リート演奏の教科書Siegfried Lorenz

Siegfried Lorenz (ジークフリート ローレンツ)は1945年ドイツ生まれのバリトン歌手
オペラよりはコンサート歌手として活躍し、リートの録音はかなりの量が残されているが、
同時代に活躍した、ディートリヒ フィッシャーディースカウと
ヘルマン プライという二大巨頭の陰に隠れてローレンツの実力は過小評価されているような気がする。

 

この人の歌っている映像はあまりないのだが、
バッハの演奏が最近アップされた

リリックで軽い響きでありながら、しっかりした深さがあり、
あらゆる言葉が同じポジションで発音できている。
歌っている姿を見ても分かる通り、口のフォームも一定で絶対に横に開くことはない。
ここまで教科書のような歌唱ができる歌手はそういない。

 

 

 

勿論オペラでも、この教科書通りの真面目歌唱はいかんなく発揮されている
ワーグナー タンホイザー(全曲)

ヴォルフラムという役柄とこの人の声がマッチし過ぎる。
肝心のライナー ゴールドベルクのタンホイザーがちょっとキャラクターテノールっぽい声や表現で、
どちらかと言えば残念な演奏なだけに、
YOUTUBEに映像があれば、スヴィトナー指揮でスパス ヴェンコフがタンホイザーを歌った版をここで紹介したかったのだが、残念ながら落ちてなかった。
とりあえず、2:01:50~の「夕星の歌」だけでも聴いて頂ければと思う。
やや速いテンポではあるが、
柔らかくも芯があって暖かい声質はこの曲にこれ以上合う歌手を探すのが難しいレベル。

 

 

マーラー 亡き子を偲ぶ歌(3・4曲目)

マーラーを歌うにはすっきりし過ぎるという気もするが、
テンポも言葉も必要以上に表現を付けない。
教科書的な演奏。というのは上手いけど面白みはない!
という比喩表現としてよく用いられるが、ローレンツもそういう部分はある。

 

演劇的表現をするイアン ボストリッジの演奏と比較すると面白い。

マーラー 子供の不思議な角笛 Revelg(起床合図)
ローレンツ

 

 

ボストリッジ

歌詞は転載するには長いので、
興味のある方はコチラをご参照ください。

ローレンツは声楽的に歌える範囲を逸脱しない表現に終始するのに対して、
ボストリッジは比較的声を崩してでも表現に重きを置く。
一概にどちらが良い悪いということは出来ないが、
ロマン派作品で表現主義的
そもそもボストリッジの発声が良いのかどうかはこの際問題にはせず、
あくまで声と表現のバランスの話であるが。

 

 

 

面白い演奏では、ドイツ語で歌った椿姫がある。
ヴェルディ 椿姫 二幕(プロヴァンスの海と陸 24:40~)

この演奏は実に素晴らしいと思う。
ヴェルディというのは、
ノンヴィブラートで真っすぐに歌われるべき要素が実はかなり多いと思うのだが・・・
少なくとも、戦前のヴェルディバリトンの歌唱には、現在の大声第一のような大半の歌手より、
ローレンツの歌の方が近いと言うのは皮肉としか言いようがない。

 

 

 

ポートレート映像

私もまだ全部見た訳ではないが、
この映像にはローレンツの魅力が詰まっている。
生徒を指導する映像なんかは、喋ってるドイツ語まで教科書になるような美しさで、
思わず感嘆してしまった。

ディースカウやプライも勿論大変すばらしい歌手だが、
彼等は独自の歌唱テクニックを身に着けていて、万人が真似できるようなものではないのに対し、
ローレンツは驚くほどシンプルに歌っており、誰でも参考にすべき要素が沢山ある。
これはバリトン歌手に限らず、ソプラノだろうとテノールだろうと彼の歌唱は参考になるはずだ。
そういう意味で敬意を込めて、
私はジークフリート ローレンツという歌手をリート歌唱の教科書と呼称しているのである。
こういう歌手がもっと評価されるようになってほしいものだ。

 

 

CD

 

この水車小屋は私の愛聴盤である。

 

ブラームスもお勧めしたいところだが、今は見当たらないのでヴォルフで
やたら高い値段になっているが、実際は何百円という安値で売っているショップがAMAZON内にある。

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