Vanessa Waldhart(ヴァネッサ(ファネッサ) ヴァルトハルト)は1994年、オーストリア生まれのソプラノ歌手。
オーストリアの歌い手と言うと、低声歌手には素晴らしい人が出ているが、ソプラノやテノールではあまり有名な歌手は出ていないイメージがあります。
そんな中で、ヴァルトハルトはオーストリアの若手ソプラノとして今後活躍が期待されているので取り上げてみようと思います。
まだケムニッツのオペラ劇場にデビューしたばかりですが、
19歳でタリアヴィーニ声楽コンクールで最優秀ソプラノに選ばれ、
既にウィーンでリサイタルを行うなど、20代前半から注目されるようなキャリアを積んでいます。
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それにしても、
最近ここで紹介する若手歌手はなぜか、全員ブリギッテ ファスベンダーのマスタークラスを受講していて、ヴァルトハルトも例外ではありません。
その他にもクリスタ ルートヴィヒにも教わっています。
でも、声はハイソプラノです。
しかも、名前だけ見るといかにもワーグナー歌いっぽそうですが、
実際の声は、日本人に多いタイプのリリコレッジェーロの声なので、
もしかしたらこの人の歌が参考になる方もいるかもしれません。
2016年12月の演奏ということで、22歳の演奏でしょうか。
ただ技巧を聴かせるだけでなく、それ以外の部分でも丁寧に言葉を扱う歌唱はとても学生の演奏とは思えません。
また、姿勢を見ても、肩が脱力して、しっかり胸が開いています。
そして、下半身の緊張弛緩の様子がよくわかります。
これが先日書いた記事で指摘した、高橋維氏に必要なもので、
下半身主導でブレスコントロールができていれば、ブレスの度に肩が上下に動くことはないはずなのです。
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ハムレットのアリアだとどうしても技巧に耳がいってしまうので、
他の曲で、ヴァルトハルトの特徴や改善点を詳しく聴いていきましょう。
高音の当たりは良い意味でシャープで、奥まったところがなくて明るく、
それでいて鋭過ぎず、平べった過ぎず、
モーツァルトでもイタリア語のものならともかく、
ドイツ語の作品ならちょうどよい高音の響きだと思います。
発音についても、唇の使い方が上手く、しっかり前で言葉をさばけているので、そこまで子音を強調しなくても発音が明確に聴こえます。
では課題は何か?
それはまず、中低音で鼻に入り易いこと。
特に”a”母音は鼻声になり易く、2:12~、”a”母音で伸ばしてる音は完全に鼻声ですし、その直後に高音へ上って、降りてきた時に途中で明らかに響きの質が変わります。
これでは今一つ分り難い、という方のためにももう一つ
バリトン Raoul Steffani
この演奏は2019年8月17日のものなので、一ヵ月前の演奏です。
いかがでしょうか?
ツェルリーナのようなテッシトゥーラの低い役では、中低音が良いポジションにはまらないと、こんな感じになってしまいます。
その前に、バリトンの方も良い声ではありますが、鼻声な上にアペルト気味なので、お聴き頂くと、下手ではないけど何か違うな~。と感じる方が多いのではないかと思います。
実はこの演奏で一番上手いのはピアノなんじゃないかと私は思ってしまう。
ピアニストのDaan Boertienという人の音が半端なく美しく、ペダリングのセンスも素晴らしいので、私は歌そっちのけで伴奏に聴き惚れてました(笑)
それは置いといて、歌の話に戻すと、
もう一つ、ヴァルトハルトの歌唱についてはイタリア語になると急に気になるのがチリメンヴィブラート。
細い声でありながら、まだ繊細なピアノの響きを会得できていないのも、
原因は共鳴空間を広く使えていないためでしょう。
その証拠として、流石にこの曲では聞こえませんが、曲やフレーズによって吸気音がかなり聴こえることがあります。
例えばこちら
ニコ ドステルというオーストリアの作曲家の作品ですが、
そこまで速い曲ではありませんが、かなり吸気音がはっきり聴こえます。
これは、息を吸う時に空間が狭いからなのです。
支えはしっかりできているのに、咽頭や口腔の空間が狭いために、伸ばしている音でヴィブラートが掛かったり、鼻に入ったような声になったりしているように思えてならりません。
そうなると結果として響きの高さもでないし、細く鋭い音色になってしまう。
ここがドイツ物とイタリア物をバランスよく歌える声を作ることの難しさであり、今後ヴァルトヘルトが克服すべき課題なのではないかと思います。
細い息を通す技術はあるので、今後いかに響きを豊で柔軟性のあるものにしていけるのか注目です。
まだ20代半ばの歌手なので、レパートリーの選択を誤らなければ、一気にブレイクする可能性もあるのではないかと思っています。
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