Peter Seiffert(ペーター ザイフェルト)は1954生まれのドイツのテノール
元々はリリックテノールとしてモーツァルト~イタリア、フランスオペラまで幅広くカバーする歌手だったが、
今では現代を代表するヘルデンテノールとなっている。
彼を異次元と表現する理由は、驚くべき歌詞の明確さにあります。
先ずはニュルンベルクのマイスタージンガーからMorgenlich leuchtend im rosigen schein(朝はバラ色に輝き「優勝の歌」)
こちらが今を一番知名度が高いテノール ヨナス カウフマンの演奏
“Morgenlich leuchtend im rosigen Schein,
von Blüt’ und Duft
geschwellt die Luft,
voll aller Wonnen,
nie ersonnen,
ein Garten lud mich ein,
dort unter einem Wunderbaum,
von Früchten reich behangen,
zu schau’n in sel’gem Liebestraum,
was höchstem Lustverlangen.
Erfüllung kühn verhiess,
das schönste Weib:
Eva im Paradies!”
“Abendlich dämmernd umschloss mich die Nacht;
auf steilem Pfad
war ich genaht
zu einer Quelle
reiner Welle,
die lockend mir gelacht:
dort unter einem Lorbeerbaum,
von Sternen hell durchschienen,
ich schaut’ im wachen Dichtertraum,
von heilig holden Mienen,
mich netzend mit dem edlen Nass,
das hehrste Weib,
die Muse des Parnass!”
“Huldreichster Tag,
dem ich aus Dichters Traum erwacht!
Das ich erträumt, das Paradies,
in himmlisch neu verklärter Pracht
hell vor mir lag,
dahin lachend nun der Quell den Pfad mir wies;
die, dort geboren,
mein Herz erkoren,
der Erde lieblichstes Bild,
als Muse mir geweiht,
so heilig hehr als mild,
ward kühn von mir gefreit,
am lichten Tag der Sonnen,
durch Sanges Sieg gewonnen
Parnass und Paradies!”
朝はバラ色に輝いて、大気は花の香りに満ち溢れ、えも言われない庭園は私を誘う。
快さに満たされて実はたわわに実る、
この不思議な樹の下で、幸福な愛の夢の中に
この上ない喜びで満たすことを喜んで約束してくれたのは麗しい乙女、楽園のエヴァだった。
夕べになると、夜が私を取り囲む。
私は険しい道をたどって清らかな波が打つ泉に近づいた。
泉は私に微笑んで誘った。
そこには月桂樹があって枝の間からは
明るい星が見えた。
詩人の私が夢の中に見たものは優しい身ぶり泉で私を潤すとても気高い乙女、
パルナスのミューズだった!
恵み深い日よ。詩人の夢から覚めて迎えた、恵み深い日よ!
私が夢に見た楽園は新しい栄光をたずさえて私の前に出現した。
泉は微笑んでその楽園への道を示した。
そこに生まれ、私の心が選んだ、
地上で最も美しい姿、その姿がミューズとなって現れたのです。
優しく、また、気高くはあったが私は大胆にも妻に求め
明るく、日の照らす昼に歌の勝利で勝ち得ることができたのです、
パルナスと楽園とを。
カウフマンもリートが得意な歌い手なので歌詞を大事に歌う人ですが、
ライヴなのにザイフェルトは弱音になろうと音が高くなろうと、発音のストレスが変わらない。
語尾の”t”とか”s”は幾らでも聞こえる歌手はいますが、彼”m”と”n”が母音のように響くんですよね、これはありえない。
こんな歌手他に私は知りません。
ローエングリンの録音に関して言えば歴代最高の演奏だと私は思っています。
世間では現在最高のローエングリン歌いはフォークトだ~!と言ってる方が随分いらっしゃるようなので、
どっちが相応しいか聴き比べて頂きたい
あれ?フォークトって巻き舌できない!
GralとかKraftとか強い言葉に全く力がないじゃないか!てことが判ってしまう訳ですね。
最近でこそ高音が少し揺れてきてしまいましたが、
それでも、無駄なビブラートが全くない歌唱は健在で、
パワーに任せて歌うヘルデンテノールとは一線を画しているにも関わらず、声量に関して異議を唱える人がいないのです。
そんな中でも極めつけの演奏はこのトリスタンでしょう
途中で休憩が挟まってたりでノーカットの録音になっていますが、
全部聴く時間はとてもない方は、3時間57分辺りからの3幕のモノローグを聴いて欲しい。
声ではなく言葉で圧倒的なドラマを展開している。
こんな演奏はヴィントガッセン意外に聴いたことがありません。
Asの音での”a”母音の発音
私がこの人を異次元の表現するにはもう一つ理由があり、
ご覧の通り、この人は口の開け方基本的に横です。
勿論舌はとてもリラックスしているのですが、本来この形だと、かなり響きが浅くなります。
ザイフェルトの響きは深い訳ではないですが、決して浅い声ではありませんし、
低音で少し詰まる感じがすると言えばそうかもしれませんが、中音域の安定感とブレスコントロールの技術は文句のつけようがありません。
筆者は彼の歌い方を色々研究して実践してみようと思いましたが結果は悲惨なものでした。
この歌い方は、彼の体格と骨格をもってして初めて成しえる一世一代の歌唱方ではないかとさへ思ってしまいます。
お勧めCD
一にも二にもローエングリン全曲。これしかない!
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ザイフェルトの他にも、ファルク・シュトルックマン、ヴァルトラウト・マイヤーと当時全盛期の彼らが残した最高の演奏だ!
ローエングリンは幾つも録音を聴いているが、歌手、録音の音質、オケ全てで最高レベルにある。
更にノーカットでの演奏というのも歴史的に価値がある。
[…] 異次元のヘルデンテノールPeter Seiffert […]
いつも素敵な歌手を紹介してくださり、感謝いたしております。
ザイフエルトは、イタリアオペラのアリアを歌ったCD(EMI盤)を以前購入しています。最近はワーグナーをレパートリーとして活躍していることはこの記事で知りました。探して購入してみます。貴方のおっしゃる通り、日本では有名でなくても、素晴らしい歌手はたくさんいるようで、ここ数年、1960年代にスカラのプルミエに登場したテノールのCDを探して購入しています。お陰様で、私の趣味の幅が広がり、歌の世界の深さを少しだけ張り込むことができた印象です。今後とも、いろいろな歌手を紹介してくださることを願っていますし、私も趣味として道の歌手に出会うことを楽しみたいと思っています。
カズマさん
度々コメント下さりありがとうございます。
逆に日本では知名度が高くても、世界的にはそれほど評価されていない歌手もいますね。
ザイフェルトは近現代でも特に優れたヘルデンテノールだと思います。
60歳を過ぎても平気でトリスタンを歌えてしまう技術には感服するしかありません。
懐かしい名前を見つけしまいました。私が彼を知ったのは1980年代後半、ベルリンドイツオペラで魔笛のタミーノを聴いた時でした。ベルリンではアラベラなど幾つの舞台を観ました。当時はリリックテノールでした。