柔軟な音楽性をもった期待の若手テノールAlvaro Zambrano

 

Alvaro Zambrano(アルヴァノ ザンブラーノ)はチリ生まれのテノール歌手。

チリ出身ですが、ドイツで主に声楽を学び、現在もベルリンが活動の中心のため、ドイツのテノールとして紹介されていることもあります。
レパートリーの中心はイタリアオペラのリリックな役柄のようですが、歌曲でも中々味のある演奏を聴かせる魅力的なテノールです。

 

 

 

シューベルト 美しき水車小屋の娘 Am Feierabend

スペイン歌曲を歌ったら似合いそうな音色でシューベルトを歌うと不思議な感じです。
発音も音楽作りも丁寧なのですが、聴き慣れたシューベルト演奏とは違った個性があります。

この個性を言葉にするのはとても難しいのですが、やっぱり音色が一番の要因ではないかと思います。
本来ならちょっと横に開き過ぎのアペルトな音色なんですが、無駄なヴィブラートがなく、発音も問題ない。
歌詞を見ながら聴いて頂ければ、親方の言葉や娘の言葉の歌い訳もちゃんとできていることがわかります。

 

<歌詞>

Hätt ich tausend
Arme zu rühren!
Könnt ich brausend
Die Räder führen!
Könnt ich wehen
Durch alle Haine!
Könnt ich drehen
Alle Steine!
Daß die schöne Müllerin
Merkte meinen treuen Sinn!

Ach,wie ist mein Arm so schwach!
Was ich hebe,was ich trage,
Was ich schneide,was ich schlage,
Jeder Knappe tut mir’s nach.
Und da sitz ich in der großen Runde,
In der stillen kühlen Feierstunde,
Und der Meister spricht zu allen:
Euer Werk hat mir gefallen;
Und das liebe Mädchen sagt
Allen eine gute Nacht.

 

 

<日本語訳>

もしぼくに千本の
よく働く腕があったなら!
ぼくはそれを唸らせながら
水車を回すことができただろうに!
ぼくに吹き抜けることができたなら
すべての林の中を!
ぼくに回すことができたなら
すべての石臼を!
そしたらあのきれいな水車小屋の娘は
ぼくの気持ちに気付いてくれるのだろうに!

ああ ぼくのこの腕は何て弱いんだ!
どれだけ抱えても どれだけ運んでも
どれだけ切っても どれだけ叩いても
他のやつらもぼくと同じくらいできている
ここでぼくが大きな集まりの輪に座っていると
静かな 涼しい夕べの時間に
親方はみんなに向かって言うんだ
お前たちの仕事にわしはとても満足しておるぞ と
そしてあの愛らしい娘は言うのだ
みんな おやすみなさい っと

 

きれいなレガートですが、ラテン人がやりがちなポルタメントはしっかり自粛しており、
流石はクリスタ ルートヴィヒに習っただけのことはあるな。という押さえるべきところを押さえた演奏をしますね。
是非とも水車小屋全曲を聴いてみたいと思わせてくれる演奏です。

 

 

 

 

ロッシーニ セビリャの理髪師 Se il mio nome

なにかとsotto voceで歌われることが多いセレナータですが、
そんなの関係ねぇ!とばかりにどんちゃん騒ぎで歌ってくれちゃっていて、
それでいて、声を張り上げているとかではなく、不自然さを感じさせないところが凄い。
底抜けに明るい声と言う訳ではなく、勿論重い声でもないのですが、
だからと言って軽い声でもなく、中低音もしっかり鳴る。
少々横に開き気味ではあるものの、曲を上手くまとめる音楽性や清潔な表現は、若い歌手なのに大したものですね。

 

 

 

 

トゥリーナ カンシオーネス形式による詩曲(全曲)

比較的演奏機会の多いスペイン歌曲だと私は思っているのですが、
Joaquín Turina Pérezホアキン・トゥリーナ・ペレス)は19-20世紀にかけて活躍したスペインの作曲家ですね。
民謡調な歌曲ですが以外とピアノ伴奏が凝ってて、テノールとしても聴かせ所がしっかりあってと、コンサートでやるには良い感じの歌曲なのです。

ザンブラーノの歌唱は高音の抜けが中々見事で、レガートやディナーミクのコントロールも自然でマイナスとなるような悪い癖が見当たりません。
あえて付けるとすれば、音色がやや一方調子で、少し暗い印象はありますが、決して短所と呼べるような程ではありません。

勿論、まだまだ声の艶や、音色の多様性といった部分に上積みは必要かもしれませんが、
それもまだ若い歌手であることを考えれば、期待値として今後の成長が楽しみな部分でもあります。

まだまだYOUTUBE上にも音源があまりなく、もっとイタリアオペラなんかを歌っている映像が見たいところではありますが、ドイツリートにも高い適正を見せており、スペイン歌曲も歌える。
声はこれからどんどん変わっていくでしょうが、歌唱センスはそうそう変化するものではありません。
様々な音楽に適応できる柔軟な音楽性には本当に期待が持てるテノールだと思います。

これなら声に合わないレパートリーに邁進して自爆することはないでしょうし、右肩上がりの成長を期待したいところです。
更に、あまり有名ではない作品も掘り出してくれそうですし、こういう歌手は本当に貴重です。

 

 

 

 

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