Sarah TraubelはDiana Damrauの後継者となりえるか!?

Sarah Traubel(ザラー トラウベル)は1986年ドイツ生まれのソプラノ歌手

 

最近は世界的な劇場や演奏会の中止が重なり、有望な歌手の発掘ができていなかったのですが、ライプツィヒの来シーズンのキャストを調べていた時に、偶然ドイツ出身の秀逸なハイソプラノを発見しました。

 

思えば最近ドイツの劇場で良い歌手を見かけても、意外とポーランドやウクライナ、ルーマニアの歌手が多くて、ドイツ出身の若手はあまり見かけなかったように思います。

なので私の感覚としては、コロラトゥーラを得意とするハイソプラノも、ディアーナ・ダムラウ以降、その後継者と言える立ち位置の歌手が出ていなかった。
少なくともライバル国、フランスの後塵を拝す結果となっていたのは確かです。

そこで今回取り上げるのが、ドイツのソプラノらしい、軽い声ながらも凛とした強い芯の通ったブレない響きと、真っすぐに飛ぶ発音で低音~高音まで正確に歌える歌手、トラウベルでした。

 

モーツァルト 魔笛 O zittre nicht, mein lieber Sohn

人によっては開放感のない硬い声に聴こえるかもしれませんが、ソニークラシックからもCDを出しているところなんかを見ると、人気としてもダムラウの後を担うドイツのソプラノの一人と成り得るのではないかと思います。

ただこの人は、夜の女王以外はリリックな役を歌っているようで、キャリアを見ても、ロッシーニのタンクレーディ以外、ベルカント物やヴェルディは歌っていなさそう。

 

 

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Or sai chi l’onore

ドンナ・アンナに求められる声は本当に難しいと思うのです。
ニルソンのような超ドラマティックソプラノが得意としていた役でもあって、この曲なんかは、強く真っすぐな高音があってこそ栄えるので、軽い声が歌うべき役ではないのですが、後半のアリアは抒情的で後半は技巧も必要なので、繊細な表現やコロラトゥーラの技術も必要なため、重い声の歌手が歌うのは不向き。
そういう意味では、ヴィオレッタと似たところがある気がします。

 

 

そして、ドイツのソプラノと言えばリートが上手いことは、もはや必須条件です。

 

まさかリート伴奏の巨匠、ヘルムート・ドイッチュのピアノでCDを出していたとは!
でも残念ながら現在Amazonは品切れ状態でした。

一応MP3盤もあるので、Amazon music登録している方は聴いてみてください。

 

 

 

この映像の中では、マーラーのリュッケルトの詩による歌曲の
“ich bin der welt abhanden gekommen”を歌っている映像が見れて、大変声もレガートも美しいのですが、ちょっと気になるところがあります。

それは「eine(アイネ)」や2:06~「meine(マイネ)」という発音が何度か出てくるのですが、これを読み方通りに歌ってしまうと”i”母音が浮いてしまう。
あるいは、言葉を奥に引かないといけなくなってしまう。

これは一番開いている”a”母音から、一番狭くなる”i”母音に移行するので、どうしても空間が狭くなってしまうことが原因で響きが浅くなってしまうのですが、これを防ぐためには、ほぼ「マエネ」のようなイメージで(中の空間を変えないことが大事)歌ってちょうど良くなります。
これは、Olga peretyatkoのような一流歌手がマスタークラスで指導してたことでもあるので、私が勝手に言っていることではありません。

この辺りが詰められると、もっとレガートの質や、ピアノの表現での言葉の明瞭さが上がっていくのではないかと思います。
とりあえずリートについては、ドイツッチュの伴奏が上手過ぎる!という感想が真っ先にきてしまう。

 

 

 

モーツァルト 魔笛 er Hölle Rache

こちらは昨年の演奏。
劇的な表現でもヒステリックにならず、この人の夜の女王は本当に技術面だけ見ると素晴らしい。
後は、この曲に美しさを求めるのか、それ以上の感情表現を求めるのかといったところで好き嫌いが分かれるのではないかとおもいますが、コロラトゥーラの技術は申し分ないというのは間違えないですね。

そんな訳で、言葉の立たせ方と感情表現をどう連動させるかというのが今後の彼女の課題なのではないかと思います。
年齢的にまだ30代半ばなので、ダムラウのような華はないかもしれませんが、実力としてはそのレベルに達することができる可能性を感じる才能であることは確かでしょう。

 

それにしても、今の声からは想像もできない位、全盛期のダムラウは今聴いても素晴らしいなと改めて思ってしまう。

 

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