日本に留学していた秀逸な中国人テノール石 倚潔(シー イージェ)



 

石 倚潔(シー イージエ)は1982年中国生まれのテノールで、日本に留学し東邦音大を主席で卒業、
その後、ヨーロッパへ渡りペーザロのロッシーニ音楽祭などで歌っているテノール。

先日の記事でイタリア人テノールの発声が崩れてきていることを書いたが、
そのような状況から見ても、この人はよっぽどそこらのイタリア人歌手よりしっかりした発声技術を持っている。

 

 

 

2010年(28歳)
プッチーニ ラ・ボエーム Che gelida manina

イタリア語の発音に癖があり、特に”k”の発音は顕著
※イタリア語の場合は子音を立ててはいけない。
後はピアニッシモで完全に支えが抜けてしまったり、表現的にも稚拙な部分は見られるが、
響きの高さは本当に素晴らしい。

 

 

 

2013年(31歳)
ペーザロでのリサイタル

31歳でここまで歌えるテノールはアジア人じゃなくてもそうはいない。
聴きどころはやはりロッシーニのアリア。
チェネレントラのアリア(17:50~)なんて実に見事である。
発音では相変わらず”k”が気になるのと、”e”母音が時々横に開いてしまうときがあるが、
それを除けばほぼ完璧と言って良いと思う。

 

 

日本でやたら人気のある韓国人テノール ベー・チェチョル
と比較しても、その響きの質の違いは明らかだ。

チレーア アルルの女 Lamento di federico

この人は、声を失って日本で声を取り戻すドキュメンタリーが作られたりして、
そういう部分で知名度が上がった人でもあるが、持っている声は間違えなく一級品

シーのリサイタル音源では(24:28~)同じ曲を歌っているので比較できる。
一番違いが分かり易いのは冒頭の話すように歌う部分

 

<歌詞>

È la solita storia del pastore…
Il povero ragazzo voleva raccontarla
E s’addormì.
C’è nel sonno l’oblio.
Come l’invidio!

 

(日本語訳)

私もあのように眠りたいなあ
せめて眠って忘れられたら!
私は安らぎだけを探し求めているのだ
すべてを忘れられたらなあ

 

昨日書いたゲオルギューの記事で、終始奥で発音することを問題視したが、
その意味がこのようなセリフ部分を聴けば、なんとなくでもおわかり頂けるのではなかろうか。
ペーは常に声で歌おうとしているので、微妙に音が上がる時にズリ上げたり、
同じ音で喋る時に音が切れたりするのに対して、シーは自然に言葉として歌っている。
声質の違いはあるにせよ、明るさや響きの高さもシーの方が上なので、
ピアニッシモにしてもシーは飛ぶが、ペーは飛ばない。
ただ、何度も繰り返すが、シーは”k”の発音が致命的に酷いので「Come」の発音が耳についてしょうがない。
そんな訳でイタリア語としての発音は比べるまでもなくペーの方が上。

歌全体を通して、ペーの持っている声は確かに素晴らしいが、
こういう歌い方をするとディナーミクを付けても言葉に色が出せない。
理由は単純でレガートで歌えないからである。

 

 



 

 

2019年(36歳)
ヴェルディ 椿姫  O mio rimorso

これが現在の歌唱。
響きに奥行も加わり、まさに絶頂期に来ているのではなかろうか?
どう聴いても世界でトップクラスのテノールである。

 

こちらが昨年のファン ディエゴ フローレスの演奏(カバレッタは5:05~)

はっきり言ってフローレスよりシーは現在上手い。
こんな世界でもトップクラスにまで成長した歌手が、
一時期とは言え東邦にいたのか!
と思うとちょっと不思議な感じがする。

 

 

最後に

シーのマスタークラスの映像

教えている曲はラ・ボエームのChe gelida manina
イタリア語で指導しているが、都度歌って違いを示しているため、
言葉がわからなくても何を指摘しているかはわかるので、一度ざっと聴いてみると面白い。

「言葉を前に出すことに集中しろ」
「もっとレガートで歌え」
「(高音の)”i”母音で奥を締めないで”e”母音と同じ空間に入れろ」
「ピアノでもフォルテと同じポジションで歌え(ピアノを出すのにポジションを変えるな)」
「最後のフレーズはぜったいポジションを保て」
「常に喋るように歌え」

てなことを言っている。

 

 

日本人歌手は、
欧米人だけでなく、骨格の近いこういう歌手こそ分析して良い所を盗んでいかないと
どんどんアジアでも取り残されてしまう。

 

 

CD

現在屈指のキャストと言えるかも。

 

2009年、ペーザロのロッシーニ音楽祭にデビューした作品がこれだった。

 

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