Robert Hale(ロバート ヘイル)は1933年、米国生まれのバス・バリトン歌手。
ワーグナーバリトンとして有名だが、パワーで押しまくるタイプではなく、柔軟な表現を得意とする珍しいタイプの歌手
個人的にはヘンデルのメサイアのバスソロで最も優れた演奏を残しているのはこの人だと思っている。
この曲は様々なカットが版によって施されていて、極端に短いものもあるが、
ヘイルの演奏はカットなしで8分以上ある。
ガーディナー指揮の演奏だけあって、装飾音の付け方、付点のリズム感などの細部まで妥協がなく、
ヘイルも持っている強い声をひけらかすことなく、伸ばしている音にも柔らかさがあり、
見事という他ない歌唱を披露している。
細かい動きでの安定したブレスコントロールなどは低声歌手のお手本ともいえるのではないだろうか?
ヴォータンの告別(2:01:50~)
ヘイルの演奏は実に柔らかい表現が巧みで、ワーグナーの音楽の繊細な部分を味わい深く聴かせてくれる。
フォルテの表現でも、決して雑にならず、高い音をしゃくり上げるようなことも一切せず、常にスマートに歌う。
言葉の荒々しさが部分的にはあっても良いとは思うが、サヴァリッシュの指揮とも相まって、
全体的にオケも大人しい表現になっているため、ワーグナー作品にダイナミックさを求める人には物足りない部分があるのも事実としても、
他ではあまり聴けない繊細な部分が味わえるのはこの演奏の良さではないだろうか。
何とも品の良い演奏である。
バリトン歌手が良い声を聴かせるのに適した曲ではあるのだが、
ヘイルは抑えた表現をやり過ぎな位いれている。
本来このように演奏されるべき曲かどうかは疑問なところもあるが、
ヘイルの歌唱スタイルを端的に表しているとも言える。
ただ良い声を垂れ流すのではなく、
しっかりしたレガートで歌う技術があってこそ彼の柔軟な表現が可能になっていることが分かる。
低音も喉を鳴らすのではなく、実に自然に深く豊な響きで余裕を持って鳴っていることがわかる。
広がりのある彼のような低音域をもった歌手は中々いないのだが、
それほど知名度がないのは残念である。
私なんかはハンプソンよりよっぽど優れた歌手だと思うのだが、
ヘイルもリートを歌ってくれればよかったのに・・・と思ってしまう。
得意としていたヨカナーン役を演じた録音がこちら。
高音がもう少し抜けてくれればと思わなくもない。
また、ヴォータン以上に声量が必要な役だけに、サロメ役のInga Nielsenに飲み込まれているようにも聴こえる。
このような部分から、ヘイルは表現や発声技術の確かさはあるのだが、
ここぞという時の瞬発力、爆発力のようなものは欠けていたと言わざるを得ない。
総合的に見て、ヘイルは非常に秀逸な歌手だったが、
ワーグナーバリトンという括りで見てしまうと、声量や響きの強さには欠けていた。
だからこそ、ワーグナーバリトンという色眼鏡を外し、バス・バリトン歌手として聴いた時、
ヘイルの歌唱の本当の魅力が聴こえてくるように思う。
オペラよりも、実はコンサート歌手としてのほうが適正のある声や音楽性の持ち主だったのかもしれない。
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