Rosalind Elias(ロザsリンド エリアス)1929年米国生まれのメゾソプラノ歌手。
50年代~メトを中心に活躍し、
80歳を過ぎてからブロードウェイミュージカルに参加するという驚くべきキャリアを現在進行形で築いている人
83歳の歌唱がこちら
最初に歌ってるバリトンはGeorge Petean(ジョルジュ ペテアン)という1976年生まれのルーマニアのバリトン
なんとも現代の米国で活躍する歌手らしく、デカい良い声であるり、高音も強いのだが、
エリアスとは決定的に発声が違う。
声を当てるような歌い方でレガートで歌えないバリトンと、80歳を過ぎてさへソプラノ顔負けのしっかりした高音と、
全く無駄なヴィブラートの掛からない深く真っすぐな中低音。
そして一本の線でどこまでも繋がっていくかのような美しいレガート。
口のフォームを見ても分かる通り、上の歯を見せて歌ったりなんか絶対せず、
全ての声が上顎に張り付いているようにブレない。
80歳のエリアスにすら現代の多くのメゾは敵わないのではないか?と思ってしまうほど。
余談だが、この演奏は2013年ということで、現在ペテアンは少し歌い方が変わっており、
もう少し柔らかい歌唱になったが、当てるような声の出し方は変わっておらず、
アッティラのアリアでは高いBも決めてはいるが、やはりレガートで歌うことはできていない。
この演奏には驚いた。
速いリズムでありながら伸縮自在で、リズムのキレが何とも言えない。
好き勝手歌って間延びする演奏、
無駄にドスの効いた声で、魅惑的というより恐怖しか感じないカルメンもいたりするし、
一方では漂白剤入りで、まったく惚れられても用心する必要がなさそうなカルメンまで、
あまりに有名過ぎる曲故、歌手のセンスが問われる曲な訳だが、エリアスの演奏は何だろう。
ドロドロした所は全くないのだが、だからと言って無色透明では決してなく、確かに王的な個性が存在している
現代の米国歌手と比べると差は歴然だ。
ケイト アルドリッチ
エリアスの演奏を聴いた後でアルドリッチを聴くと、実に間延びした退屈な演奏に聴こえないだろうか?
一番で終わりで良いよ。まだ歌うのか!みたいな。
とにかく同じことを二回やってるだけにしか聴こえない。
一方エリアスはリズム感を失わず、節回しを自在に変えている。
声については比較する必要もないだろうが、
口のフォームが全く違う。
アルドリッチの最高音
エリアスの最高音
アルドリッチの方が口が縦に空いているではないか!
と思う人もいることだろうが、
「縦に開ける」というのが中々曲者で、上唇が硬くなってはいけない。
エリアスとアルドリッチの歌唱では上唇の動きに注目してほしい。
「l’amour」の”u”母音がアルドリッチは低音だと浅い”u”
高音だと”o”に近すぎてしまって正しい”u”母音の響きになっていない。
原因は一つではないと思うが、上唇に力が入っていることが大きな原因と考えるのが自然。
アルドリッチ「l’amour」の”u”(3:00)
エリアス「l’amour」の”u”(2:50)
”u”母音を歌う時、日本人は特に浅くなるので唇を突き出して発音するよう指導されることがあるのだが、
実際はそこまでする必要がないことが多い。
それどころか、逆に上唇が硬くなると高音では”u”にすら聴こえなくなってしまう。
勿論アルドリッチを聴いての通り、音域によっても母音の響き方が変わってしまう。
上唇を必要以上にすぼめると、縦に口が空いているように見えて、実は空間が狭くなっているだけで逆効果である。
1959年の録音で30歳と若い時の演奏。
声に若干硬さがあるのだが、それでも決して低音を押すことはしないし、
響きの位置は安定している。
これから歳を重ねて軽い響きに移行していくのだから素晴らしい修正能力である。
テノール アルフレード クラウス
バリトン ジョルジョ ザンカナーロ
こちらは1978年の録音で、50歳手前の演奏
音質があまり良くないが、キャストが凄過ぎる。
クラウスは勿論最大の当たり役なので有無を言わさぬ説得力があるのだが、
エリアスも深さと柔らかさの中に芯の通った素晴らしい響きで、アズチェーナの声とは全く別物。
気になるとすれば、ややチリメンヴィブラートが掛かっていることだが、そこまで気になる程ではない。
こんなに包容力に満ちた高音を出すメゾソプラノはそういない。
理想的なシャルロッテの声ではないかと思う。
これだけ優れた歌手で長いキャリアを誇っているにもかかわらず、
ソロで出しているCDがないというのは、レコード会社は一体何を考えているのかと言いたくなる
それにしても、戦前生まれの米国歌手には素晴らしい人が多いにも関わらず、
実力に見合った評価を受けていない。あるいは日本での知名度を獲得していないように思われる。
本当に勿体ない。
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