Diana Damrauはイタリアオペラを歌うべきではない理由とその証拠

Diana Damrau(ディアーナ ダムラウ)は1971年ドイツ生まれのソプラノ歌手
花形のコロラトゥーラを売りにするプリマとして、
ナタリー ドゥセイ以後で最も成功している歌手と言えるだろう。

このところのドイツ系の歌手はカウフマンにしろ、このダムラウにしろ、リートをライフワークとしながら、
オペラ歌手としても一流の地位を築いている。
バリトンならミヒャエル フォッレ、アドリアン エレート、
テノールならダニエル ベーレといったところだ。

だが、どうもダムラウのイタリアオペラには違和感を感じる。
どうもイタリア語の発音と彼女の発声、あるいは楽器との相性はドイツ語を歌う時のそれと比べれば
明らかによくない。
今回はそれを検証していき、50歳を迎えるにあたり、
今後彼女が歌っていくべきレパートリーについて考えたいと思う。

 

デビューは1995年とのことだが、音源が見つからないので、
見つかった一番若い時の音源から紹介していこう

1997年(26第)

歌っている場面はあまりないが、貴重な映像である。
コロラトゥーラを得意とするソプラノは大抵デビューが速い。
と言うか、完成が速く、全盛期は20代後半~30代半ばというのが一般的なので、
ダムラウの場合は、比較的デビューが遅いと言える。

この映像からでは判断は難しいが、意外と低音域もしっかり鳴っていて、
ハイソプラノというより、リリコに近い声質に聴こえる。

2001(30歳)
モーツァルト ルーチョ シッラ Parto, m’affretto

 

モーツァルト 魔笛 夜の女王のアリア Der Hölle Rache

https://www.youtube.com/watch?v=Fpl1evd-ZV0

この時は、イタリア語の響きがドイツ物を歌っている時と同じで、
イタリア語っぽい母音の明るさや明確さはないが、一方で響きにあまりブレもない。
今回は、あまり発声的な部分で良し悪しを書くつもりはないが、この時の夜女はかなり力みがあるようで、
ハイFは一応ハマッているようだが、それ以外の高音はかなり勢いで歌っている感じで、手放しに良い演奏とは言えない。

2002年(31歳)
※この年にスカラ座デビュー
ドニゼッティ ドン パスクワーレ全曲

0:25:30 ノリーナのアリア

前年のモーツァルトよりイタリア語の発音が明確になったのは良いが、
ドン・パスクワーレとの重唱や、
ちょっとしっとりする部分1:09:00辺りからを聴くと、
他の歌手に比べてチリメンヴィブラートが耳についてしまう。

 

マイアベーア ユグノー教徒 O beau pays

いかがだろうか?
フランス物の時と、イタリア物での響きの違いは一聴瞭然
こちらの演奏は無駄なヴィブラートがほとんどないのがお分かり頂けるだろうか?

2005年(34歳)
リヒャルト シュトラウス Wasserrose (スイレン)

 

シューベルト Da quel sembiante appressi (その顔から私は学んだ )

不勉強ながらシューベルトがイタリア語の曲を書いていることを知らなかったのだが、
シュトラウスはハマり過ぎる程ダムラウの声や表現がぴったりなので、
他の作曲家の作品の演奏と比べることそのものがあまり良くないように思われてしまうのだが、
イタリア語を歌った時の”e”母音には癖が出てしまうように聴こえる。

 

パヴァロッティがシューベルトのアヴェ マリアをイタリア語で歌っている映像があるので、
ダムラウのイタリア語の感覚と比べてみて欲しい。
シューベルトの様式感としては断然ダムラウが正しいと思うのだが、
言葉の力を引き出すのはパヴァロッティの方だ

https://www.youtube.com/watch?v=B7sz-En87Vc

こういう部分から見ても。ダムラウはイタリア物を歌うのに向いているとは言い難い。
と言うより、シュトラウスがこれだけ素晴らしく歌えるのだから、あえてイタリア物に手を出す必要性はない。

2009年(38歳)
ハープ伴奏によるリーダーアーベント

ハープ奏者のドゥ メストレと組んでのリーダーアーベントは彼女にとってとても重要なライフワークのようで、
生涯こういう活動を続けていきたいと語っていた。
勿論オペラ歌手としての魅力はあるが、こういう活動の方が彼女の声には絶対に合っている。

2012年(41歳)
ヴェルディ 椿姫 Follie! Sempre Libera

2010年以降は怖いものなし。と言った感じで、
声にも演技にも自信がみなぎっていて、技術的にも表現的にもとにかく充実している。
そしてイタリアオペラがレパートリーの中心になる。
ただ、時々音の入りでひっかかったり、中低音がハスキーになってきている。
全盛期と言えばそうかもしれないが、この歌い方は危険でもある。

本来ダムラウより、本来の声がリリコのアンナ モッフォの方が軽く歌っているのがその証拠

https://www.youtube.com/watch?v=Tzo-qe6jxOo

 

2013年(42歳)

レイナルド アーン L’heure Exquise (恍惚の時)

このアーンの演奏は実に良い
だが、中音域が確実にハスキーになって揺れはじめていることが分かる。
こういう繊細な曲を歌う場合は、(※)無駄なヴィブラートを極限までそぎ落とすことが重要

※ノンヴィブラートではないので注意。
厳密には人間の声でノンヴィブラート(倍音が存在しない)声はあり得ないし、
あったとしたら、それはもはや電子音と同じなので、ヴォカロに任せるべき領域なのである。

2017年(46歳)
リヒャルト シュトラウス Morgen(明日)

細く出そうとしているが、伸ばしている音がことごとく揺れている。
響きのポジションが確実に5・6年前より下がっているし、
2005年のスイレンの演奏と比べて頂ければ、言葉に対する感覚も明らかに鈍っている。

 

2018年(47歳)
ヴェルディ シチリアの晩鐘 Mercè, dilette amiche

https://www.youtube.com/watch?v=lq-b_0tKJ2I

低音が徐々にネトレプコ化してきた。
レガートも今一つで、どうも声が不自然な響きになり始めている。
もしやステロイド使いだしたか?

 

今後彼女が一流であり続けるためには!?

 

一番手っ取り早いのはコンサート歌手に専念することだと思うが、その可能性は限りなく零に近い。
兎に角、2012年頃から椿姫をやたら歌うようになり、現在でもそれが続いている状況を何とかしないと、
50歳まで声がもつか怪しい。

今の状況から見て50歳までにどうなるかを予測すると、


悪い方向として可能性が最も高いのはノルマに手をだす。
そこからヴェリズモ作品やアイーダ辺りを歌うようになる可能性


レパートリーの一新
バイロイトにエルザやエリーザベト辺りで出演するなど、
それはギャラ的に低い可能性ではあるが、こっちにいくなら新たな可能性は開けるかも

 

低い音も鳴らせばなってしまうだけに、勢いで歌っても上手くいっていた部分もあったが、
今後はそうもいかないだろう。
レパートリーか歌い方(発声というより、表現手段)をどうマイナーチェンジしていくかで、
これからも一流歌手でいられるかどうかが決まる!
タイトルでは脱イタリアオペラとして書いたが、
更に絞れば脱ヴィオレッタが喫緊の課題という結論だ。

 

 

CD

2005年のリーダーアーベント。
個人的には彼女のCDで一番か


2003年、売れ始めた頃の演奏


リート伴奏の第一人者ヘルムート ドイッチュと組んだリストの歌曲集

 

 

11件のコメント

  • […] という内容の記事を書いたが、(ダムラウの記事はコチラ) ヴンダーリヒもドイツ語ではあるが、全く声に合わないNessun […]

  • […] 魔笛のパミーナ役も若い頃はやっていたが、もともとは古楽で成功した歌手だったので、 リートをもっとやっていればよかったのである。 この演奏では”i”母音は崩れておらず、”a”母音は時々鼻に入るとは言え、 それでもイタリア物とは全然違って整っている。 過去の記事でディアーナ ダムラウもイタリア物でフォームが崩れることを指摘したが、 レシュマンもイタリア物を本来は沢山歌うべきではなかったのかもしれない。 […]

  • […] Diana Damrauはイタリアオペラを歌うべきではない理由とその証拠 […]

  • […] ダムラウの没落については過去記事 <Diana Damrauはイタリアオペラを歌うべきではない理由とその証拠>でも取り上げているので、 […]

  • いー より:

    ディアナダムラウって、日本の唱歌を歌ったアルバムがあるようですね。
    YouTubeのあなたのおすすめで、彼女の日本語で唱歌を歌った曲を聴きました。
    あれ?こんなアルバム発売してたっけ?と思い、ワーナーミュージックジャパンのホームページでアルバム作品を検索しましたが、ありませんでした。

    • Yuya より:

      いーさん

      それは私も知りませんでした。
      YouTubeにあるんですね。探してみます!
      情報ありがとうございました。

      • いー より:

        指揮ケントナガノ、演奏モントリオール交響楽団です。
        もし分からなければケントナガノのアルバムで検索してみたら良いと思います。

        • Yuya より:

          ありました!

          HMVにCDありましたね
          https://www.hmv.co.jp/news/article/1409040044/

          しかも2010年と絶頂期にこういうCDを出していたなんて、親日家というイメージもなかったのに不思議。
          児童合唱もモントリオールですが日本語歌唱とは、かなり凝ってる代物ですね♪

          • いー より:

            夜遅くすみません。
            確か図書館で音楽雑誌のコピーをしたと思い、探したらありました。
            雑誌レコード芸術に、ディアナダムラウのインタビューがあってそれをコピーしていました。
            そしてそのインタビューの中にその日本歌曲(唱歌)の事を語っていましたね。
            インタビューしたのは岸純信さんです。

  • yosok より:

    Mercè dilette amiche などはもともと原曲(原文)がフランス語なのですから、元のフランス語版で歌うという選択肢はなかったのでしょうかね?
    オペラ自体を全幕演る前提でイタリア語で、と決まっていたのであれば仕方ないですが…フランス語版の上演があまりにも少なくて悲しいです。
    フランス語の方がピッタリと言葉が音楽にハマるのですよ♪
    いずれにせよDessayしかり、売れっ子になると喉を酷使するばかりになるので、余計な所に力が入らないよう発声法が完璧である事が大前提、しかも慣れない言語には手を出さない、くらいの覚悟が無いと絶対に喉を壊します。
    それでも毎日毎日旅に舞台では、最終的に壊す可能性が高いのですが、歌手寿命は延びると思います。

    • Yuya より:

      yosok様

      コメントありがとうございます。
      歌手の寿命については大変難しい問題ですね。

      容姿がどうでも良いと言うつもりはありませんが、誤解を恐れず言えば、オペラにルッキズムを持ち込むことが若手の才能を壊す一番の原因だと思っているので、
      演出家が力を持っている限り歌手が身を守るのは非常に難しいと感じています。

      後もう一つ、コロラトゥーラを売りにしていたソプラノやロッシーニテノールは年齢を重ねればどうしても若い時と同じようには歌えなくなってしまうので、そこでその時の身体に合った歌い方やレパートリーにシフトしていけるかが重要でしょうね。
      グルベローヴァやセッラのようなほぼずっと同じ声でキャリアを通して歌い続けられる人は奇跡みたいなものだと思います。

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