Renata Pokupić (レナータ ポクピチ)は1972年、クロアチア生まれのメゾソプラノ歌手。
オペラではイタリアバロックオペラを主に歌っており、どちらかと言えばコンサート歌手としての活動の方が精力的に行っているように見えます。
また、映画にも出演しているようで、多彩な才能を持った歌手としても注目されているようですが、
純粋に歌手としての能力だけ見ても、確かな技術と大胆な表現を両立できる一流の声楽家と言って良いと思います。
モーツァルト フィガロの結婚 Voi che sapete
この人、どの音域を歌っても喉が上がったり、逆に詰めたりということを決してしないのが凄い。
響きその物は最善とは言えないと思うのですが、喉が上がらないので、高音になっても天上の低い痛い響きならず、低音でも太さはあっても詰まったような声にならない。
並の歌手がポクピチのような口のフォームで歌ったら、”e”や”i”母音は横に開き過ぎているので、喉があがって薄っぺらくなってしまうのでしょうが、この人は多少そういうことが起こっても気にならない程に本来から持っている響きが安定した深さを持っているように聴こえます。
古楽が無機質な声で歌うことを良しとしたのはごく一部の固定観念のようなものだったのかもしれませんが、この演奏はバロック音楽が如何に情熱的で、無機質な白い声で歌われることがむしろ間違っていることを感覚的に教えてくれる、実に爽快な演奏になっていると思います。
高音や技巧は端正でありながらも言葉には力が籠り、個々に声や歌唱スタイルに好き嫌いはあったとしても、退屈する人は中々いないでしょう。
昨日、友人の演奏会にいっていて、客席に小学生の低学年と高学年位の子供を連れた親子を見て、
曲目はシューベルトの美しき水車小屋の娘だったのですが、こういう子供たちを退屈させないような演奏ができたら良いなぁ。と考えていました。
子供は正直なのでつまらない演奏だったらすぐに飽きてしまいます。
声楽作品の場合は言語の問題があるので、器楽以上にハードルが高いと思いますが、どんな曲であっても聴いていて退屈でないこと。という要素は絶対重要だと思います。
上2つの動画は10年以上前の演奏ですが、こちらは今年のものです。
ピアノの表現でも薄い響きにならず、奥行のある深い響きを維持できており、発音は前に出ている。
もっと軽い響きの方が個人的には好みではありますが、ポクピチの持って生まれた声であって、決して作った声ではないので、この声はこの声で非常に魅力的だと思います。
ドーラ ペヤチェヴィチはクロアチアの作曲家ということですが、
この曲はドイツ語で書かれているのですね~~~!?って、
そもそもクロアチアはハプスブルク帝国領だったので公用語がドイツ語だったのか!
なんてことを今調べて知りました。
単純にペヤチェヴィチがミュンヘンに移住したり、ドイツで音楽を勉強したりしたからドイツ語の歌曲を書いたのかぁ、と最初は思っていましたが、単純にクロアチアがドイツ語圏だったという事実を知らなかった。。。
それは置いといて、
ポクピチはドイツ語でも発音が明確でありながら響きが薄くならないですね。
イタリア、フランス、ドイツ全ての言語を同じ深さの響きで、しかも明瞭な発音で歌えるというのは、
本当に優れた発声技術に加えて、言語による響きの特徴を完璧に把握していなければこうは歌えません。
深い響きは天性の才能だったとしても、言葉に対する感覚は努力して磨いたものに違いありませんし、彼女のスケジュールを見ると、マスタークラスなんかも開いているようなので、演奏家としてだけでなく、今後は教育者としても素晴らしい歌手を育ててくれることに期待したいですね。
それにしても、こんな素晴らしい歌手なのに音源が少な過ぎる・・・。
オペラも歌曲も非常に高い水準で歌える声と技術と知性を持ち合わせているだけに、色々な歌曲を録音して欲しいものである。
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