Liene Kinča(リエネ キンチャ)はラトヴィアのソプラノ
年齢は調べても出てこないのだが、本格的にワーグナーの主役を歌いだしたのは2015年辺りのようだ。
このタイミングでこの人を取り上げた理由は一つ。
2019年 新国のタンホイザーでエリーザベト役を歌い、
称賛する声が最も聞かれるからである。
その一方で、私は結構散々書いたので、YOUTUBEにあるジークリンデ役を例に、
その歌唱を改めて検証しようと思う。
2017年 アン・デア・ウィーン劇場
ワーグナー ヴァルキューレ 1幕
全部を検証するのは大変なので、
Du bist der Lenz(あなたこそ春)を取り上げる。
※この映像では57:30~
その前に、エリーザベトでの一般的な感想と私の感想は以下の通り
<世間的な評価>
◆声量がある(通りが良い)
◆透明感があって美しい声
◆低音~高音までムラなく鳴る
<私の感想>
◆声は通る
◆レガートができない
◆言葉が聴こえない
◆喉にひっかかる音が気になる
※喉に頼った発声
◆役には合っている声質
◆無駄なヴィブラートがない
<ジークリンデの検証>
声量について生で聴かないと何とも判断しようがないので、
ここでは検証の対象外
とにかくこの人の声質について称賛する声が多かった。
と言うより、声の通りと声質以外に触れている記事を見なかったくらい、
この部分が突出して優れていた。と多くの方には感じられたようだ。
しかし、やっぱりこの映像を見ても自分の感覚が間違っているとは思えない
(59:00~の歌詞)
hell wie der Tag taucht’ es mir auf
o wie tönender Schall schlug’s an mein Ohr,
als in frostig öder Fremde
zuerst ich den Freund ersah
(日本語訳)
昼のように明るく浮かび上って、
おぉ、鳴り響く声が私の耳にこだました
冷たく虚ろな見知らぬ人達の中で、初めて待ちわびた友を見出した
分かり易いのはこの部分なので、問題点を解説すると、
●「hell、Tag、auf」
全部の音でズリ上げて歌っている。
一般的に下から音を取る、しゃくり上げるという表現をするが、
これはやってはいけない。
●「auf」の”a”
声がブレイクしている。
声が裏返るのと同じで、喉に負荷がかかっている証拠
●「schlug」
ズリ上げにプラスで、1音節のはずが、日本語発音のように”シュル”という2音節になっている
●「öder」
”ö”で完全に声がブレイク。
上記の”auf”より明確にやらかしている
●「öder」、「Fremde」
語尾が強過ぎて言葉のアクセントがおかしい
●「Freund」
日本語発音のフロイント。
●「ersah」
”er”、”sah”両方とも声がブレイク
<声のブレイクについて>
このブレイクしているのが表現だとしたら、
テノールで言えば、一々泣きを入れて声を裏返しているのと同じである。
ジークリンデでそんな表現はあり得ない。
<発音について>
二重子音で母音が入ってしまうというかなりマズイ症状
コレは早急に直した方が良い。
まだ若い歌手なので改善できるとは思うが・・・。
アクセントについても、まだ声だけで表現しているので、
言葉のスピード感がまるでない。
シューベルトの歌曲とか歌わせれば一発で粗が見えると思う。
<発声的な問題について>
声自体は美しいが、
結局発音が奥まってしまって、高音でズリ上げる状況、
低音での響きが高音と比較すると圧倒的に貧弱
よってレガートで歌うことができない訳だが、これは発声の問題が大きい
キンチャ:高音のフォルテ”o”母音
ザビーネ ハスの高音のフォルテ
先日の記事で紹介したハスとの口の開け方を見れば違いは一目瞭然
キンチャは舌が奥に入ってしまって唇も力んでいるのに対して、
ハスは舌や唇に無駄な力が入っておらず、表情でも首から上の力み具合の違いが見て取れると思う。
随所で指摘している通り、上唇を吊り上げて前歯を見せるようなフォームは喉が上がるのでよくない。
似たような声質で、同じように奥まった発音をする歌手で比較
レオニー リザネク
この人はキンチャに似ているタイプの歌い手だと思うので、
上記の欠点をある程度克服できればこうなるのではないか?
という予測でこの人の演奏を比較の対象に選んだ。
<検証結果>
検証してみた結果として、
かなり癖が付いた歌い方になってしまっている印象を受ける。
この映像では字幕もあるためか発音が全く聴こえないということはなかったが、
発音が奥なのは確かだ。
兎に角喫緊の課題は
❶ズリ上げる癖を治す
❷”schlu”などの二重子音で”シュ”という母音が入らないようにすること
➌喉で押さない
声がブレイクする原因は絶対コレ
ここをクリアできないと正直すぐにステロイドのお世話になることになると思う。
折角美しい声を持っているので、しっかり自身の癖を治してもらいたいものだ。
ある意味持ち声だけでこれだけ歌えているというのは驚くが、
若くして声を亡くしてしまっては本当に勿体ない。
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