<死の都>を世界に広めた功労者Torsten Kerl

Torsten Kerl (トルステン ケール)は1967年ドイツ生まれのテノール。
タイトルの通り、エーリッヒ ヴォルフガング コルンゴルトが作曲したオペラDie tote Stadt(死の都)のパウール役を世界中で歌い、
偶然にも、日本で歌った時が、この役の100回目となる記念公演となりました。

その他、現在はヘルデンテノールとして、ワーグナーのあらゆる役を歌っていますが、
最近少少声に疲労感が出ているのが気になります。

 

それでは、まず彼の十八番 死の都のフィナーレのアリア
O Freund ich werde sie nicht wieder sehn(おぉ 友よう もう彼女には会わないつもりだ)

この人と言えばこの曲無しには語れません。
明瞭な発音、長いブレス、深さの中に輝きのある響き、
彼の声の特徴全てがコルンゴルトの音楽と調和しています。

 

こちらが、今を時めくヘルデンテノール(笑)のフォークト様の演奏

芸大の某先生が「ウィーン少年合唱団の歌」と形容したのは実に的を得ていると思います。

パワーで歌うと調和せず、フォークトのように歌うと全く別の音楽になってしまう。
このパウールという役はテッシトゥーラ(平均的な音域)も高く、非常に難しい役です。

ケールの声についてですが、
実は最初はモーツァルトを中心に歌っていました。

最後に紹介しますが、ドン・ジョヴァンニのドン・オッターヴィオ役なんかも実は録音があります。
Il mio tesoro(恋人を慰めて)

この馬力で、ブレスの長さ、アジリタの巧みさは驚きです。
ただ、この録音を改めて聴くと、ところどころ詰まった響きになったり、
低音域で喉を押してしまっているところがあります。

彼の発音の特徴として、”O”母音が”U”母音にとても近い傾向にあり、
そのため、このような軽い曲では余計に重さや暗さが違和感を与えてしまう結果となっているのですね。

 

裏を返せば、これとは真逆の音楽では効果的にもなります。

例えば、トリスタンとイゾルデの2幕の愛の二重唱

 

やっぱり彼はモーツァルトではなくワーグナーを歌う声です。
ただ、冒頭にも声に疲労が見られると書いた通り、
最初に紹介した死の都の演奏より、ちょっと響きが重く本来持っている声より暗い響きです。
ただ、彼は中音域~高音の”i”母音がとても良いポジションに当たるので、中低音で多少響きが落ちても立て直せます。

この声質ですが、彼の声は低音が苦手で高音の方が良いです。
なので、ジークムントやタンホイザーはパウールに比べると力んだ印象を受けます。

 

彼の本来の響きは、この2009年に歌った
サムソンとデリラの演奏だと個人的には感じています。

軽く歌っている時の彼の声は実に魅力的です。
全ての響きが身体を離れて響いているのが分かるのですが、
トリスタンの録音を聴いての通り、低い音域などは特に重さが目立ってしまう。
軽く歌ってもコレだけの声をしているのだから、タンホイザーももっと楽に謳えば良いのにと思ってしまう。

 

 

こちらが2011年に歌った
ジークフリート 一幕フィナーレ

この年から、バイロイトでのタンホイザーも含めて、本来の声ではない感じに思えて仕方ないのですが
果たして2019年の新国立劇場でのタンホイザーはどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。

死の都を歌う時のような輝かしい声でタンホイザーを聴いてみたい

 

CD紹介


こちらがオッターヴィオを歌ったCD
ナクソス版ですが、若かれし日のボー・スコウフスがタイトルロールをやっているという中々良いキャストです。


カンペがイゾルデを歌っていて、これは悪くないのですが、
一番素晴らしいのがサラ・コノリーのブランゲーネだったりします。
ケールも良い部分は沢山ありますが、トリスタン役は、
やはり彼にはテッシトゥーラが低いのだと思います。

こちらが死の都のCD。
DVDもあったはずなんですが、今は見当たりません。
新国でやった時の演奏をBD化して欲しいものです。

 

ものです。、

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