深い低音と澄んだ高音を持ったカザフスタンの若手リリックソプラノAnastassiya Kozhukharova

Anastassiya Kozhukharova(アナスタシヤ コーシュハロワ(コーオジュハロバ))はカザフスタンのソプラノ歌手。

2014年に行われた第7回、静岡国際オペラコンクールで3位に入賞していた時、私は偶然会場にいて彼女の歌を聴いていました。
しかし、その時はあまり癖がないながらも、線の細い普通のリリコレッジェーロソプラノだなという感想以外、特に印象には残らなかったのですが、現在はかなり立派なリリックソプラノの声になっていたので驚かされましたので、どう声が変わったかも含めて紹介していこうと思います。

 

 

 

2015年
ヘンデル メサイア Rejoice Greatly

流石に7年前の記憶なので、当時はあまり癖のない声だなと思っていましたが、
改めて聴いてみると、高音の真っすぐで済んだ美しさに比べて、高音に抜けていく手前で若干押す癖がありますね。
でも、細い声でも低音までスカスカにならずちゃんと鳴るというところは素晴らしいです。

 

 

 

2017年

 

International Virgilijus Noreika Competitionの二次予選で、
ドニゼッティ アンナ・ボレーナ Piangete voi? Al dolce guidami
プッチーニ ラ・ボエーム Si. Mi chiamano Mimi

を歌っているのですが立派なものです。
因みに、コレで1位ではなかったようだったので、どんな歌手が1位だったのかと思って調べてみたら、以下のような方でした。

 

 

 

Margarita Levchuk

日本人ソプラノによくみられる、表面的には美しい高音に聴こえるのですが、中低音になると響きが無くなるタイプで、部分的に鼻に入ってるんで、コージュハロワとは根本的に発声が違います。
ここまで技術的に違う歌手で、優劣逆に判断されてしまうのを見ると、コンクールの順位と実力が比例する訳ではないことがよくわかりますね。

歌っている表情を見ても、Levchukは常に頬の辺り、つまり口輪筋~頬筋が力んでいて、歌っている時も頻繁に喉が上下しているのが見て取れます。
一方で、コージュハロワは喉が動かず低いポジションで安定しています。
喉が上下するということは、歌っている時に喉があがって、呼吸をしたり、つばを飲み込んだ時に喉が下がるということで、歌っている時に喉が上下に頻繁に動く人は100%喉が上がっているということになります。私のようなアマチュアでも分ることをプロの審査員がわからないというのが理解できないのですが、まぁ、そういう愚痴は程々にしておきましょう。

 

 

 

2021年

今年3月の演奏です。

すっかりリリックソプラノのレパートリーを歌うようになっているのですが、
面白いことに、2017年の演奏より2021年の演奏の方が低音を細い声で出しています。

普通に考えれば、重い声が求めレパートリーを歌う方が、軽い声が求められる曲より中低音を太い声で歌いそうなものですが、
コージュハロワは硬質で鋭い声ではあっても、彼女の強みは薄く繊細な高音であることを考えると、声のバランスとしても、中低音で声を太くしない方が全体的に安定した響きで歌えると思います。

現時点で声に合っているとはまだいいが難い運命の力のアリアなんかは、低音の線の細さと高音の鋭さが、あまり良くない印象を与えてしまっているようにも思いますが、
トロヴァトーレのアリアであればギリギリ私はありかなと思いました。

これからリリコ~リリコ・スピントの作品を彼女が歌っていくのだとすると、もう少し高音で声に丸さが欲しいところで、若い頃に比べて中低音の質にムラがなくなってきたものの、高音は若い時の方が楽に出しているように感じてしまって、正直2021年の演奏は力み過ぎかなと思うところもありました。

そういう状況から、運命の力や蝶々さんに手を出すのが早過ぎたような気もするのですが、
声が揺れたり、高音のピアノの表現ができなくなったりといった弊害は出ていないことから、年齢を重ねてもっと声に丸みと言えば良いのか、深みと言うべきかが出てくれば良いリリコになれる可能性は十分あると思います。

 

それより、
声以上に癖が強いのはもしかしたら発音かもしれません。

何と表現して良いのか難しいところではありますが、
声の質は低音~高音まで統一感があっても、母音の質には音域によってかなりバラツキがって、正直あまり発音が聞き取れない。
特定の母音に癖があると言うより、全体的に音域によって幅が変わってしまってる感じがします。
この辺りをどう改善できるかが今後一番重要な課題になってくるのではないかと思います。

それでも、硬質で真っすぐで済んだ声には魅力がありますし、何と言ってもまだ30代半ばだと思うので、今後の活躍に期待したいところです。

 

 

 

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