l’Opéra national de Paris 20-21 ファウスト

パリナショナルオペラで今年の3月に行われたファウストがアップされていましたので、今回はそちらを紹介したいと思います。

 

最近アップされた演奏会や歌手の演奏を聴いても、ピンとくるものが中々なくて記事の更新が進められないので、
本気で過去記事の積極的な改修と、アーティストインタビュー関連の活動をするしかないかなと思っていたところだったので、この映像は言葉通り渡りに船でした。

インタビューは人探しと連絡を取り合うだけでも大変ですし、そもそも私のような自称評論家みたいな怪しい人間は、普通プロ歌手には相手にして貰えませんので、コンタクトをとっても返信して貰えないことなど日常茶飯です。

なので、記事の更新という活動記録として残り、現在の歌手事情を発信するには、最近の講演を取り上げるという活動は絶対的に必要なことでもあります。

とは言っても、ただ歌手の批判ばかりする記事では誰も読みたいと思いませんし、そもそもが上から目線で歌手を切り捨てたい訳ではなく、
「現在は昔に比べて良い歌手がいない。」と簡単に言ってしまう人達に対して、
現在も十分素晴らしい歌手がいることを発信するためにこのブログを始めたので、批判ありきでは目的が逆転してしまい、懐古主義的に現代の歌手を見下すとような人達と同じになってしまう。
その辺りが批評をすることの難しさだなと感じるのですが、
今回は久々に注目度の高い公演がYOUTUBE上に上がってくれて本当によかったです。

 

 

Faust à l’Opéra national de Paris

 

 

 

<キャスト>

Faust:Benjamin Bernheim
Méphistophélès:Christian Van Horn
Valentin:Florian Sempey
Wagner:Christian Helmer
Marguerite:Ermonela Jaho
Siebel:Michèle Losier
Dame Marthe:Sylvie Brunet-Grupposo

 

 

私の記事を今までご覧になって頂けている方なら、このキャストを見て私が何を書くかは大体想像がつくかもしれませんが、それは仕方がありません。
それほどベルンハイムの実力は完成度が高くて非の打ち所がないのですから・・・

ですが、この公演でもう一人強いインパクトを残しているのが、メフィストを歌っているバスバリトンのChristian Van Horn。

 

ヴァン ホーンについては、過去記事で取り上げたのですが、本当に素晴らしいバスバリトンですね。

 

◆過去記事

米国にやっと現れたヴェルディを歌える発声技術を持ったバスChristian Van Horn

 

主要キャストの歌唱を少し詳しく診ていきして、その結果として2人がいかに別次元の歌唱かということを書いて行こうと思います。

 

まず、ヴァランタン役のセンペイ。
この人は典型的な声で押すタイプのバリトンで個人的に苦手な歌手なのですが、
その理由は一本調子な歌唱しかできず、レガートで歌えないから。

 

 

 

本物のヴェルディバリトン、ザンカナーロと比較すれば、センペイの歌唱が点であり、
ザンカナオーロの歌唱が線、あるいは面であるという違いがよくわかります。
声を押すとは、音を点でしか捉えられないので、フレージングなんてものはそこから生まれてこないのです。

 

 

 

Giorgio Zancanaro

 

そんな訳で、センペイは何を歌っても同じに聴こえてしまいます。

 

 

 

次に、ジーベル役のロジアー
この人は、言い方は悪いですが上に上に表情筋を引っ張って歌う癖があって、
一瞬聴いた感じでは、リリックで明るくて、発音もしっかり前に出ているので良い歌手に聞こえるかもしれませんが、実際は喉が上がっている声なので、日本人ソプラノがよく陥り勝ちな上半身だけで歌っているかのようになっています。

 

良く聴くとわかるのですが、
例えばこの動画では、3:19辺りなどは、音の入りの声がケロケロしてしまっていますし、高音ではまだ前で発音できるものの、低音では響きが落ちてしまいます。
”u”母音の時だけはまだ深さもあって良いのですが、”i”母音が逆に前に出てこない。
こういう状態なので、この人もレガートで歌えないですね。

 

 

 

 

 

 

そしてマルグリート役を歌ったヤホ
この人は不思議なソプラノだ。
籠り気味に聴こえるるかと思ったら、急にクリアで美しいピアノや高音を出したりする。

発音は全体的に奥めで言葉はあまり飛ばない。
椿姫の終幕のアリアを聴くとヤホの歌唱の特徴がよくわかるかもしれません。

 

 

 

当たり役は蝶々さんのだそうですが、
私には彼女の低音が胸声に落とし過ぎた声で好ましくない。
中音域~高音と低音では全然質が違ってしまって、とても蝶々さんの人格とは別人・・・と言えば良いのか、純粋にプッチーニの書いた音楽に合うような可憐さが普通に喋る音域で皆無になってしまうのはやっぱり違和感がある。

マルグリートでも低音域~中音域の境目で声がケロケロする場面が時々見られて、歌い方を見ていても、表現の部分はあるにせよ息を吐き過ぎて声帯が時々上手くくっついていない感じに聴こえるので、発音を前でさばけて、低音が中~高音域と同じような質に統一できれば良いソプラノになるだろうな。というのが個人的な意見です。

 

 

 

 

 

 

 

 

以上で紹介した歌手と比較して、
まずメフィストを歌ったヴァン ホーン
よくドラマティックな低声歌手に有り勝ちなのは、大音量では存在感があるものの、
ピアノの表現では猫なで声になったり、抜いたように奥に引っ込めてごまかしたりするタイプなのですが、ヴァン ホーンはピアノの表現でも響きの緊張感が決して鈍らずにフォルテと同じ質を保つことができる。

 

 

 

今まで紹介した歌手より、明らかに発音のポイントが前にあるのがわかると思います。
それでいて、フォルテでなくても、ビンビンと前にピントのあった芯のある声。
所謂ティンブロがどの音域、ディナーミクでもあるのです。
低声歌手でこれほどクリアな響きでありながらも、深くて強い声を持った歌手は歴史的に見てもあまりいないと思います。

 

 

そして最後がタイトルロールを歌ったベルンハイム。
もう説明の必要はないかもしれませんが、声の飛び方が他の歌手と比べて圧倒的に違う

 

 

 

ずっとピアノで歌うような、Rシュトラウスの歌曲、Morgenを歌っても、
響きも言葉も全て身体から離れた所で響いているよう。
それこそセンペイのように全力で身体を鳴らしにいく歌唱とは対極であり、
どちらが優れた演奏ができる歌い方なのかは言うまでもありません。

軽い声で歌っているようで、低音でも籠ったり芯がなくなったりすることもなく、
これ程のブレスコントロールで歌える歌手が今までどれほどいただろうか?
とレベルです.

あえてケチをつけることが出来るとすれば、今回のファウストの有名なアリア”salut demeure chaste et pure”(56:20~)の最後のハイCをファルセットにしたことくらいでしょうか。
彼なら別にファルセットにしなくても実声でいけたと思うのだけど、なぜこういう表現にしたのかはちょっとわかりません。
一番最後の重唱でも、マルグリートがハイCを伸ばしいる中、ベルンハイムは早々に切ってしまうし、意図的に彼のハイCは張って伸ばさないアンチテノール馬鹿仕様が採用されているようでした。

その他は登場から圧巻というべき歌唱を披露してくれているので、個人的には何も言うことはありません。

 

冒頭にも書いた通り、最近取り上げるべき演奏会に出会えずモヤモヤしていた時にこの演奏にたどり着いたので、本当にスカっとしました。
GW前の仕事も晴れ晴れとこなせそうです(笑)

 

 

 

 

 

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