Miriam Albano (ミリアム アルバーノ)はイタリアのメゾソプラノ歌手。
この人の面白いところは、ベネツィア生まれなのですが音楽の勉強の中心がウィーンであることです。
習っている人も、ローベルト・ホルを始め、
アンネ ゾフィー フォン=オッター、ブリギッテ ファスベンダー、
歌曲伴奏の名手であるヘルムート ドイッチュ、マルコム マルティヌーのマスタークラスを受けています。
どうりて最近のイタリア人メゾに多い、硬い声で超絶技巧をこなすタイプとは一線を画した歌い方をされている訳です。
アルバーノが注目されるようになったのは、2015年のNEUE STIMMEN という有名な国際コンクールで優勝したことで、
その後2017年からウィーン国立歌劇場のアンサンブルメンバーとして歌っています。
イタリアには、自分達こそ正当な歌唱法の伝統を持っていると思っている人が多いことでしょう。
しかし、アルバーノは声楽を勉強するためにベネツィア⇒ウィーンに行った。
しかも大学に進学して以降、習っている先生にイタリア人が見当たらない。
それどころか、なにかと犬猿の仲のように互いの歌唱法を嫌う傾向があるドイツ人に習っている。
これが何を意味するのか、この歌唱を聴きながら考えてしまうのは私だけでしょうか?
バルトリが出て以来、イタリアのロッシーニメゾと言えば、
プリーナみたいな発声が増えてきていると感じます。
Sonia Prina
これはこれで凄いと思いますが、アルバーノの中では何かが違ったのでしょう。
わざわざウィーンへ声楽を勉強しに行くなんて、相当な決意がないとできないことだと思います。
例えば、
このところ相撲ではずっとモンゴル人に日本人が押されています。
しかし、相撲は国技だ!
という誇りがあるからでしょうか?モンゴルへ相撲の勉強へ行く日本人なんていないでしょう。
逆に米国のバスケットボールは、ギリシャに負けたりした時からヨーロッパのバスケを積極的に取り入れ、NBAのルールそのものを改定するなどした歴史があます。
こういう観点から見ると、
由緒正しいベルカント唱法を発展させてきたのはイタリアだ~!。
みたいなプライドが、現在のイタリア人歌手達の現状を作り出した可能性はないでしょうか?
更に言えば、イタリアで勉強すれば正しい歌唱法が学べる。と信じて疑わない日本人がまだ沢山いるのもちょっと危うさを感じます。
結局のところ、本当に自分の声が生かされる歌唱法を追求できる教育環境こそ一番大事で、そこに国の概念を持ち込むのはもう時代遅れでは?というのが私の意見な訳です。
前置きが長くなりましたが、アルバーノの歌唱に戻りましょう。
彼女の歌い方は至ってシンプルで、
聴き方によっては上手いけどあまり面白くはない。
とも取れますが、声に悪い癖らしいものが見当たらないのが最高に素晴らしいです。
メゾならもっと低音が鳴って欲しい。とか、
逆にソプラノみたいな細い高音だ。
みたいな指摘をしようと思えばできるかもしれませんが、
年を重ねればできることと、若いうちにどうにかしておかないといけないことがあるとすれば、声でもフォームでも、変な癖をつけず素直に歌えること。
これが若い時には根幹にあるべきだと思います。
なので、圧倒的な声は持っていないかもしれませんが、将来的に素晴らしい歌手になるだろうな。と感じさせる歌い方をしているのが、コンクールでも評価されたのではないでしょうか?
こちらは2017年の演奏なので、コンクールの2年後のもの。
この声をソプラノと言う人がいても不思議はないでしょう。
その原因は、低音で響きが浅くなることがあるのが原因ではないかと思います。
コロがっている時の”i”母音で時々声質が変わります。
4:40~4:45、5:59~6:05なんかは分かり易いでしょうか?
全体的に高音より低音の方が発声的に苦労しているようには感じますが、籠ることはあっても押した声を出さないのは聴き易くて良いですね。
やっぱり、ロッシーニは超絶技巧を聴かせるような歌い方より、
自然に技巧をこなしてくれる演奏の方が音楽に合っている気がします。
この演奏は2018年なので、上のロッシーニより後なんですが、
今までより声を太くしているせいで、アルバーノの良さが出ていない気がします。
彼女が好んでこういう演奏をしているのか、演出的にそうなったのかはわかりませんが、あまりにも大げさな口の動きのために、響きのポジションが落ちています。
発音をより明確にした分、”e”母音が横に開いて平べったくなり勝ちです。
歌の聴こえ方はちょっとしたことでこうも変わってしまうので、本当にちょっとしたフォームの崩れや、レパートリーの選択が如何に影響を及ぼすかということがわかりますね。
まだYOUTUBE上に動画が少ない歌手ですが、
この感じだと近いうちにCDがでるのではないかと思っています。
折角ローベルト ホルの元でオラトリオやリートの勉強をされ、オッターやファスベンダーに習ったのですから、是非ともどのようにリートを歌うのか聴いてみたいものです。
まだまだ圧倒的な演奏を聴かせるような歌手ではありませんが、
柔軟な音楽性と声を持っているので、今後どのような歌手になっていくのか楽しみに見守りたいと思います。
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