実は名教師だった米国のドラマティックソプラノRuth Falcon

Ruth Falcon(ルース ファルコン)1942年~2020年、は米国のソプラノ歌手。

つい先日の10月9日に亡くなったルース・ファルコンを追悼の意を込めて記事にしようと思います。

オペラデビューはニューヨークでしたが、その後ヨーロッパへ渡ってバイエルンを中心にトゥーランドットや、影の無い女の皇后といったイタリア、ドイツ物のドラマティックな役で活動していました。
その後メトでも歌っていますが、活動の中心はヨーロッパだったと言って良いでしょう。

しかし、ファルコンのキャリアで特質すべきは、演奏家としてより指導者としてかもしれません。
何と言っても、現在第一線で活躍するソプラノ歌手を何人も育てており、
声種も、ドラマティックな声の歌手だけでなく、軽い声のソプラノも排出しているからです。

ファルコンに師事した有名歌手を挙げますと

 

 

 

 

Deborah Voigt(デボラ ヴォイト)

 

 

 

 

Ainhoa Arteta(アイノア アルテータ)

 

 

 

 

Sondra Radvanovsky(サンドラ ラドヴァノスキー)

 

 

 

 

 

 

 

Danielle de Niese(ダニエラ ドゥ ニース)

 

 

 

 

Nadine Sierra(ナディーヌ シエッラ)

 

こんな感じで、1960年代~1980年代生まれの歌手を育て上げている上に、全く声質もレパートリーも違う歌手が巣立っているところを見れば、
それぞれが個性を尊重されて、声に合ったレパートリーを与えられていたことは容易に想像がつきますね。

 

 

 

ファルコンのレッスン風景

まず、米語でも最近の歌手達のように、喉の奥の方で発音するようなことをせず、前で発音してるんですよね。
これは個人的な意見ですが、声に変な癖をつけずにおこうと思ったら、ファルコンのような発音をしなければいけないと思います。

喋っている声が詰まっていたら、歌っている声が綺麗に抜けるということはあり得ない。

 

 

 

 

Rシュトラウス Frühlingsfeier

 

現在活躍する米国人ソプラノ、ウィリス=ソレンセンと比較してみると、
ファルコンの歌唱がドラマティックソプラノ。という声質の一般的なイメージとは違って非常に軽く細い響きで歌っているのがわかります。

 

 

 

 

Rachel Willis-Sorensen

ウィリス=ソレンセンも高音は決して悪くないのですが、それ以外の音域が奥に潜ってしまう。
この人のインタビューで喋っている声を聴けば、
既に喋っている声がファルコンとは響いているポジションが違うことがわかります。

 

 

 

 

 

ウィリス=ソレンセンの喋っているポジションは軟口蓋の辺りで奥です。
一方のファルコンはかなり鼻寄りで、基本的にどんな発音でも前です。
発音記号で言うと「əː」みたいなのは特に喉に負荷をかけないで発音できることが大事ですから、そういう意味でも前で発音することはとても大事です。

 

 

 

 

モーツァルト フィガロの結婚 Dove sono

ただ、モーツァルトのような作品を歌うとレガートの甘さが表面化してしまう感じがします。
ドイツ語ではそこまで気にならないのですが、イタリア語のような母音に厚みが必要な言葉だと、前の響きが強すぎる声はマイナスの部分が目立ちやすいですね。

特にこの曲は、音域的にも中間の揺れ安い音域な上、発音は「dove」から始まり、
どちらも横に開き易い”e”母音であるだけでなく、dやvといったレガートのし辛い子音とセットなので、最初のフレーズが上手く歌えるだけでも個人的には拍手ものです。

そんな訳で、前の響きは大事なのですが、
それと同時に奥行もないとレガートにはならない。
同じ米国人ソプラノで、ファルコンより10歳年下のヴァネスの歌唱と比較すると、
ファルコンに足りなかった部分が見えてくるのではないかと思います。

 

 

 

 

Carol Vaness

ヴァネスは米国人ソプラノで個人的に特に好きな歌手なので、ちょっと色眼鏡が付いてしまうのですが、
ヴァネスは美しい高いポジションの響きにプラスαで胸声に近い部分も鳴っているので、声に鋭さがない。
ファルコンに足りないのはそこで、
上澄だけの響きだけでは、高音は美しく強い響きで歌えても、中音域では言葉をレガートで、更に柔らかい響きで歌うことができない。

この辺りが一流歌手としてあまり認知されてない理由なのかもしれませんが、
それでも、十分に素晴らしい声を持っていたと思いますし、
何といっても育てた歌手にこれだけ有名人が並んでいるのですから、指導能力があったことは間違えありません。

もっとファルコンのレッスン映像などがあれば面白かったのですが、
今は彼女の教えを受けた歌手達の活躍を願いたいと思います。

 

 

CD

 

 

2件のコメント

  • めぐみ より:

    キャロル・ヴァネスさん素晴らしいですね!
    前で発音しているので、言葉がどの高さでもハッキリしていて、でも胸の響きもあるので、
    どの音域でも豊かに響いていますね。
    こんな声になりたいです…

    • Yuya より:

      めぐみさん

      いつもコメントありがとうございます。

      キャロル・ヴァネスは本当に素晴らしいですよね!
      個人的には戦後生まれの米国人ソプラノでは一番好きです。

      良い意味で重量感のある声でありながら、響きに丸みがあって高音も鋭くならず、
      それでいてアジリタの技巧もこなせる。
      もっと評価されても良いと思うんですけどね。

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