Giulia Semenzato (ジューリア セメンツァート)はイタリアのソプラノ歌手。
何年生まれかは調べられなかったが、まだ30前後ではないかと思う。
イタリアには、バロック音楽を得意とする有名な歌手がソプラノにはあまりいないが、この人は珍しくバロック~古典派を得意とする歌手である。
ドイツ、英国、フランスでは古楽を得意とする歌手が多く出ているが、
イタリア人歌手では中々そのような歌手は見かけないことを思うと、セメンツァートはそれだけでも目(耳)を引くところがある
最近はヴェルディも歌っているようだが、現在の本職は間違えなくバロック~モーツァルト作品であろう。
この演奏が2018年、スカラ座でのもの。
大劇場で歌っているとは思えないような小さめの編成のオケに乗って、
セメンツァートも近い観客へ向けて歌っているような、8割程度の声で余裕を持って歌っているのがわかる。
明るい響きで滑舌よく歌われ、強弱の変化やテンポの緩急をほとんどつけず、
小気味よく言葉のアクセントはしっかりついている演奏。
モーツァルト作品ではあるが、フィガロやドン・ジョヴァンニのような有名な大作を歌うのとは明らかに違う。
こちらも偽りの女庭師から
アリアを歌っているという感じではなく、セリフの延長線上で歌っているようで、
音程によって表現を制約されたり、発音が不明瞭になることがない。
こんな風にモーツァルトを演奏する人がいたのを発見できたのは喜ばしい。
他の歌手と比較してみるとよくわかる
Adriana Kučerová
有名歌手がこぞって歌うアリアではないため、比較対象があまりないというのもあるが、
テンポはセメンツァートの方が遅いのだが、音楽の流れは明らかにセメンツァートの方が滑らかで
跳躍でも決して乱暴にならず、頑張って早口で歌っているという感じがまるでない。
結局はどんな速いパッセージでも深い呼吸と支えとレガートが崩れないことが大事。
と言えばそれまでなのだが、余裕をもって声をコントロールできているセメンツァートには将来的に大物になる可能性を大いに感じる。
この曲を聴くと意外と太い声であることに気付く。
メサイアのソロを歌う多くの歌手に比べて、この人は低音の響きが充実している。
それでいてメリスマも感情と連動した息の流れで、全く機械的な感じがない。
フレミングが歌っている映像があったので是非比較して頂きたい。
Renee Fleming
世の中的には、フレミングの方が有名で一流歌手ということになっていますが、
聴き比べればどちらが上手いかは明らか。
これだけ発声技術に差がある。と言うより、フレミングが結局のところ一流ではないということだ。
英語圏の人間のはずなのに発音が不明瞭で、メリスマに至っては安定感がなく、低音は詰まっている。
メゾソプラノ Giuseppina Bridelli
ルイージ ロッシはイタリアのバロック音楽作曲家、詳細はWikiを参照
バロック音楽はノンヴィブラートで歌う。というのはよく言われることだが、
明確にはヴィブラートは掛かっていて、声が不自然に揺れることとは違う。
特にイタリアバロックは決して暗く倍音の貧しい響きになってはいけない。
Michele de Falco (1688~1732)というイタリアの作曲家が作曲したオラトリオの中の一曲
最初に紹介したモーツァルトの演奏とは別人のように硬質でやや細めの声である。
声だけ聴くとドイツ語圏の歌手か?と思ってしまうほどなのだが、この演奏が2016年。
そう考えると、紹介したメサイアの2019年までに、随分と中低音が豊になったのがわかる。
この演奏も十分素晴らしいが、曲全体を通して全てが全力投球をしている感があり、低音も響きが細いので一本調子な感がある。
そう考えると、まだまだ上手くなっていく可能性は十分ある。
いままでイタリアの有名ソプラノと言えば、コロラトゥーラを得意とするベルカント物を中心に歌う歌手か、
ヴェルディやプッチーニ、ヴェリズモオペラのヒロインというイメージだったが、
セメンツァートは新たな領域のスターイタリア人ソプラノとなれるのか、それとも結局は王道作品を歌う歌手になるのか、
今後のレパートリーも含めて、どのような歌手になっていくのか楽しみである。
Giulia Semenzatoについてはカヴァッリの「恋するヘラクレス」Ercore AmanteのDVDの中で複数の役を歌っており、初めて聴きましたが冒頭のプロローグから大変優れた歌唱力を聴かせています。確かに言われる通りバロックや古典派を得意としているように感じます。ロマン派でもロッシーニあたりまでなら十分歌えるのではないかと思います。ロッシーニの「セヴィリア」などはロココの延長線上にある作品です。しかしプッチーニやヴェルディあたりになると肥大化したオケの音量に負けないだけの声量と声の幅を要求されるため無理があります。バロックや古典派では逆に軽めの声が適しているため十分活躍できる余地があります。今後に発展する才能と将来性を感じさせるソプラノではないかと思いました。