Sena Jurinacの歌唱分析

Sena Jurinac(セーナ ユリナッチ)1921年-2011年はボスニア生まれのソプラノだが、
若くしてカール ベームに認められ、ウィーンを中心に活躍した。

一般的にメゾが歌うズボン役~やや強めのリリックな役までをカバーできた声域を持っており、
モーツァルトやRシュトラウス作品を得意としていながら、
ヴェルディを歌っても見事に様式感を捉えて演奏する歌唱IQと言えば良いのか、
とにかく技術云々では計れない高い歌唱センスを持ち合わせている歌手だった。

勿論リートを歌っても高い品質の演奏をする。

今回はこの人の歌唱を分析しようと思う。

 

 

1948年(27歳)
モーツァルト フィガロの結婚 Voi che sapete

本当に言葉の出し方のセンスが素晴らしい。
声そのものは少々硬さがあったり、多少無駄なヴィブラートがあったり、
響きの高さにも音域によってブレはあるが、とにかく歌い回しが絶妙だ。
技術は鍛えて身に着けられるが、こういった感性は天性の才覚ではないだろうか。

 

 

 

1950年(29歳)
モーツァルト コジ ファン トゥッテ Come Scoglio

高音域と低音域でタイプの違う響きになっているのは、
胸声(一般的にソプラノはあまり使うことをよしとしない胸に落とした響き)に繋げているからだが
この人の胸声は不自然さがない。
これがズボン役も当たり役と言われる程見事にこなせた要因だと個人的には考えているが、
この響きだけを聴くと、そこら辺のメゾより良質な低音域の響きである。

 

 

現在を代表するドラマティックソプラノと同じアリアで比較すればよくわかる

アニヤ ハルテロス

ハルテロスの(4:50)
ユリナッチの(3:25)

このフレーズの声の響きに注目して頂ければ、
上の響きだけで歌っているハルテロスと、
下の響きを混ぜて使い分けているユリナッチの違いがわかると思う。
一般論を言えば、ハルテロスの歌い方が正しい。
と言うより危険ではない。
※一度声を胸に落とすと後々の高音でフォームを崩すリスクが高いため、指導する立場の人は推奨しない。

私自身が女性ではないので、
正確に通常の歌声に胸の響きをミックスすることが、
どの程度の難易度なのかを軽々しく言及することはできないが、
カウンターテノールで言うところの、
ファルセットと実声をこのスピードで違和感なくミックスできるか?
と言われたら、神業レベルの難易度だと答える。

 

因みに、完全に下の響きだけで同じ部分を歌うとこうなる。
ルネ フレミング

(3:20=)急に早いパッセージの低音で声が太くなってドスの効いた感じになる。
こういう声を出さずに本来このアリアは歌われるべきなんだが・・・
10代の学生とか普通に歌ってるけど、本来そんな軽い気持ちで手を出して良い曲ではないのだ。

 

 

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1956年(35歳)
モーツァルト フィガロの結婚 伯爵夫人のアリア2曲

Porgi amorとDove sonoで言葉の出し方をもの凄く工夫している。
先日、BCJ(バッハ コレギウム ジャパン)のメンバーの方から聞いた話なのだが、
古典派までの音楽は、ただの音階を音楽的に歌えることがまず大事。
とのことだった。
Porgi amorなんて正にそういう曲だ。

Dove sonoも「ドーレードーシード」の5音でこの曲の成否が決まると言って良いと思う。
ユリナッチの歌唱は、こういう順次進行の音の密度が非常に高い。
音符の隅々まで神経が行き届いた歌唱をする。
それが例えヴェルディでもだ。

 

 

 

1968年(47歳)
ヴェルディ ドン・カルロ Tu che le vanità

ドイツ語圏の歌手が歌うヴェルディは何かと響きの奥行が不足し、
母音が浅くなってしまうことが多いのだが、この人はそういうことがなくい。
発声的にはイタリア物を歌うための完全なレガートとは言い難いかもしれないが、
フレージングは全く違和感がない。
こんなセンスよくエリザベッタやアイーダを歌える歌手はそういない。

 

 

 

Rシューマン Frauenliebe und -leben

女の愛と生涯の数ある録音でも屈指の演奏。
低音の暖かさのあるソプラノ歌手というのはそういない。
現在のリート演奏に比べれば子音の出し方などは弱いと感じるかもしれないが、
この音楽にはとても合っている解釈だと私は思っている。
大事なのはその音楽から聴き手に何を伝えられるかだ。

 

 

見てきた通り、
本当に何を歌っても非常に優れた解釈を示し、
圧倒的に優れた高音やピアニッシモのような技術を駆使しなくても、
良い歌は歌えるということを示した歌手である。
そして、高音以上に中音域でいかに表現できるか。
美しい声が出せるか。
という方が遥かに重要なのだと言うことが分かると思う。
大事なのは高音ではなく、誰でも出せる音で如何に他者より多くの表現ができるかではないだろうか?

 

 

 

CD

 

映像としてはカラヤンが指揮したバラの騎士が一番有名

 

こちらもズボン役の作曲家。ベームのナクソス島はやっぱり良いです。

 

 

カラヤンに勧められてやったと言われる蝶々さん。
日本に来てほしかった。

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