メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その④

メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック の4回目(実質2回目)はカルメンです。

早速主要キャストをみていきましょう。

 

 

ミカエラ役

 

Nicole Car(ニコル カー)

以前に登場した歌手は詳細を割愛させて頂きます。

 

◆関連記事

メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その①

 

 

 

Olga Peretyatko(オルガ ペレチャッコ)

1980年、ロシア生まれのソプラノ歌手。
児童合唱団で歌っていた時はメゾソプラノだったようですが、2000年にソプラノへ転向しています。
それからはロッシーニベルカンド賞なんかも取っていたり、デヴィーアに弟子入りしたりしています。

リリコレッジェーロの声で、それこそミカエラは得意役の一つですが、もっと技巧的で軽い声を求められる役を中心に歌っているので、メゾソプラノだったなんてことはとても信じられません。
逆に、メゾソプラノだった時の声が聴いてみたい。

 

 

 

 

 

Susanna Phillips(スザンナ フィリップス)

 

米国生まれのソプラノ歌手。
2001頃にジュリアード音楽院を卒業しているようですので、現在40歳前後ということになるでしょうか。
メトでは18-19シーズンのカルメンでもミカエラを歌っており、その他はムゼッタ役で出演しているようです。
YOUTUBE上には古楽作品の演奏しかありませんが、モーツァルト作品と、ボエームのムゼッタ役をよく歌っているようです。

米国の歌手にしては力技的な部分がなく、純粋で真っすぐな声が印象的で宗教曲の演奏なんかはとても良さそうです。

 

 

失礼ながらよく悪い例に出させて頂くソプラノNadine Sierraとの重唱、
スザンナがシエッラで、伯爵夫人がフィリップスです。
フィリップスの響きが、シエッラに比べて不純物がないことがよくわかりますね。
ただ、フィリップの気になるところは、時々おピンポイントで音程が上がりきらずになんか低めに聴こえることがあること。
あとはフォルテの表現では過剰なヴィブラートが入ってしまうこと。
こういう部分が改善されるとかなり良い歌手になると思います。

 

 

 

 

 

カルメン役

 

J’Nai Bridges(ジナイ ブリッジス)

1987年、米国生まれのメゾソプラノ歌手。
ここ2・3年でカルメンやダリラといったメゾの花形役を大きな舞台で歌い、The New York TimesやLos Angeles Timesで称賛されるなど、現在注目が高まっている歌手と言えるかもしれません。

持っている声は確かに素晴らしいですが、典型的な米国人歌手といった感じの声に任せた歌唱ですね。
ベチャーワと一緒に歌っている音源を聴くとそのことがはっきりします。

 

 

ベチャーワはどんな音域をどんな強さで歌ってもちゃんと響いているのですが、
ブリッジスは弱音では声が飛ばず、レガートも発音の明瞭さも明らかに劣っています。
これでは重唱としてのアンサンブルが成り立たず、ただ良い声を音程に合わせて出しているだけ、といった感じになってしまいます。

 

 

 

Ramona Zaharia(ラモーナ ザハリア)

ルーマニア生まれのメゾソプラノ歌手。
昨年リゴレットのマッダレーナ役でメトに出たばかりですが、今回カルメンとして出演するのですから大抜擢と言えるかもしれません。
2014年にデュッセルドルフの歌劇場のメンバーとなり、ドイツや東欧を中心に活躍しているようです。

この方はカルメンを得意役として随分歌っているようで、この映像を見ても歌い慣れている感じは見て取れますね。
ですが、ブリッジスとは違う意味で声に硬さがあります。
ブリッジスが奥まった声で、低音と高音でも声の質が変わってしまっていましたが、
その点ザハリアはまだ響きが前にあり、低音は多少胸に落としますが、高音は苦にする感じではありません。
ただし、響きを前に集め過ぎて硬い。

 

 

響きは集まっているのですが、こういう集めた響きの声だと、音色が一辺倒になってしまって、どんな歌を歌っても同じように聴こえてしまう。
ついでに、響きは前にあるのだけど発音が奥まっている。。。
東欧系の歌手にはこういうタイプが多い気がします。

 

 

 

Clémentine Margaine(クレメンティン・マルゲーヌ)

1984年、フランス生まれのメゾソプラノ歌手。
パリ音楽院を出てドイツを中心に、カルメン、サムソンとダリラ、ファウストの郷罰、ファヴォリータなど比較的ドラマティックな役を歌っており、このアイーダは2018年に初めて歌ったものと思われます。

今まで挙げた2人と比較すると、明らかに次元が違う歌唱をしている印象です。
低音はそこまで太さも強さもないのですが、深く広がりのある声で、高音も低音からしっかりつながっていて、柔らかい響きでありながらも強く劇的に響く。素晴らしい歌手だと思います。
この高音を聴いてしまうと、カルメンはちょっとテッシトゥーラが低い気もしてしまいますね。

 

 

言葉の問題もあるのかもしれませんが、個人的にはアムネリスを歌ってる声の方が好きですね。
こちらの演奏は、ちょっと深く声を作り過ぎている気がしてしまいます。
それでも間違えなく良い歌手です!

 

 

 

Varduhi Abrahamyan(ヴァルドゥヒ・アブラーミャン)

アルメニアのメゾソプラノ歌手。
最近はカルメンを頻繁に歌っているようですが、ヘンデルやロッシーニからヴェルディまでイタリア語の作品をレパートリーの中心にしており、太い声でアジリタもできて高音も出る、非常に恵まれた楽器を持った歌手です。

 

 

 

 

 

この人の声を一言で言えば、Ewa Podlesの後継者ですか?

 

まだアブラーミャンの方が線が細いとは言え、2人とも太い声の低音と、その声に似合わず無理のない高音が出せるところはよく似ています。
技術も声もあって癖も強い。
こういう歌手は好き嫌いが分かれるところではありますが、個性的なカルメンが期待できるという面では面白いかもしれません。

 

 

 

ドン・ホセ役

 

 

Yonghoon Lee(ヨンフン リー)

2011年のMETの日本公演でドン・カルロ役で初来日して好演したこと、
更には震災と重なり多くの海外からのアーティストが来日を拒否する中での来日だったことで、日本にもファンが多い歌手かもしれません。

この方の声については過去に記事を書きましたので、そちらを参照願います。
マルゲーヌとのアイーダでの演奏を聴いた感じでも印象はこの記事を書いた頃とかわりません。

 

 

Marcelo Álvarez(マルセロ アルヴァレス)

アイーダのラダメスと平行して出演ですね。

 

◆関連記事

メトロポリタン歌劇場 20/21シーズンのキャストチェック その③

 

 

Russell Thomas(ラッセル トーマス)

米国の生まれのテノール歌手。
マイアミやロスアンゼルス、シカゴといった米国内の劇場を中心にヴェルディやプッチーニのドラマティックな役を歌っており、メトのthe Lindemann Young Artist Development Program of the Metropolitan Operaに参加していました。

 

持っている声の輝きは立派なのですが、実際は体格ほどドラマティックな声ではないにも関わらず、体格に任せた歌い方をされているのが気になります。
ファウストのアリアを聴くとそのことがよくわかります。

 

 

the Lindemann Young Artist Development Program of the Metropolitan Opera

この開口母音で高音になると、口を開け過ぎて響きが落ちてしまったり、
とにかくフレージングがない。
声は本来そこまで重くないのに、必要以上に重くして歌う。
身体があるのでこういう歌い方でももつのでしょうが、日本人は絶対やってはいけない歌い方と言えるでしょう。

 

 

エスカミーリョ役

 

Kyle Ketelsen(カイル ケテルセン)

米国のバスバリトン歌手。
歌っているのは、エスカミーリョ以外だと、ドン・ジョヴァンニのレポレッロ、ファウストのメフィストを頻繁に歌っているようです。

こちらは2016年の演奏なので少し古いのですが、
太い声のわりに低音が鳴らない印象を受けます。
この声は劇場の最後列まで飛ぶのでしょうか?

 

 

 

 

 

Christian Van Horn(クリスチャン ヴァン ホーン)

先日記事にして紹介しましたので、詳細はコチラをご覧ください。

 

 

 

lexander Vinogradov(アレクサンダドル ヴィノグラードフ)

ロシア生まれのバス歌手。
1995年モスクワ音楽院入学ということなので、現在45くらいでしょうか。
エスカミーリョ以外では、ドン・カルロのフィリッポ、ナブッコのザッカリア、シモン・ボッカネグラのフィエスコといったヴェルディ作品を中心に歌っており、ロシア物はムソルグスキー、チャイコフスキー、ラフマニノフなどの作品も歌っていますが、スケジュールを見る限りイタリアオペラを得意としているように見えます。

 

整った響きで、高音のFのハマり具合が見事で、深さがありながらも低音も太くならずに安定して響く、エスカミーリョを歌うには相応しい声の歌手ですね。
ただ、全体的に響きがやや鼻っぽく、明るさや響きの高さでは改善の余地があるかもしれません。

 

 

 

4件のコメント

  • 初めまして。このトピックの一番下で取り上げていただいているアレクサンドル・ヴィノグラードフ(Alexander Vinogradov)のファンサイトを運営しているものです。

    >ロシア物は全く歌っている痕跡がない珍しいタイプです。

    ラフマニノフの「アレコ」タイトルロールと「フランチェスカ・ダ・リミニ」のマラテスタがYouTubeに上がっています。
    また昨年夏には来日してセイジオザワ松本フェスティバルの「エフゲニー・オネーギン」でグレーミン公爵を披露してます。

    オペラでは確かにロシア物よりもエスカミーリョやイタリア物の比重が高いですが、ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ等のコンサートピースや歌曲は頻繁に取り上げています。

    「全く歌っていない」に違和感を覚えたのでコメントさせて頂きました。

    • Yuya より:

      ヴァランシエンヌさん

      コメントありがとうございます。
      ちゃんと調べずに断定するような書き方をしてしまったのはマズかったので訂正いたしました。
      確かにラフマニノフやプロコフィエフの作品を歌っている映像もありましたし、
      スケジュールでも過去にエフゲニー・オネーギンや金鶏にも出演しているのがわかりました。
      情報ありがとうございました。

      • Yuya様

        早速ありがとうございます。お手数をおかけしました。
        ちなみに1976年生まれですので、今年44歳です。
        イルダール・アブドラザコフやディミトリー・ベロセルスキー等、あの世代のバス歌手は人材豊富だと思ってますので、また色々取り上げて下さい。

        • Yuya より:

          ヴァランシエさん

          バス歌手を取り上げてもソプラノやテノールに比べると反響が少ないので、
          どうしても取り上げる機会が少なくなっているのですが、バス歌手に詳しい方が見て下さっていることが分かってとても嬉しいです。

          アブドラザコフはバスの皇帝とか言われていて、今世界的に最も注目されてるバスですよね。
          ベロセルスキーは恥ずかしながら知りませんでしたので、調べてみようと思います。

          ヴァランシエさんはロシアのバスに詳しいようにお見受けしますが、
          ロシアのバスに特別な思い入れなどがおありなのでしょうか?

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