関西の大プリマ 永井 和子女史について

恥ずかしながら私も存じ上げなかったのですが、
長く大阪音楽大学で指導をされていた、永井 和子氏というソプラノ歌手がおりまして、

先日読者の方から音源をお勧め頂いて聴いところ、あまりに素晴らしい技術で歌っていらっしゃることに驚かされましたので、この場で皆様にも共有したいと思い記事にすることにしました。

 

関東で永井 和子という名前の歌手と言えば、著名なメゾソプラノ歌手のことで、
実際ググってもこちらの方が沢山ヒットするのですが、

関西の永井 和子氏について調べてみると、
日本を代表する大指揮者、朝比奈隆氏と共に日本語でオペラを歌う活動をしていたことがわかり、
インタビューの言葉一つ一つをとっても、おっしゃられていることが実に真っ当で、逆にこのような方がいるにも関わらず、なぜ日本の声楽技術が進歩しなかったのか不思議に思うくらいです。

ということで、前置きが長くなりましたが、音源を聴いてみましょう。

 

永井和子(ソプラノ)

冒頭の伯爵夫人のアリアより注目すべきはそれが終わった後(6:19~)です。
まず喋ってる滑舌の素晴らしさ。

こんな美しく日本語で喋れるご老人がいまどれほどいらっしゃるでしょうか・・・
言葉を扱う政治家の先生方は見習ってほしいものですね。

その後40歳の時の演奏音源が流れるのですが、
最後に今年(83歳)の演奏が13:20~、「からたちの花」を歌っているのですが、
この演奏が凄い。

では早速現在活躍している歌手と比較してみましょう。
まさか、現在第一線で活躍されているソプラノ歌手の演奏が、83歳の方の演奏に劣るなんてことはないはずですからね。

 

 

 

森 麻季

まず、出だしの「か」のフォームからして変です。
なんでこんな”あ”母音を子供っぽい声で発音するのでしょうか?

 

 

 

森氏が「からたち」の”か”を発音してる時のフォーム

 

 

 

永井氏

 

森氏の演奏は何歳の時かわかりませんが、明らかに下顎に変な力入ってますよね。
一方の永井氏の何とリラックスしたフォームであることか。
どの母音を歌っても殆ど口のフォームは変わらないです。

子音少ない日本歌曲なら、口の動きは最小限で歌うのがプロの声楽家というものだと私は思うんですけどね。

 

 

関定子

関氏も響きのポジションは素晴らしいと思うのですが、日本歌曲としてはどうでしょうか・・・

 

 

「咲いたよ」の”よ”

関氏は森氏とは真逆で、”o”母音を閉め過ぎる傾向があり、
日本語っぽくない”お”の響きなんですよね。

 

 

 

永井氏

”o”母音を発音していると言うより、
ハミングに近いところで、口を少し開ける感じと言えば良いのでしょうか?
日本語はあまり語尾の母音をはっきり発音すると不自然に聴こえてしまうので、
関氏の演奏だと、外国人がローマ字読みした”o”母音のように聴こえてしまうのは私だけでしょうか?

 

こんな感じで、永井氏は母音の幅が均一で、流石にお歳ですからブレスは短くなっているのだと思いますが、それでもレガートはしっかりしています。
因みに、有名なメゾの永井和子氏はどうかというと

 

 

永井和子(メゾソプラノ)

あれ?全然レガートが・・・・
ということなのですね。

いゃいゃ、失礼なことを書いてはいけない。
この御方は、芸大の教授様にして新国立劇場オペラ研修所の所長様でいらっしゃいます。
とっても偉いんです。(演奏を聴く聴衆にとって権威なんて何の役にも立ちませんけどね)

研修生や門下生で上手い方を私が知らないのは、きっと私がただ勉強不足だからなのでしょう。

 

 

では最後に、ソプラノの永井氏のインタビューから、印象に残った部分を紹介しようと思います。

2012年のインタビュー、全文はコチラを参照ください。

 

Q)発声のメカニズムというと、声の出し方の論理的な解明、ということでしょうか。

A)よく言われる「響きを高く、頭のてっぺんから声を出して!」みたいなのは、かなり感覚的な指導法です。そう言われて発声の極意をつかめるのは、初めから恵まれた体を持っている人だけ。努力しないと理にかなった声を出せない人には、もっとわかりやすい説明が必要なんです。私は努力で声を磨いてきた歌手ですから、肺の空気を出して、喉にある声帯を震わせて声を出すという、当たり前のことに30歳半ばにして目覚めて再出発、発声を勉強しました。

 

このインタビューを見て、歳を重ねるにつれて演奏が洗練されていたのには頷きました。

 

 

Q)オペラと歌曲と、歌い手の立場から見た両者の違いは、どういった点でしょう。

A)オペラは指揮者、演出家、オーケストラ、他の配役とのアンサンブルですから、自分の好きなようには歌えませんが、大勢の共同作業で舞台を創る醍醐味があります。対して歌曲は、自在にやれる反面、自分ひとりでお客様の心をつかまなければなりません。照明や衣装に助けてもらうこともできず、緻密な計算の上で創り上げていく必要があります。
歌曲は、正しい旋律の上にのせて、刹那に言葉がわかることが最も大切な条件で、美しい響きだけではだめ。一単語から句へと言葉が流れ届いて、初めて成立する芸術です。言葉そのものが持つ表現術と言葉を届ける発声技術の極意、それらを満たす発声のメカニズムを研究し、その訓練法を見つけ出すことが、私のフィールドワークとなりました。

 

 

最後に、素晴らしい音源を紹介頂いたKさんには心よりお礼申し上げます。

幾つになっても歌は上手くなれる。
永井氏の演奏を聴くとそういう勇気を貰えて私も励みになりましたし、
きっと多くのプロ、アマ問わず同じように感じるのではないでしょうか?

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