【プチ評論】2022年 シュトゥットガルト歌劇場 愛の妙薬

今年の10月~11月にかけて行われたシュトゥットガルト歌劇場での愛の妙薬がYOUTUBEにアップされたので、聴いていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

L’elisir d’amore | Stream-on-demand aus der Staatsoper Stuttgart

 

<CAST>

Adina: Claudia Muschio
Nemorino: Kai Kluge
Belcore: Björn Bürger
Dulcamara: Giulio Mastrototaro
Gianetta: Laia Vallés

 

基本的には演出に関して全く知識がないので今までコメントはしてなかったのですが、田舎町の風景を思い浮かべて幕が開いたら何コレ?
という舞台セットに唖然としてしまったのは私だけではないかもしれません。

モーツァルト作品は比較的どんな演出でも耐性はできたのですが、愛妙はちょっとまだ読み替え演出には慣れないのが正直なところです。

それはさておき個々の歌手について聴いてみましょう。

 

 

◆ネモリーノ役:Kai Kluge

名前だけではどこの国かわかりませんが、ドイツのテノール歌手のようです。
カールスルーエの劇場で最初は活動しており、2017-18シーズンからシュトゥットガルトのメンバーとなったようです。

声を聴いて思いましたが、やはりあまりベルカント物は歌っておらず、オペラはモーツァルト作品が中心で、他ではカルメンでもレメンダードのような役をやっていたとのこと。

そんな訳で、楽譜に書かれた音をきっちり歌う能力はしっかりしているのですが、声がイタリア物を歌うのには物足りなさを感じる。
その一番の要因が”a”母音だと個人的に思うのですが、とにかく”a”母音が鼻に入る。
開放的で明るい”a”母音を軸に他の母音の色を作っていかないと、中々イタリア物の魅力が引き立つ歌唱は難しい。

後もう一点気になるのが、表現なのか、意図せずスパークしているのか不明だが、泣きを入れるような局所的に声の裏返りがあること。
これは表現だとしてヴェリズモならともかく。ベルカント物では好ましくない。

一方でドイツリートを歌うと、母音が横に開かず、奥にも引っ込まないことが整った歌唱に繋がっていて、ネモリーノでは気になる鼻に入る短所もそこまで気にならない演奏になっています。

 

 

ただ、高音域では喉が上がったポジションで歌っているため、上半身の響きで整えてしまっている部分があって、どうしてもスケールの小さい演奏に聴こえてしまうので、 Klugeは深く明るい”a”母音をもっと追求して欲しいと思います。
それでも全体として整った演奏ができているのは、中低音がしっかりしているからだと思います。

 

 

 

 

 

 

◆ベルコーレ役 Björn Bürger

ビュルガーは1985年ドイツ生まれのバリトン歌手で2013-14シーズンから2018年までフランクフルトのアンサンブルメンバーとなり、2016年にグランドボーン音楽祭にセビリャの理髪師のフィガロ役でデビュー、以後はハンブルク歌劇場に所属しながら、ドイツ、イタリア作品だけでなく、ロシア物、フランス物、英語の作品まで広く歌っている優れた若手バリトンです。

 

 

 

ヴォルフラムを歌っても、薄い繊細な響きと柔らかいレガートで、ベルコーレとは違ったアプローチで歌えているのを見ても、
ドラマティックな作品から、魔笛のパパゲーノのような軽いリリックな役までしっかり歌える様式感を捉える能力と、重厚感のある美声で細かい音を正確に歌い、高音までしっかりだせる発声技術を備えていることがわかります。

彼の歌唱を聴いていると、今後は更に大きな舞台で活躍する可能性が高いのではないかと思います。
ヴェルディ作品もしっかり歌えるドイツのバリトンは中々いないので、歳を重ねて深みが出てくればwolfgang brendelのような歌手になれるのではないかという期待感すら持ってしまいます。

 

wolfgang brendel

やっぱ全盛期のブレンデル無茶苦茶えぇ声やΣ(・□・;)

 

 

◆ドゥルカマーラ役 Giulio Mastrototaro

イタリアのバリトン歌手で、年齢はわかりませんでしたが、2002年にボルツァーノ音楽院というところで学んでいるとのことなので、現在30代半ば~40代前半ではないかと思います。

2015年にロッシーニ音楽祭、2019-20シーズンには脇役ではありますがスカラ座にも出演した経歴があるようです。

ですが、正直声は硬く作った感じで、全然レガートになっていない・・・。
イタリアのバリトンであるMastrototaroが固めた声を出していて、ドイツのバリトンBürgerが柔軟な発声をしているというのは中々面白い光景、と言っては失礼ですが、こういうのを見ても、もはや国で歌手を区別するのは間違えだとわかりますね。
こういうタイプが個人的に聴いてて自分の喉が変になるので辛いということもあって、彼の歌唱の部分は殆どとばしてしまいました。

 

 

◆アディーナ役 Claudia Muschio

2020-21シーズンからシュトゥットガルトのメンバーとして活躍しているイタリアのソプラノ歌手。
最近はイタリアの歌手がドイツの劇場に所属して歌っているのをよく見ますが、こうした歌手が、イタリアでは通用しないからドイツで歌ってる。みたいなタイプを全然見かけない。むしろイタリアの実力のある劇場でも十分通用するレベルの歌手が揃っているのが興味深い。

この方は個人的に注目している歌手ではあるのですが、全体的に声が硬く、中音域が特に喉声気味なのが気になるところ。
ただ、低音になると変な力が抜ける感じがあるのと、後半は少し改善されていました。

それでも技巧的なパッセージの巧さに加えてオリジナリティのあるバリエーションで飽きさせない歌唱をしてくれるので、聴き慣れた重唱も彼女が歌うと新鮮で演奏としては楽しく聴くことができました。

発音は明瞭で、中低音でもしっかり飛んではいるのですが、声が硬いとどうしても音色が冷たく感じてしまう。
歌っている表情を見ても頬あたりに力みが見られるので、この辺りの無駄な力が抜けてくれば、もっと重心の低く深い呼吸で、奥行きのある声が出るようになるのではないかと思います。

ヘンデル辺りのバロックオペラやベルカント物の技巧には、ただ正確に速いパッセージや高音を歌うだけでなく、独創的なバリエーションを付けるのも実力の内だと思うので、そういった部分でMuschioは、聴き慣れた音楽でもどう歌うのかワクワクさせてくれる稀有な歌手なので今後の活躍に期待したいところです。

 

 

こんな感じで、
有名歌手が出演している訳ではありませんが、全体的に見れば(演出の好みは別として)中々楽しめる公園だと思いますので、楽しい気分を味わいたい方は是非聴いてみてくださいませ。

 

 

 

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