Catherine Hunold (キャサリン フーノルト)はフランス生まれのソプラノ歌手。
Mady Mesplé,、Margaret Price、Christa Ludwigに師事したとありますが、
全くメスプレに習った痕跡が感じられない歌唱をする人で、
それこそパリで生まれたというのに、完全なワグネリアーナです。
イタリア、フランスオペラのドラマティックな役も歌っていますが、
イゾルデ、ブリュンヒルデといった役から、ローエングリンの通常はメゾが歌うオルトルートをも得意としているのですから、完全にワーグナーに魅入られたパリジャンヌとしか言いようがありません(笑)
エルザ役 Sun Young Seo
オルトルートを歌っているのが、フーノルトです。
エルザ役の歌手も負けじと声を張り上げていますが、ただただ絶叫しているだけで、フーノルトの正しい発声のドラマティックな歌唱とは対照的です。
こういう演奏を聴くと、響きで歌っている歌手と、デカい声で歌っている歌手の声がどう違うかがよく分かって面白いのではないかと思います。
エルザ役の声は、常に声が揺れていて真っすぐに言葉が飛びませんが、
フーノルトは真っすぐに無駄なヴィブラートがないので、しっかりフレージングの中で言葉を出すことができます。
韓国人は本当にこういう歌手が多いですね~。
持ってる声はむちゃくちゃ凄いのですが、それ故に声に頼って歌い過ぎる人が多い。
このローエングリンは全曲の映像もあるのですが、ローエングリン役の韓国人もパワー系なので、一瞬聴いただけで私は喉が痛くなってしまいました。
それにしてもフーノルトは魔女がぴったり過ぎて、Wマイヤー以来、久々に満足できるオルトルート歌いです。
そこらのメゾに負けない充実した中低音と突き抜けるような高音は目を見張るものがあります。
プッチーニの音楽に合った声かどうかを除けば本当に素晴らしいですが、
あえて言えば、ポルタメントをあまり使わず、拍の感じ方も比較的一定なので、あまりヴェリズモオペラらしい表現には聴こえないこと。
録音ではありますが、最近の歌手ではストヤノヴァの演奏なんかはバランスが良いと思います。
Krassimira Stoyanova
ウィキに書いてあることが正しければ、ドイツ物のオペラで初めて歌った役がこのイゾルデだったようです。
そんなことが常識的に考えられるのか疑問ですが・・・この演奏はデビューしてから5年以内のものである可能性が非常に高いことを考えると信じるしかありません。
まだまだ若い時の演奏で、初めてイゾルデなんて大役を歌ったら、普通力みも出るでしょうし、オケに負けないような声を出そうと、自然に声を押してしまうものですが、フーノルトは逆に出来るだけ軽く歌おうという意識すら感じる演奏をしています。
ルーナを歌ってるバリトンだけ押し押しな歌い方をして、
フーノルトとスカラが楽々声を出しているのが個人的には面白いです。
いくら頑張っても歌ってもダメで、頑張らないで歌える方法を追求しないといけないんですけどね。
この違いを聴衆がしっかり聴き分けられるようになれば、絶叫系エセドラマティコは減少すると思うんですけど、中々そういう風潮にはならないんだろうな~。
そういえば、先日ロイヤル オペラで来日してマルグリートを歌ったレイチェル・ウィリス=ソレンセンの評判はまずまずなようですが、フーノルトと比較すれば発声的な問題は明らかでしょう。
Rachel Willis-Sorensen
持っている声質は恐らくフーノルトと似ていると思うのですが、
ウィリス=ソレンセンの詰まったような解像度の低い響きと、全くレガートで歌えないところなんかは全く違います。
まだウィリス=ソレンセンは35歳くらいなので、今からでも発声を見直すべきだと思いますが、名門オペラハウスの海外公演で、あまり歌っていないフランス物の主役を歌って、それなりに評価されてしまうような状況ならばそれも難しいでしょう。
マクベス夫人は、確かヴェルディ自身が黒い声を要求していたと記憶しているので、
歌う方も美しい声とは違う、どちらかと言えば表現主義的な汚い声もあえて使う、ということも許される役だと思っていますが、フーノルトはどこまでも声楽的な声を崩さずに見事にドラマを表現しています。
この人こそバイロイトでブリュンヒルデを歌うに相応しい!
このところフランスからは優れた歌手が沢山出ていますが、
あまりドラマティックな声の歌手は男性も女性もいませんでした。
そこに、フーノルトのような巨人が突如現れた。
ウィキにはレジーヌ クレスパンの後継者と書かれていましたが、
クレスパンより線が太くメゾ役も歌えるドラマティコですから、これは本当に何十年に1人とかいうレベルのとんでもない逸材だと思います。
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