日系英国人テノールHIROSHI AMAKO(尼子広志) の歌唱分析

HIROSHI AMAKO(尼子広志)は、1992年に、日本人の父親と、英国人(ウェールズ)の母親の間に生まれ、英国で育った日系英国人テノール歌手。

英国のloyal college of musicで学び2018-19シーズンからハンブルク歌劇場のメンバーとなり、現在はウィーン国立歌劇場のメンバーとなっています。
コンサート活動でも、英国のバロックアンサンブル ensemble Amici Voicesでソリストを務めてCD録音に参加したり、Wigmore Hall、Oxford Liederでのリサイタル、バーミンガム管弦楽団、ロンドンフィルの演奏会に出演するなど、特に英国国内で活発な演奏活動をしているようです。

 

今回は日系人ということもありますし、
そんな若手テノールHIROSHI AMAKOという歌手の歌唱について分析していこうと思います。

 

 

 

Fブリッジ Come to me in my dreams

 

<歌詞>
Come to me in my dreams,and then
By day I shall be well again!
For then the night will more than pay
The hopeless longing of the day.

Come,as thou cam’st a thousand times,
A messenger from radiant climes,
And smile on thy new world,and be
As kind to all the rest as me.

Or,as thou never cam’st in sooth,
Come now,and let me dream it truth;
And part my hair,and kiss my brow,
And say: My love! why suff’rest thou?

Come to me in my dreams,and then
By day I shall be well again!
For then the night will more than pay
The hopeless longing of the day.

 

<日本語訳>
おいで 私のもとへ わが夢の中 そうしてくれれば
日の出までに私はまた元気になれるだろうから!
なぜならそれで夜は支払う以上のものになるのだから
昼間の絶望的な憧れを

おいで あなたが来てくれるなら 何千回も
輝く土地からのメッセンジャーとして
そしてほほ笑むなら あなたの新しい世界に それから
他のすべての人に優しくしてくれるなら 私のように

あるいは あなたは決して来てくれぬのなら 決して
来ておくれ そして私に真実を夢見させておくれ
そして私の髪を分けて そして私の額にキスして
そして言っておくれ:愛しい人!なぜあなたは苦しむの?と

おいで 私のもとへ わが夢の中 そうしてくれれば
日の出までに私はまた元気になれるだろうから!
なぜならそれで夜は支払う以上のものになるのだから
昼間の絶望的な憧れを

 

2017年の演奏ということは、25歳くらいでしょうか。
良くも悪くも英国人テノールだな~という歌唱なので、私が感じた特徴を簡潔にまとめてみます。

【良い点】

●全て顔の前で発音されていること
英語と米語の発音の歌い分けでもポイントとなってくるところだとは思いますが、
クラシックの声楽作品は基本的に喉の奥で発音することは避けた方が良いと個人的には思っているので、その点、HIROSHI AMAKOの歌唱は、籠ったところがなくて、ピアノの表現でも丁寧で明確な発音ができているところに好感を持ちました。

●子音と母音のバランスが良い
この後でドイツ語の演奏音源も紹介しますが、全体的に子音に硬さがなく、
母音を音価の長さ分たっぷり維持できているので、必要以上に子音が強調されていなくても、早口になっても、発音がとても明瞭に聴こえて、フレージングが自然と耳に入ってくる。

こういう部分は、声の良さ、発声の良さとは別に歌の上手さを形成する要素で、一言で言ってしまえば歌い手のセンスになってくるのかもしれません。
何も考えなくても上手くできてしまう人もいれば、一方で理詰めでどうすれば上手く聴こえるのかを追求して歌うタイプもいるでしょう。
彼の場合はどうなんでしょう・・・。

 

【改善が必要な点】

●鼻声気味
これは英国のテノールに多く見られる部分でもあって、リートの名手として有名な、マーク・パドモア(mark padmore)ともよく似た特徴なのですが、兎に角”a”母音が全部鼻に入る。
こういう声だとやっぱり開口母音で開放感がなく、声は柔らかいのに、どこか硬さを感じてしまう。
この演奏は母国語ということもあって、自分のモノにしている感じがありますが、ドイツ語の作品では、”a”母音の音質の違いが耳につきます。

 

●音色のバリエージョンが少ない
結局は鼻に入ってしまっているという部分に結実してしまうのですが、
その為に、声に色彩感がありません。
こういう部分は有節歌曲を歌った時に顕著に出ますので、次はシューベルトの歌曲を聴いてみましょう。

 

 

 

 

 

 

シューベルト 冬の旅 Gute Nacht

決して悪い演奏ではないと思いますし、丁寧に歌っているのがわかります。
こういう演奏を聴くと、理詰めで歌ってるように聴こえてしまうんですが・・・、それはともかく、
非常にゆっくりなテンポなのも相まって、正直途中で飽きる演奏です。

しかし飽きる理由がテンポの問題なのかと言うとそれだけではありません。
同じように遅いテンポで歌っているアライサの演奏と比較してみましょう。

 

 

 

Francisco Araiza(「YOUTUBEで見る」を押して頂ければ再生可能です)

まぁ、尼子の演奏の問題点には、伴奏を務めている佐野優子氏が歌詞わかって弾いてるのか疑問なくらい、全く変化がないことも影響しているのですが、
そうだとしても、結局歌い手がこの伴奏を許容したということが全てなのです。

特に3番の歌詞

「laß irre Hunde heulen vor ihres Herren Haus.(主の家の前で犬どもは狂ったように吠えているがいい)」
Die Liebe liebt das Wandern,(愛はさすらいを好むのだ)」

この歌詞の変化への対応が分かり易いです。

 

尼子 3:38~
アライサ 4:09~

こうやって聴き比べて頂ければ、尼子の演奏が、本当に歌詞分かって歌ってるのかな?
と疑問に思えてくるはずです。
これだけ言葉の意味に違いがあるのに、全く同じ音色、ディナーミク、息のスピード感で歌うなんて正直有り得ません。

 

 

 

トマ ミニョン  Adieu Mignon!

やはり鼻に入っているので、高音が抜けていきません。
中低音をキレイに歌えるだけに、この鼻声をなんとかできれば良いテノールになれる気もします。
現状では、3:37のような、G程度の音でも、”a”母音になると喉が上がりきって変な声になってしまう有様で、Aの音なんかも学生のテノールみたいな声になってしまっている。

軽い声のテノールがコレでは正直いかんだろと私なんかは思ってしまうのですが、一応世界最高峰のウィーン国立歌劇場のメンバーなんですよね。

 

とは言え、まだ年齢を考えればやり直しはきくと思いますので、
個人的な希望としてはこのままの歌唱ではなく、発声を見直して声を作り直して欲しいと願うばかりです。

さて、これから日本で彼の名が知られるようになるのかという部分もふくめて、今後の活動は注目していきたいと思います。

 

2件のコメント

  • Shimon.Y より:

    同い年ということもあり尼子さんには密かに期待をしています… いつかウィーンかどこかで生でお聴きしたいです。

    • Yuya より:

      志門さん

      コメントありがとうございます。
      そして、明けましておめでとうございます。

      そうですね。
      歌は上手いので、どう声を磨いていけるか・・・
      まだまだ成長できる年齢ですし私も期待しています。

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