スイスの若手コンサート歌手 Manuel Walser

Manuel Walser(マヌエル ヴァルサー(ヴァルザー))は1989年、スイス生まれのバリトン歌手。

オペラも歌っているようですが、
何よりコンサート歌手として活躍すべく錚々たる歌手やピアニストに師事しているバリトン歌手。それがヴァルサー。

師事した人の名前を挙げると

 

Thomas Quasthoff

 

 

 

Brigitte Fassbaender

 

 

 

Wolfram Rieger(リート伴奏の第一人者)

 

このようにリート演奏の技術を特に磨いてきたことは間違えありません。
そこで彼の演奏動画を探してみると、オケ伴奏の冬の旅の演奏がありました。

 

 

 

Franz Schubert – Winterreise

 

 

オケ版の冬の旅と言えば、私はハンツ・ツェンダー版しか知らなかったんですが、
こちらは正直あまりオケにする意義を感じない演奏というのが個人的な感想でした。

因みにツェンダー版は以下のような感じです。

 

 

 

 

ピアノと歌で、繊細な抑揚を聴かせてこそ冬の旅の魅力は引き立つと思うので、
繊細なピアニッシモの表現が存在しないこの演奏は半分以上の魅力を捨てていると言えば良いのか・・・。
有名な”菩提樹”の木管も今一つ合っているとは思えないし、

ヴァルザーは声だけならゲルネのような、太さと深さのある良い声だと思うのですが、
技術的には冬の旅を歌うには早すぎる。

 

以下がゲルネの冬の旅

 

 

Matthias Goerne;

何が違うかと言えば、声楽的に言う、息が回ってるか回ってないかというところで、
ゲルネの方が、深さと柔らかさがあり、ヴァルサーは直線的で、特に”i”母音なんかはかなり硬い。

 

 

R.Strauss “Cäcilie”

この演奏を聴けばよくわかりますが、最後に「Du liebtest mit mir」という歌詞で音域が彼にとってはかなり高いFis(ファ♯)までいくのですが、H(シ)、Dis(レ♯)、Fisで明らかに音質が変わってしまっています。
この曲は、そもそもテノールやソプラノが歌った方が栄える曲で、原調より完全4度下げてまで歌うというのもどうなんだろう?と思ってしまう。
Rシュトラウスはバリトン用に書いた曲もあるのに・・・

 

それで結局、息が回ってるって何ぞや?
てのが一番重要なのですが、結局のところ咽頭や口腔の空間が狭くなっていたり、
息の圧力が強すぎたり、舌や表情筋に余計な力みがあるために重要な共鳴を使い切れていない状態なんじゃないかと思います。
「回す」という言葉から、耳の後ろを通って息が前に出るイメージを持たされることがあるのですが、ソレやるとまず喉が上がるのと、必要以上に息を吐こうとしてしまうので、結果的に逆効果になってしまう。

これは「喉を開ける」という言葉も似たところがあると思っていて、
舌を引っ込めてみたり、卵が口の中に入ってるような感覚をイメージさせてみたりする方がいますが、これも逆効果。
Giancarlo Monsalveという発声関連の動画を頻繁に出してるチリ人テノールも、声は水平に出す。パッサッジョでも奥に引っ込めない。
横隔膜は力を入れるのではなく引っ張るんだ。
といったことを言っており、実際開放的な声を出しているので、発声技術について興味のある方はMonsalveの動画もご覧になってみると良いでしょう。

 

かなり脱線してしまいましたが、そんな訳でヴェルサーは、若くしてかなり活躍しているバリトン歌手ではありますが、発声技術に関してはかなり改善の余地があるので、このままリートを歌うにしても、イタリア系の歌手から「ドイツ発声」と揶揄される声からは中々脱却できないのではないかと思います。

 

響きの深さと明るさ、声の強さ、発音の明瞭さ、開放感と柔軟さ
これらを備えた最近のリートを得意とするバリトン歌手では アンドレアス・シュミット以上の人はそういないと思います。

 

Andreas Schmidt

シュミットはバスバリトンで、ヴェルサーはバリトンですが、
シュミットの声の方が柔軟で軽やかで明るい。
本当の意味で一流のリート歌いは、こういう声を出せないといけないと私は思うのですが、皆様はヴェルサーの歌唱、どのようにお感じになりましたでしょうか?

かなり厳しめな書き方になってしまいましたが、まだ30代前半なので、これからの成長に期待したいところです。

 

 

 

 

 

4件のコメント

  • 合唱パートはベースです より:

    こんにちは。
    いつもブログ拝見しております!

    私は合唱をずっと続けているのですが、発声をもっと良くしたいと思って、コロナ禍に色々な発声動画や、yuya様が取り上げてらっしゃる発声動画・チャンネルを見ております。
    今回(話の延長で)ご紹介されたGiancarlo Monsalveという方の発声動画もすごいなと思いました。
    特に、別動画ですが、Laryngeal expansion exercise, effortless high Bという動画の、首周りの動き様に驚きました。
    (声楽されている方はここまで動く(拡張)のかと!)

    いつも素晴らしい発声動画をご紹介くださりありがとうございます。

    • Yuya より:

      合唱パートはベースです様

      コメントありがとうございます。
      首回りの筋肉を引っ張ることが、喉を開くことに繋がるので、
      首回りの筋肉を鍛える訓練は、私の先生(マルティヌッチの弟子)にもさせられましたね。
      こういうことを指導してくれる先生は中々見ないのですが、今は海外のマスタークラスや、素晴らしい歌手の方が練習風景を公開したりしているので、そういう部分から盗むのが近道だと思います。
      ただし、上手くできているかどうかは自分では判断が難しいので、耳の肥えてる方に聴いて頂く必要はあるかと思いますので、そこが声楽を学ぶ難しいところですね。

  • 合唱パートはベースです より:

    yuya様ご返信ありがとうございます。
    首周りの筋肉を使うと言う発想が、私が合唱を練習してきた中では全く無かったので目から鱗の思いです。

    >今は海外のマスタークラスや、素晴らしい歌手の方が練習風景を公開したりしているので、そういう部分から盗むのが近道だと思います。

    コロナ禍のおかげ?もあり、最近はとみに動画が増えたと思います。
    もちろん、曲解とかやりすぎとかに繋がりかねないところもあるので、いい意味で話半分というか、参考程度に見て取り入れようとするように心がけています。
    これからもブログを楽しみにしております!

    • Yuya より:

      合唱パートはベースです様

      首回りの筋肉を使うことについて、
      「奥を開ける」という頻繁に聞く言葉の中で、
      「耳の後ろ辺りの蝶番を開ける。」という表現が使われるのですが、アレが実は首回りの筋肉を使って行うことなんですよ。
      顎二腹筋前腹・顎二腹筋後腹・胸鎖乳突筋が繋がっていることを知ると「奥を開ける」ための筋肉の使い方が想像できるようになってくると思います。
      私も色々調べてやっと最近それがわかりました。

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