The winners of the 2019 International Opera Awards 評論 <男性編>

The winners of the 2019 International Opera Awards

の受賞歌手について、昨日の女性編に引き続いて今回は男性編になります。

女性編をご覧になっていない方はコチラをご覧ください。

 

 

<男性歌手編>

 

 

Charles Castronovo

ヴェルディ 椿姫 Lunge da lei … De miei bollenti spiriti

1975年米国生まれのテノール歌手です。
かなり世界各国の大劇場で歌っている売れっ子テノールなのですが、
こちらも典型的な米国人テノールらしい力技で歌う歌手なので、私は記事で取り上げてきませんでしたが、こういう歌手が選ばれるのかぁ。。。
まぁ、どうもドミンゴのお気に入りのようなので、そういう意味では活躍している実績と併せて驚くような結果ではないかもしれません。

個人的に驚くのは、この声でレッジェーロな役柄を随分歌っていることで、
例えば「ドン・パスクワーレ」のエルネストや「真珠採り」のナディールも歌ったことがあるとのこと。

 

 

 

Una furtiva lagrima

それにしてもこの人、声以外いい所を挙げる方が難しい。
まずフレージングが皆無で、ただ音に合わせて声を出しているようにしか聴こえないんですよね。
ただ、こちらは2006年の演奏で、椿姫の方は最近のものだと思うのですが、
確かに若い時の方が、まだ高音の抜け方やピアノの表現ができるだけまだマシです。
なぜこんな喉を押した声でオペラ一本歌える体力があるのか、喉の強さは世界的に見てもトップクラスかもしれませんね。
細かく分析しようにも、声を聴いてるだけで喉が痛くなるので私にはちょっと耐えられません。

 

 

 

 

 

☆★☆ノミネート★☆★

 

Alex Esposito

モーツァルト ドン・ジョヴァンニ Madamina, il catalogo è questo

イタリアのバス歌手
暖かみのある声でありながら、ブッファもセリアも歌える芯のある強い声を持ったエスポジトがノミネートされたことは順当と言えるでしょう。
最近の演奏音源がYOUTUBEに全然ないのですが、スケジュールを見ると普通に米国とイタリア、ドイツを中心に精力的に歌っているのがわかります。
特に最近はファウストのメフィストとフィガロの結婚のフィガロを随分最近歌っているみたいですが、残念ながら音源がないので今のエスポジトの声がどうなっているかはよくわかりません。

 

 

 

 

 

 

Brandon Jovanovich

ワーグナー ローエングリン 登場場面 Nun sei bedankt, mein lieber Schwan
テノール Rachel Willis-Sorensen

1970年米国生まれのテノール歌手。
バリトンみたいな声な上にノンレガートでローエングリンを歌えることには驚きますが、
やっぱりこの人もカストロノーヴォ同様にフレージングというものが一切ない。
発音はハッキリ聴こえますが、その言葉の意味が伝わるような歌い方かと聞かれれば疑問です。

レパートリーは幅広く、
歌っている作品にはワーグナー、プッチーニ、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ベルリオーズといった実に様々な言語のドラマティックな役をこなしています。

 

 

 

サンサーンス サムソンとダリラ(抜粋)
メゾソプラノ Elīna Garanča

この映像は今年(2019年)11月の演奏のようですが、
こちらだと随分ローエングリンとは感じが違います。
ソロで歌っている部分は聴けませんが、
太くて重い声ではあって、ガランチャともしっかりしたアンサンブルができていることは立派です。
こういう曲は尚更、声だけに頼って歌うってしまうと曲として成立しませんからね。
こうして見ると、明らかにカストロノーヴォよりジョヴァノヴィチの方がタイプが似ている分、単純に比較して優れたテノールのように私には思えるのですが・・・。

 

 

 

John Osborn

ロッシーニ ウィリアム・テル asil hereditaire…amis,

1972年米国生まれのテノール歌手。
ここまで出てきたテノールは全て米国人ですね・・・。
ただ、この人は前までの2人とはちょっとタイプが違って、超高音が必要な作品を得意としており、力技で歌うような歌手ではありません。
米国人で高音を売りにしている歌手と言えば、この人とMichael Spyresになるのではないかと思いますし、似たところも多いように思います。

 

 

Michael Spyres

オズボーンも良い歌手だとは思いますがちょっと鼻声気味なんですよね。
それと比べると同じ米国のテノールならスパイレスの方が若い上に、一段高く軽く明るい響きなので個人的には好きなのですが、オズボーンのノミネートには異論ありません。

異論はないんですけど、来年にはカルメンのドン・ホセを歌うみたいなので、今後レパートリーを路線変更していくのだとしたら、徐々に声も変わってくるかもしれません。
米国人のドラマティックテノールには声だけの歌手が多いように見えますが、
軽いテノールには昔のような、例えばロックウェル ブレイクを初め、リチャード リーチ、 クリス メリットといった癖が強いながらも高音に強い歌手が多かったですが、オズボーンやスパイレスは随分そこから比較すると自然になってきているように感じます。

この流れは昔の米国のテノールならブルース フォードに近いのではないでしょうか。

 

 

 

Bruce Ford スタークラス

冒頭の数分をご覧頂くだけで、息の流れとフレージング、レガートを執拗に指摘していますね。
コレができないと一流とは言えないと私も考えていますので、
そういう意味でも、カストロノーヴォの歌唱が評価されることには問題があると感じている訳です。

 

 

Xavier Sabata

ヘンデル リナルド Cara Sposa

1976年スペイン生まれのカウンターテノール
ここでカウンターテノールが入ってきました。

この人はヘンデルの悪役のアリアを集めたCDを出して注目されていたと記憶していますが、
確かに太くて暗い音色は悪役向きかもしれません。
それに加えて超絶技巧を見事にこなす技術があるので、激しい感情表現が必要な曲の方がサバータの良さがでます。
逆に、ここで紹介したような曲は悪い部分が多く目立ってしまう。

 

 

 

例えばコチラの映像では、見事な超絶技巧のため、そこまで気になりませんが、
Cara Sposaでは、フレーズの歌い出しで声が不安定になったり、吸気音がしたりします。
更に問題は、3:50~4:02まで一息でいく長いフレーズ。

ファルセット歌唱なので、喉を押すことはできないと考える方もいるかもしれませんが、
サバータは押しているか、太い息で歌い過ぎているために、伸ばしている音が死んでいます。
技巧的に動く部分ではそのような部分は目立ちませんが、ゆったりした長いフレージングを要求される曲になると、太く響きの乗っていない声というのはマイナスな部分が目立ってしまう。
持っている楽器は素晴らしいと思いますし、技巧もあるので本当に勿体ないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

Georg Zeppenfeld

ヴェルディ ナブッコ Oh! Chi Piange?… Del Futuro nel buio discerno

1970年ドイツ生まれのバス歌手。
ワーグナー歌いのイメージが強いのですが、ヴェルディを歌っても評価が高いんですね。
高音も強いし声量もあるあるのですが、やっぱりヴェルディを歌ってもワーグナーのように聴こえてしまうのは私だけでしょうか?

確かに音楽は縦のリズム感を正確に歌うような、付点のリズムが甘くならず、無駄なポルタメント厳禁といった音楽なのですが、だからと言って淡々と良い声で歌えば良い訳でもありません。
ツェッペンフェルトの歌唱もどこか声に頼る要素が多いように感じてしまいます。

 

 

Dimiter Petkov

やっぱり私個人は、ペトコフのような朗々とした深い流れで繋がった声で歌われる方がヴェルディの音楽としては良いと思う訳で、リズムを正確に歌っても角が立った感じはない方が良いのではないかと思います。
結局のところ、ツェッペンも押した歌い方なんじゃないかと思います。
同じドイツ人なら、パーペの方がよっぽどヴェルディを歌うには相応しい。

 

 

 

Rene Pape

 

 

 

以上が男性ノミネート歌手でした。
以降はYoung Singer部門の男性歌手を紹介します。

 

 

Julien Behr

フランスのテノール歌手。
モーツァルトを中心に、ヴェルディの軽い役やドニゼッティの作品、宗教音楽のソリストがメインのようです。
響きの集まった端正な歌唱をするテノールですが、声そのものは硬いですね。
細めの声にも関わらず、このアリアの最高音”A”が今ひとつ決まらないところを見ても発声的な課題があるのは明らかです。
喉の上下している感じを見ると、無理に舌を奥に押し下げたりしているように見えますが、この癖は簡単には解決できないと思います。

 

 

 

 

Kangmin Justin Kim

ヘンデル セルセ Ombra mai fu

韓国系米国人のカウンターテノール。
韓国生まれのシカゴ育ちのようです。

それ以上に書くことがない気がするのですが、この演奏は2015年のものだったので、
最近の演奏は良いのかと思って、この賞の対象年となっていた2018年の演奏を探してみました。

 

 

 

ヴィヴァルディ オリンピアーデ Lo seguitai felice

サバータのように明らかに太い声ではありませんが、響きが乗っていないということについては同じで、ただ技巧的に歌えるというだけのカウンターテノールな気がするのですが・・・。

 

 

 

 

Siyabonga Maqungo

ドニゼッティ 連隊の娘 Ah! Mes amis

南アフリカのテノール歌手。
持っているテッシトゥーラ無茶苦茶高い歌手ですね。
Lawrence Brownleeに似てるタイプだと思いましたが、更に地の声が高いことにビックリです。

 

 

 

Lawrence Brownlee

ここまで声が高くて細いと、こういう高音を聴かせてナンボみたいな曲以外歌えないんじゃないのか?
と思って別の演奏を探してみました。

 

 

 

ベートーヴェン Adelaide

全部ミックスボイスみたいな響きですが、言葉に対する感覚は大したもので、
声が軽過ぎて音色を使い分けることは難しそうですが、言葉による表現力は特筆すべきものがあります。
とても特殊な声なので、一般的な感覚で計って良いのかはわかりませんが、
こういう軽い声でも、五線の上のF辺りはパッサージョなのか、どうしても鼻に入ってしまうのは勿体ない。

何にしても、南アフリカから来た黒人歌手がこういう賞にノミネートされる意義は大きいですね。

 

 

 

これで昨日に引き続いて紹介してきた、
The winners of the 2019 International Opera Awardsの入賞、及びノミネート歌手の評論は全てになりますがいかがだったでしょうか?

 

最後に
このブログで書くには適さないので触れてきませんでしたが、
先日亡くなった指揮者のマリス ヤンソンス氏のご冥福をお祈り申し上げます。

もう一週間以上前の話ではありますが、流石にクラシック音楽に関係した記事を書き続けていて、一言も触れないのは何か違うかなと思い遅ればせながら書かせて頂きました。

こちらはバイエルン放送交響楽団のYOUTUBEアカウントから12/1に投稿されたもので、
追悼の意を込めた映像であることは間違えありません。

 

 

2件のコメント

  • JP より:

    いつも興味深く拝見しております。
    音楽の素養も才能もまったくない私ですが、オペラは好きです。
    Siyabonga Maqungoのことは少しも知りませんでしたが、ご紹介いただた「連隊の娘」のアリアを聞いてびっくりしました。声にもびっくりしましたが、フランス語がはっきりと聞こえるのに驚愕しました(私はフランス語の仕事をしております)。オペラだとフランス語でも聞き来れないことが多いのですが、Siyabonga Maqungoだとひとこと、ひとことが聞こえるのです。いわゆるシャンソンを聞いているような感じなのです。これは発声のせいなのでしょうか? 声の質でしょうか? これから楽しみにフォローしたい歌手です。

    • Yuya より:

      JP様

      Siyabonga Maqungoのフランス語は明確に聴こえるとは思っていましたが、何分私はフランス語にはそこまで通じていないもので、
      詳しい方が聴いても素晴らしい発音なのですね。
      今後ともフランス物を扱う時にはご指導お願いします。

      「オペラだとフランス語でも聞き来れないことが多い」
      とのことで、これは様々な原因が考えられると思います。
      ものによっては音域やオーケストラの厚みでどうしても聴こえないということは起こりうると思いますので、
      この連隊の娘のアリアだけの話で原因を考えてみますと、仰る通り発声の原因は大きいと思います。
      大変音の高い曲ですから、叫ぶような高音ではまず歌詞がちゃんと聴こえるはずがありませんしね。

      シャンソンを聴いているような感じというのは大変鋭い感覚で、
      少なくとも近現代以前のオペラでは、言葉を喋るように歌えることが理想と言われていますので、
      例えば現代のテノールに最も影響を与えたと言われるEnrico Caruso(1902年・1904年の録音がお勧め)
      の歌唱を聴いてもそのように聴こえるのではないかと思います。

      逆に、私は記事の中で、言葉ではなく声で歌う歌手を批判的に書くことが多いのですが、
      Siyabonga Maqungoと同じ記事で紹介しているCharles Castronovoのカルメンのアリアなんかは、
      いかにもオペラっぽい声で不自然に聴こえることでしょう。

      後はSiyabonga Maqungoの言語に対する感覚が単純に素晴らしいのでしょうね。
      このようなアリアを歌うと高音にばかり耳がいってしまいますし、歌う方も言葉より声に意識がいってしまい勝ちですが、
      フランス語だけでなく、ドイツ語も聴き取り易いことを考えれば、言語の特徴を捉えて伝える能力が優れていることは間違えありません。
      それにしても、一般的に言う実声と裏声の中間にあるような歌声のMaqungoは、もしかしたら19世紀当時の本来のベルカントに近いのかもしれませんね。

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