Saimir Pirgu(サイミール ピルグ)は1981年アルバニア生まれのテノール
若い頃から完成された声を持っており、20代半ばで既に世界的に注目を集めていた。
これが22歳の時の演奏である。
響きが全く上顎から落ちないし、どの母音でも音域でもピントがブレない。
驚くほどに完成された発声技術を既に習得している。
まはや天から圧倒的な才を与えられたテノールと言っても言い過ぎではないだろう。
日本に初来日した時、意気揚々とサインを貰いに行ったのだが、大変愛想が良くて、真面目そうな好青年であった。
この通り頂いたサインもとても丁寧で、
あれだけの才能に恵まれながらも謙虚ときたものだから心から応援したくなる。
さて、現在は36歳
テノールとしてはこれからが全盛期という年齢である。
今後どのような声になっていくのかという面で、気になるのがピアニッシモの表現
ヴェルディのオペラ シモン ボッカネグラ O inferno! Amelia qui!… Sento avvampar(おぉ怒りの炎が)
ヴェルディの中期以降を歌うにはやや線が細いというのもあるが、
ピアニッシモで抜いたような声になってしまうのは頂けない。
他の表現が全てしっかり正しいポジションに当たっているだけに、ピアニッシモも同じ場所に通してほしいところ。
こちらがが今年、東京の春音楽祭でのボエームの映像
この人の好さでもあり、欠点でもあるのが言葉の言い回しの潔癖さ。
発音は明確なのだが、下手をするとどこか淡泊な印象を受ける。
それは2016年の同じくボエームよりChe gelida manina(冷たき手を)でも同じである。
上手いのだが、今一つインパクトが弱い
この曲の演奏で、個人的に好きなのはサルヴァトーレ フィジケッラ
ハイCの美しさは言うまでもないのだが、その後の表現が一番重要だ。
Or che mi conoscete,
parlate voi, deh! Parlate.
Chi siete? Vi piaccia dir!
さて これで私のことをわかりましたね
あなたが話してください さあ、話してください
あなたは誰ですか? よろしければ話してくれませんか
この歌詞をどのように歌うかで、次のミミのアリアを引き出せるかどうかが決まると考えた時、
実はこのアリアで一番難しいのはこの部分であることがわかる。
ハイCを出したからと安心していい加減に歌うような歌手は論外なのだ!
その辺りでピルグはまだまだ色気がない。だからと言って相手を圧倒するような情熱もない。
何が正解という表現はないにしても、安易な言い方をすればこの人の歌には温度が足りないというのは多くのかたに同意頂けるのではないかと思う。
常に清潔でお行儀が良い。それは時に退屈でもある。
フォームを崩すことなく、今後どのようにそこを克服するか楽しみだ。
彼にはまだまだ多くの可能性がある。
ピルグのCDはサイン入り写真を乗せたアリア集くらいしかないが、
今後も活躍するであろう彼の若い時の声の記録として持っていても損はない。
[…] 相変わらず低音域は響きが落ちる。 逆に、アルフレードを歌っているピルグが以前の記事にも書いた通り、現代屈指のテノールであることもあって、 […]