天に二物を与えられし者Robert Merrill

Robert Merrill(ロバート メリル)1917-2004 は米国のバリトン歌手。
歴代でも最大級の美声の持ち主であり、イケメンという反則みたいなバリトン歌手。

人気絶頂期のメトロポリタン歌劇場で、
1,000倍を超える倍率のオーディションに合格したのもうなずける。

 

だが、この時代の米国人男性歌手はまさに声のデカさが一番重大なポイントだった。
何と言っても、時のメトロポリタン歌劇場支配人ルドルフ ビングは
「偉大な声は大きな人に宿る」という格言を残した。

この「偉大」の解釈は、そのまま声量を指していると考えている。

 

では、メリルの演奏を幾つか挙げる

ロッシーニ セビリャの理髪師 Largo al Factotum (私は町の何でも屋)

 

 

レオンカヴァッロ 道化師 トニオのプロローグ

 

 

ヴェルディ 運命の力 invano alvaro ti celasti al mondo (アルヴァーロよ隠れても無駄だ)
テノール リチャード タッカー

いかがだろうか。
素晴らしい声であることは誰も疑いようがないのだが、
この3つの動画を続けて聴くだけで疲れてしまうのではなかろうか?
いきなりステーキどころの話ではなく、ずっとステーキみたいな歌である。

 

重唱を歌ってるリチャード タッカー、
メリルと同時期にメトのオーディションに合格したレナード ウォーレン
ジャン ピアーズといった45年~70年代までを支えた歌手は皆こん感じの歌唱である。

これだけの声が出れば誰も文句は言えないが、問題は聴衆がこういう歌い方に慣れてしまったこと。
これが世界最高水準を誇るメトで起こったことは歌唱芸術の面から見れば悲劇だったのかもしれない。

 

 

例えば、戦前に活躍したバリトン歌手を何人か聴いて欲しい
カルロ ガレッフィ
ヴェルディ リゴレット Cortiggiani(悪魔め鬼め)

 

 

 

パスクワーレ アマート
ヴェルディ 椿姫 Di provenza(プロヴァンスの海と陸)

メリルの声を聴いた後だと物足りなく感じるかもしれないが、
1曲通して聴くと全く違う感覚を覚えるはずである。
刹那的な良い声を求めるのではなく、曲全体として声をコントロールし、
言葉に色を与える。
メリルの歌からはそういう部分を聞き取ることは残念ながらできない。

 

 

そうは言っても、とにかくカッコイイことが第一に要求される役ならば彼の右に出る者はいなかろう。
ビゼー カルメン votre toast(闘牛士の歌)

イケメン&美声はずるいです。
並の歌手がこんな歌い方をしたら下品以外の何物でもないのだが、
彼がやるとカッコイイ
こういう歌手に憧れてしまった人は悲劇しか待っていないだろう。

こういう歌手を待ち望む気持ちも理解できなくはないが、
本当に類稀な楽器に恵まれて生まれてきた人だけが、こういう歌い方で人々を魅了できる。
という事実はしっかり認識しておかねばならない。

 

CD

コレしかCDがない?
後はダウンロード版しかいまは出回ってないのだろうか。

トスカニーニ指揮のマノン・レスコーなんかは名盤だと思っていたのだが。

 

 

 

1件のコメント

  • 有馬 宗茂 より:

     よくぞ取り上げてくださいました。
     アメリカの歌手として生まれたために過小評価されている代表格ですね。
     私は歴代の欧米のバリトンの中で、尤も美声の一人だと思っていますがね。特にアルバム「アメリカーナ」での『オクラホマ!』『寂しい草原に埋めないで(駅馬車)』『ウィッペンプーフソング』は今の米国人歌手からは聴かれなくなった味わいです。

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