Enea Scala(エネア スカラ)はイタリアのテノール歌手
まだ若手でありながら、この人の声にはイタリアオペラの黄金時代を代表する歌手、Giuseppe di Stefano(ジュゼッペ ディ ステファノ)
を想起させる魅力に溢れています。
言葉で説明するより実際に聴いて頂くのが一番なので、
ラ・ボエームのChe gelida manina(冷たき手を)で聴き比べてみましょう
エネア・スカラの演奏
ジュゼッペ ディ ステファノの演奏
いかがでしょうか。
今ではロシアやアメリカの歌手に主戦場を席巻され、何かと影の薄くなってきているイタリア人テノール達ではありますが、
それでも、この熱く輝かしい響きはイタリア人にしかない特徴なのではないでしょうか?
経済的に危機的なイタリアという国にはこういった希望が必要である。
さて、ここまでは純粋に声の良さを称えてきた訳ですが、もう少し冷静になって彼の歌を分析してみましょう。
上の動画だけでは想像できないかもしれませんが、彼はペーザロ ロッシーニ音楽祭に出ているようなロッシーニテノールなのです。
つまり、アジリタの技術もしっかり持っているということ。
アジリタとは、簡潔に言えば速いパッセージを転がるように歌う技術と言えばわかるでしょうか。
こちらが2013年ペーザ ロッシーニ音楽祭での演奏。
これだけ強い声でありながら、ロッシーニを歌えるところは、少し前の歌手で言えばChris Merritt(クリス メリット)、
最近ではすっかりオテッロ歌いてしても第一人者になったGregory Kunde(グレゴリー クンデ)
という高速で走る重戦車みたいな歌手がいた訳ですが、スカラはタイプが少し違う気がします。
確かにクンデのように、強弱表現もアジリタの技術も文句なし、というレベルには達していませんが、
どんな音域でも、発音でも声の輝きが損なわれないというのは特筆すべき点でしょう。
そういう点でもステファノと類似していると言える訳ですが、もし、そこまで似ていると不安になるのが、
声を失うスピードも速いかもしれない。と言うこと。
そこで今年の演奏になるa donna e mobile(女心の歌)を聴いてみると
明らかに2年前、3年前とは変わっています。
美声の開けっ広げからやや響きが集まった印象と共に、
曲目に寄っては、以前より音色が暗く聴こえたり、
場合に寄っては少し喉が閉まった印象を受けることがあるかもしれません。
しかし、声の消耗ということを考えると、「冷たき手を」を歌ってる時の動画より遥かに負荷が少なく、効率的にブレスコントロールができています。
それは、女心の歌の最後のアジリタが2013年の演奏と比較して遥かに明瞭になったことからも分かるでしょうか。
こんごどのようなレパートリーを歌っていくかによって、彼の声は大きく変わってくるでしょうが、
2019年までのスケジュールを見た限りでは、ヴェルディの軽めの役柄
椿姫のアルフレード、ファルスタッフのフェントン、リゴレットのマントヴァ公爵などのようなので、
これらの役で日本に来てくれることを強く願いたいものです。
そして失われつつある、イタリアの伝統的なテノール声の復活を願わずにはいられません。
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