を詠むような、
淡々とした語り口の中に聞き手の想像力を刺激する言葉の歌い回しや音色、微妙な間を込めることに美学があって、
1~10まで音楽の物語を解説してしまっては、聴衆が個々に自由な世界を想像をすることを阻害してしまう、押しつけがましい演奏になりかねない。
演奏者の感性とピッタリ合う人にはきっと素晴らしい演奏に聴こえるのだろうけど、そうでないとうっとおしいことこの上ない。

とまぁ、ここまで書いておきながらジウンタを記事にしているのは、
逆にそれだけ個性の強い演奏をしているので、好き嫌いは分かれるでしょうが、
面白いタイプの歌手であることは間違えないからです。

 

因みに、ボストリッジと同じ曲で比較してみると面白いです。

 

 

 

 

シューベルト 美しき水車小屋の娘から  Am Feierabend

 

 

 

 

Ian Bostridge(8:40~)

 

 

 

 

では逆に、演じるのではなく、語る演奏をしているアライサを聴いてみましょう。

 

Francisco Araiza

この演奏を見ると、ジウンタはボストリッジ以上に演劇的で、
歌う役に合わせてわざわざ場所を移動している。
演技があると歌詞の内容が確かに直接的に伝わるのですが、
この行動によって必要な静寂が失われてしまう。
静と動の対比を歌だけで表現するためには、むしろ演技は邪魔になってしまうことがある。
なので、理想的には、身体は無駄に動かさず、声だけで演技が出来ることなのではないかと思います。

 

 

 

 

ベッリーニ カプレッティ家とモンテッキ家 Se Romeo

今度はイタリアオペラでジウンタの発声的な部分を診ていきましょう。
まず良いところは、英語圏の歌手に多い、発音が奥まってしまったり、過剰なヴィブラートが掛かることがない。
なので、清潔感のある歌唱でとても聴きやすいです。
最初この人の声を聴いた時はソプラノかな?
と感じたほどなので、メゾらしい声を作っていないのは良いことだと思います。

一方課題は、響きが上半身だけで完結していること。
全体的に空間の狭いやや喉声っぽさがあることでしょうか。
こうなると、ベルカントオペラでは特にその深い息の流れによって成し得るフレージング、レガートといった重要なポイントが抑えられない。

この演奏は昨年のもののようなので、年齢的には34歳くらい
ではもっと若手でも、上半身だけの響きで歌っていないアサノヴァと比較してみましょう。

 

 

Evgenia Asanova

この人は現在まだ25歳なのだそうです。
さて、声自体はアサノヴァもドスの効いた太いメゾではなく、
むしろジウンタとあまり変わらない声質だと思います。

しかし明らかに声の深さが違います。
この深さは首から上の空間だけの問題ではなく、
根本的な支えの深さです。

歌っている姿勢を見れば分かるように、ジウンタは動きが多い一方でアサノヴァは直立不動といった感じです。
多少手が動いても、絶対に方が前に出て前傾姿勢にはなりません。
ジウンタのように、前傾姿勢になってしまうことが多いと、その分胸は閉じてしまっていて、当然ブレスコントロールにも影響がでてきます。

 

 

同じ最高音を出しているところを切り取ってみました。

 

 

ジウンタ(3:09~)

 

 

 

 

アサノヴァ(2:19~)

 

アサノヴァの何と楽そうなこと。
この人は是非注目して欲しい歌手ですが、残念ながらYOUTUBEに殆ど動画がないので、単独で特集記事を書くことが今のところできておりません。
別に、ジウンタをかませ犬にしてアサノヴァを称賛する記事を書きたかった訳ではないのですが、結果としてはそうなってしまいましたね(笑)

 

とは言え、ジウンタのような歌唱はミュージカルでは良さが存分に生かされます。

 

 

 

 

スティーヴン ソンドハイムのミュージカル Into the Woodsメドレー

少々大げさな言い方かもしれませんが、ジウンタの歌唱について考えることは、クラシックとミュージカルの歌唱の違いについて考えることにつながるかもしれません。

直線的で、言葉が真っすぐ飛ぶけど浅めな声。
というだけでなくて彼女のリートにみるような、白黒ハッキリした曖昧さのない表現や、
静的な表現を入れず、絶えず動き続けることで音楽の推進力が維持することが、クラシックでは密度の薄い表現に聴こえてしまうことがありますが、ミュージカルでは活力となる。

何にしても、ワリス ジウンタという歌手が、ただのクラシック歌手の領域に留まらないことは間違えありません。

 

今回はあまり客観性の薄い記事になってしまいましたが、
ジウンタの演奏は、聴いた人によって感じ方がそれぞれ違いそうな特殊なタイプなので、
私と全然違う感想を持たれる方も当然いらっしゃると思います。
このようなリート演奏について、どのように思われるかご意見を頂けると嬉しいです。

 

 

CD

 

 

 

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