Erna Berger(エルナ ベルガー)1900~1990 はドイツのリリックソプラノ
戦前~1950年頃にかけて活躍したコロラトゥーラ得意とした、とても軽い声のソプラノで、
WIKIには「She was best known for her Queen of the Night and her Konstanze」
と書かれる程の夜の女王の名手である。
いきなりだが、こちらの演奏をまず聴いて頂きたい
シューベルト Abendrot(夕映え)
これが80歳の演奏である。
真っすぐで、全く濁りのない声。
昨日取り上げた田中彩子のような歌手が30代半ばですでに声が揺れているのとは雲泥の差である。
しかし、ベルガーの演奏を全く知らない方は、若い頃の演奏を聴くと逆に驚くかもしれない。
と言うのは、浅くて可愛らしい声に聴こえるからだ。
声楽を習ったり、合唱をやっていれば、こういう声は大抵、
「浅い。おっと縦に開けて!」
と注意される声である。
モーツァルト 魔笛 Der Hölle Rache
全体的に鼻に掛かるような響きで、とても今の感覚からは良い声には聴こえないかもしれない。
だが、一方で、日本人ソプラノと比較して何が違うのかを考えて頂きたい。
例えば、今新国などで名前を見かける鷲尾麻衣
さぁ、この二人を比較して、
「鷲尾の方が上手いじゃん!」と思った方もいるのではないかと思う。
そんな方は、こちらの曲も聴いてみて欲しい
小林秀雄 落葉松
一方 ベルガー
メンデルスゾーン Auf Flügeln des Gesanges(歌の翼に)
夜の女王ではあまりわからなかったかもしれないが、
高音で勝負しない曲で聴き比べれば違いはハッキリするだろう。
鷲尾の母音はすべておちて響きが暗くなっているため、まったく言葉に聴こえない。
結果としてレガートで歌えない。
夜の女王も、全てアタックで声を出しているので、喉に掛かる負担は相当大きいと予想される。
一方ベルガーの歌唱は、
多少鼻声っぽさがあるにせよ、全ての言葉が前で処理できているので、
声が軽くても低音はちゃんと言葉として聴こえてくるし、レガートで歌える。
日本人の学生なんかは特にこういう歌手をもっと参考にすべきなのだが、
ベルガーのようなタイプの歌唱は現代的感覚では受け入れられないらいし。
Rシュトラウス ナクソス島のアリアドネ Grossmächtige Prinzessin(偉大なる女王様)
今売れてるコロラトゥーラ Erin Morley (エリン モーリー)との比較
いかがだろうか?
ベルガーが如何に楽に声を出しているかがよく分かる。
モーリーの高音は強いが、音の高低で響きの質が変わる。
低音ははっきり言って全然出てない。
正しい発声というのは人の数だけ存在するので、
鼻に掛かり気味になったり、奥行きがある分、発音が聞き取りにくかったり、
もちろん明るい音色もあれば暗い音色の人もいる。
それは骨格的な違いや、言語的特徴など様々な要因があるので当たり前なのだが、
問題は、どこまでの範囲が万人に共通するのかということだ。
だから、
頭から声が出る人間も、お腹から声が出る人間も実際いないので、
そんなスピリチュアルなものを捨て去って、人間であれば共通する身体の動きを把握する。
これが結局は大切になる。
結局何が言いたいかと言えば、
エルナ ベルガーの声は発声的な癖も、発音的な癖も確かにあるが、
それでも、絶対的に正しい部分が彼女の歌の中にあるということ。
この声と、多くの日本人ソプラノの声の決定的な違いこそが大切なものなのである。
80歳をして冒頭のような歌を歌えていることが何よりの証拠である。
CD
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