本来リリックソプラノの声のDiana Sovieroが歌ったカルメンがぶっ飛んでいる件について

以外と1990年代が全盛期だった歌手については私はあまり知らないのかもしれません。

70・80年代は俗に言う3大テノールの全盛期だったこともあり、その年代に活躍した歌手が衰えは見えるながらも第一線で活躍しているという感じだったのが90年代~2000年代だった気がするので、90年代が最高に輝いていた、歴史に名を残すような歌手はいるかと問われると、正直ぱっと思いつく人がいません。

そこで、90年代の演奏をちょっと見始めたのですが、Diana Sovieroという歌手が歌うカルメンが中々個性的だったので、今回はこの人を紹介しようかと思います。

 

 

 

Diana Soviero(ディアーナ ソヴィエーロ)は1946年、米国生まれのソプラノ歌手。

1987年、の演奏では、グノーのロメオとジュリエットでジュリエットを歌っているような歌手でした。

 

 

グノー ロメオとジュリエット(フィナーレ)

相手役のテノールは、今や日本人歌手の弟子も何人かいるアルベルト・クピードです。
まず、ぴったり響きの質がハマった綺麗なユニゾンに惹き付けられます。
この軽めのリリコが、数年後にカルメンを歌うなんて、少なくとも私は想像もできませんし、
歌ったら、確実に選曲ミスだと思うでしょう。

 

 

 

1994年のカルメン(全曲)

このカルメンは色んな意味で凄い。

中音域~高音は全部リリックソプラノの声なのに、低音だけドスの効いた、明らかに胸に落とした声だけで歌っている。
歌っているというより、むしろ地声で演劇的に喋っているといった方が近いのかもしれません。

カルメンが絡む重唱がことごとく響きの質が違い過ぎてハモらないし、決して良い演奏とは言えないのですが、それ以上に物凄い気迫と言うか、これぞ絶唱といった演奏に圧倒される。

なお、ハバネラは00:20:40~
この演奏は重唱とは違って意外と癖がなく、それでいて歌い回しに良い意味で緩みと言えば良いのか、脱力感があって、カルメンの余裕を感じさせる良い演奏だと思います。
こういう曲を一生懸命歌われると、歌詞と演奏にギャップがあって私は一歩引いてしまうので、そういう意味でも熱さと緩さのバランスがソヴィエーロのカルメンは絶妙です。

 

アリアはともかく、仕事の5重唱や、カルタの3重唱の質がかなり残念なことになっているので、とても全体を通して良い演奏とは言い難いのですが、それでも彼女のカルメンのインパクトは凄いものがあります。
本来リリックソプラノであるということを考慮すれば尚更に・・・。

何にしても、凄い演奏と良い演奏は根本的に全く別物なんだなと実感させられるたのがソヴィエーロのカルメンでした。

因みに他の役だと、プッチーニの修道女アンジェリカの映像があります。
全曲の映像もありますが、今回はアリアの部分だけを紹介します。

 

 

 

プッチーニ 修道女アンジェリカ Ah! son dannata!

薄い響きで、高音のピアノの表現は圧倒的な完成度を誇っています。
逆にフォルテで歌う時には喉声になる傾向があって、出だしの音でケロケロしてしまうことがある。

中低音の声には、高音の響きからもってきている場合と、胸声を強めに使っている場合があるのですが、ここが分離してしまっていて、胸の響きと顔面の響きが連動できていない感じがします。
なので、どうしてもレガートが甘くなってしまって、喉声のようになってしまうことがある。

声は本当に良いんですけどね。
アンジェリカを得意としていたソプラノと言えば、
90年代が全盛期だった歴史に名前を残すほどの実力派ソプラノを思い出しました。
この曲と言えば私の中ではガウチしかいません。

Miriam Gauci(1957~)

 

 

この人の歌唱は言うことないです。
以前にも書いたことがあるのですが、フレーニより絶対上手いです。
とか書くとフレーニのファンから批判されそうですが、フレーニは結構押してる部分があるので、技術的にガウチが優れていることは比較すればそれなりに説得力のある説明はできると思います。
とは言え、今回はソヴィエーロの記事なので、ガウチ礼賛はこの辺にしておきます。

 

 

 

1996年の演奏

プッチーニ 蝶々夫人(フィナーレ)

カルメン以後の演奏でもそこまで声に変化は感じられませんが、
高音で薄くなる声が、ピアノだと美しいのですが、フォルテだと鋭く喉声に聴こえてしまうのがソヴィエーロが一流歌手として認知されていない要因なのかもしれません。
劇的な表現には本当に技術以上の熱量を感じますが、こういう演奏家は録音では中々良さが伝わらない部分があるのかもしれませんし、もしかしたら私も生で聴いたら圧倒されたのかもしれません。

そういう意味では、1980年代~2000年代前半辺りは録音栄えする歌手が名歌手と呼ばれたという感は否めないですが、

でも今は、誰でも演奏を配信できる時代になり、ある意味大手レーベルがスター歌手を作る時代は終わろうとしているのではないかと思いますので、今後更にオンラインで生演奏に近い音楽体幹ができるようになった時、彼女のようなタイプの歌手がもしかしたらもっと評価されるようになるかもしれません。

ソヴィエーロの演奏から粗を探すことは難しくないですが、それ以上に魂の籠った歌唱というのが何であるかを教えられた気がしました。

 

 

CD

 

 

 

 

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