歴代最年少で宮廷歌手となったバリトンWolfgang Brendel

Wolfgang Brendel(ヴォルフガング ブレンデル)は1947年ドイツ生まれのバリトン歌手
1977年に最年少で宮廷歌手の称号を授与されたスーパーキャリアの持ち主だが、その割には世界的評価が伴っていない気がする。

実際、気品のある容姿と声を持ちながらもパパゲーノのような役も当たり役にしていたという意味で、
声も容姿も演技力もあった歌手なのだが、2000年を過ぎた辺りから表舞台で見かけなくなり、
WIKIによれば劇場での指導、2011年からはインディアナの大学で教えているようだ。

 

ブレンデルは、ドイツ人にしては珍しく違和感なくヴェルディを歌える声を持ち、
モーツァルト~ワーグナー、シュトラウス作品を得意としていた。
逆にリートは歌っていなかったようだ。

 

以下に彼の演奏を幾つか紹介する。

 

ヴェルディ 運命の力 Invano Alvaro
テノール プラシド ドミンゴ

 

二人揃って全盛期ということで、声は見事
特にブレンデルの声は強さと重量感だけでなく、しっかり芯が通っていて、
ドイツ人には珍しいイタリア的な響きを持っている。

 

 

 

モーツァルト コジ ファン トゥッテ 1幕フィナーレ

アライサとブレンデルの重唱の男声陣のアンサンブルが半端なく上手い。
こんなカッコイイ グリエルモとフェッランドが揃ったコジはそうない。

 

 

 

モーツァルト 魔笛(全曲)

Sarastro – Kurt Moll
Queen of the Night – Edita Gruberova
Pamina – Lucia Popp
Tamino – Francisco Araiza
Papageno – Wolfgang Brendel
という超豪華キャストの魔笛につき名盤と名高い演奏

 

 

 

ワーグナー タンホイザー O du mein holder Abendstern

ドイツ人のバリトンとしては珍しくこういうリートに近いアリアは苦手らしく、
ピアニッシモが得意でない様子や、独特の発音の癖から、結構響きが鼻に近いことが分かる。
魔笛の演奏でも、若さと勢いと美声で乗り切ってる感は確かに感じられる。

イタリア語で言うところのsul fiatoではなくcol fiato
つまり、息の上に乗せて言葉を飛ばしているのではなく、中で処理しているということ。
だからレガートも不完全だ。
そういう発声的な部分での甘さ(という表現が正しいかはわからないが)
が災いして、60歳前後で声を球速に失ってしまったのだろう。

 

 

 

 

恐らくこの映像は2010年以降の演奏と思われる

声はそれなりに良い声は保っているが、全くレガートで歌えいないので、
モーツァルトの音楽とは相いれないものになってしまった。
これだけ良い声を持った歌手はそういないし、最年少で宮廷歌手となった程の実力者だが、
若い時の成功が歌手としてのキャリアの充実とは比例しない例と言える。

勿論彼が歌手として怠慢だった訳ではないだろうが、
若くして大きな成功を収めてから、改めてじっくり勉強し直すということはそうできることではない。
だから、歌ではないが、
最年少でショパンコンクールを取ったユンディ・リは一流とは程遠いピアニストに甘んじているのである。

 

特に歌手は40歳、遅ければ50歳を過ぎてから開花する人もいる。
ヘルデンテノールとして一時期脚光を浴びたJohn Treleavenなんかは正にその典型だった。

 

 

声は消耗品である。
如何に限られた声を効率的に使っていくのか、
若い内に売れてしまった歌手はそういう部分で自己管理ができず、
特に歌手に権限のないご時世では演出家辺りに消耗品のように扱われているのも事実。

アルフレード クラウスが、
優秀な歌手は常にいつの時代も存在しているが、若い内に声を使い古されている。
というようなことを語っていた。
若い歌手は、自分の声は自分で守ることを覚えなければならない。
ブレンデルを聴いていると、そんな思いが強くなる。

 

それでもアラベッラのマンドリーカ役は彼以上に似合う歌手はいないと思う

この声はそれだけの魅力がある。
最年少宮廷歌手は伊達ではないということか。

 

 

 

CD

ティーレマン指揮 テ・カナワとブレンデルのアラベッラとマンドリカは理想的な組み合わせ

アリア集はヴェルディがやっぱり一番良い(笑)

1件のコメント

  • なおや より:

    私は彼が27歳の時、ベルリン・ドイツオペラ来日公演でのフィガロの結婚の伯爵とドン・ジョヴァンニを聞いたことがあります。誰かの代役でしたが、当時は若々しく体型もスリムで,後年の力強いがちょっと癖のある声ではなく、細めの小さな声でした。
    もっとも、特にドン・ジョヴァンニの方は女性陣が、マーガレット・プライスのドンナ・アンナ、ユリア・ヴァラディのドンナ・エルヴィーラ、イリアーナ・コトルバスのツェルビネッタという大変豪華な配役で、プライスの東京文化会館の大ホール全体をビリビリ震わせるとてつもない声量、硬質な鋼のようなヴァラディの迫力、可憐なコトルバスの陰に、男性陣は(騎手長のフランツ・クラス以外)隠されてしまった感がありました。
    でも終演後、たまたま上野駅で見かけ、通訳の人?と二人きりで山手線でホテルに帰るのを(反対方向でしたが)有楽町まで同乗して車内で色々話しをしました。
    役としてはドン・カルロスが好きだが、ペレアスが好評を貰っていると聞き、テノール役なのに?とびっくりした覚えがあります。後日、「オペラ」誌に確かに彼のペレアスの写真を見つけました。
    その20年位後に、すでに世界中で活躍するようになった彼を再び聞きました。
    読響定期で、ライナー・ゴールドベルク、アンネ・シュヴァネヴィルムス?と共にワーグナーのアリア(ザックスなど)を歌った彼の声は、見違えるように貫禄たっぷりで太く力強く成長していました!
    終演後、楽屋口でベルリン・ドイツオペラのプログラムを見せたら、即座に
    「1974、Tokyo-bunkajaikan」と言ったのにビックリさせられました!

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