Olga Kulchynska(オルガ クルチンスカ)は1990年ウクライナ生まれのソプラノ歌手
20代半ばにして世界の主要歌劇場で活躍しており、スター街道を驀進中。
2014年にオペラデビューしてからわずか2年でバルセロナのリセウ歌劇場で主役を歌うまでになっている。
2016年
プッチーニ ラ ボエーム 2幕(ムゼッタ役)
ムゼッタのワルツは(3:25~)
詳しくこの曲の歌唱についてチェック
Quando me’n vò(私が街を歩くと)の 歌詞を以下に転載
Quando me’n vò soletta per la via,
la gente sosta e mira
e la bellezza mia tutta ricerca in me,
da capo a piè
Ed assaporo allor la bramosia sottil
che da gl’occhi traspira
e dai palesi vezzi intender sa
alle occulte beltà.
Cosi l’effluvio del desio tutta m’aggira,
felice mi fa!
E tu che sai, che memori e ti struggi
da me tanto rifuggi?
So ben: le angoscie tue non le vuoi dir,
Ma ti senti morir!
日本語訳はコチラ参照
発音的な部分では、二重子音が基本的にまだまだ甘いのも含め、あまりイタリア語に聴こえない。
この曲、歌う人が沢山いる割に上手い人が意外と少ない。
特に、出だしの”Qua”の入り方。
蝶々さんの有名なアリア(ある晴れた日に)の入りもそうだが、
第一声で極上のピアニッシモを提供してくれる歌手というのは本当にいない。
クルチンスカの母音の発音については、まだかなりばらける印象。
具体的には、
”a”と”o”母音 鼻に入り易い。
”e”母音 横に開いて浅くなる時がある
”i”母音 発音のポイントが低い
※”u”母音が良いので、「struggi」や「rifuggi」などの”u”母音から繋いだ”i”母音は美しい。
声そのものについて
この人の最大の美点は低音が美しく流れることだと思う。
スーブレットソプラノと言うのは、軽い声ではあっても、喜劇の中心で動き回る役だけに
大事なのは日常的な言葉として表現される音域で、いかにドラマを伝えられるかということになる。
アリアで超絶技巧やハイEsを決めれば喝采を貰えるような役とは全く違う。
一方、高音は課題が多い。
これが26歳の演奏と考えればとても素晴らしいことは間違えないが、
まだまだ勢いで出しているだけの状況で、出し方も母音唱方に近いので言葉が全くわからなくなる。
2017年
ロッシーニ Arpa gentil(優しい竪琴よ)
若さって凄いな~、1年でここまで成長するか!
という演奏。
上記で指摘したような改善点がほぼ完璧にクリアされている。
まず口のフォームがムゼッタの時と全然違う。
2018年
モーツァルト フィガロの結婚 Deh, vieni, non tardar(恋人よ早くここへ)
既にかなりの良演奏になっている。
この曲は間の取り方のセンスが問われるのだが、実に見事、
28歳で貫録すら漂わせた余裕のある演奏。
気になるのは、チリメンヴィブラートくらいか?
中音域のロングトーンはなんだかんだ難しい。
揺れる人が一番多いと思うが、
伸ばしているうちに硬くなる人もいるし、
クレッシェンドすると喉で押す人もいれば、
ディミヌエンドで声を飲んでしまう人もいる。
そんな訳で、今後の彼女の課題は無駄なヴィブラートをどうにかすることと、
そして、まだ”e”母音が横に開く傾向があるので、その辺りの母音を更に整備すること。
後は年を重ねれば響きの奥行とか高さは出てくるハズだ。
2016年と2018年で中音域での”i”母音比較
2016年
2018年
口のフォームの違いは一目瞭然。
明らかに2018年の方が喉~口腔のスペースを広く深く使えているのがわかる。
深さのある声の方が、逆に発音も明確に聴こえるというのが面白い。
これだけの逸材は中々いないので、
どうか酷使して喉を潰したりせずに成熟して欲しいものである。
[…] 東欧から現れた気鋭のスーブレットソプラノOlga Kulchynska […]