Lucine Amara(ルシーン アマーラ)は1927年米国生まれのソプラノ歌手
それにしても、戦前生まれの米国人ソプラノは素晴らしい方が多い。
今までにZinka MilanovやDorothy Kirstenといった歌手を紹介しているが
アマーラもそんな素晴らしい歌手の一人。
彼女達の特徴は何といっても、高い響きと真っすぐで強くて芯のある声。
そこに加えて、太くないくても響く低音を持ち合わせ、自在のディナーミクを駆使できること。
同じ米国人ソプラノで、ミッロと比べれば、その響きの高さと真っすぐな声の違いは明確
アプリーレ ミッロ
この曲は冒頭から上手い歌手とそうでない歌手の違いを聴き分けることができる。
冒頭の「Pace」は、五線の上のF→五線の下のF
というオクターヴ跳躍で、パッサージョと呼ばれる声を張るのが難しい音からオクターヴ下がる。
その上、両方とも開口母音”a”と”e”なため、最初で声を張ると降りた時に響きが落ち易い。
なので、逃げ方?としては、下の”e”をほぼ”i”に近い発音にするか、殆ど聴こえないような音量で抜くかの大抵は二択。
だが、上手い歌手はしっかり高い響きのままで下の”ce”を鳴らすことができる。
その次のフレーズは更に顕著で、
ミッロを聴いて分るとおり、続く「pace pace」F→E、Es→Dで
全部しゃくり上げるような歌い方になっている。
これは子音”p”や”c”を発音する時に息の流れが止まっているからである。
一方のアマーラはしっかり音が繋がって、声もブレない。
これが響きの高さとも関係するのだが、そういう耳で聴くと、意外なことがわかった。
なんと、佐藤しのぶのパッサージョ付近の響きは素晴らしい
この人、改めて聴いてみるとFやEの響きはとっても良いポジションにハマっているのだが、
音が下がってくると響きが落ちて喉声になってくる。
でも最近の歌手に比べれば、よっぽど口のフォームもキレイだし、
なんだかんだ日本を代表するソプラノだったんだな~ということは今更ながらわかった。
それは置いといて、佐藤とアマーラの中低音の差は何か?
一概にコレとは言い切れないが、確実に言えるのは佐藤が発音する時に息を吐き過ぎることと
言葉を強く発音し過ぎることではないかと思う。
軽く歌う。という言い方は誤解を生みやすい表現ではあるが、
そんなに強い息や発音をしなくても、
必要最低限の優しい息で、響きを滑らかに作るほうが低音は間違えなく飛ぶ。
例えばバスやバリトンで
バリバリ鳴ってる一般的な良い声は、実は傍鳴りでしかないことが殆どだ。
特に日本人の低声男性陣は、喋り声は良い声っぽく聴こえるけど、歌うと・・・。
というのがよくある。
色々な曲を歌っているが、
Manuel de Falla:”Seguidilla Murciana” (22:48~)
Samuel Barber:”Sure on this shining night” (39:48)
Richard Hageman:”Music I heard with you” (42:12)
は特に上手い。
英語になっても響きが変わらないところが素晴らしいし、
なんて軽やかに歌うのだろうか?
まったく喉に引っかかる音がない。
というのを聴いてもアマーラの発声技術の高さがわかる。
なんて理想的なレオノーラであろう。
凄いの一言しかない。
低音と高音の質にブレがなく、声も全く揺れず、言葉しっかり聴こえる。
ルーナ伯爵を歌っているYunis Zujur というバリトンは、調べてもWIKIすら存在しないのだが、
この人も癖はあるが決して悪い歌手ではない。
だが、アマーラが凄過ぎて響きの質の違いは明らか、
この人の歌唱は本当に理想的だ。
タイトルは87歳となっているが、1927年生まれなので、85歳の演奏と思われる。
どちらにしても、この年になっても声が揺れないとは!
高音は流石にキツそうだが、それでも絶対に押さないし、ズリ上げることもしない。
これはもう少し若くて63歳
50歳のフレミングとの比較
ルネ フレミング
フレミングが喉に引っかかったりするのに対し、
アマーラは汚れもシミも一切ない純白なレースのように滑らかだ。
本当に戦前と戦後で米国人、特に女声の発声は全く変わってしまったということなのか?
まだまだ一部の歌手を検証しただけでも、現在とは明らかに違うのは確かだ。
。
こんな凄い歌手のCDが全くないこと自体がおかしいッ!
ヨーロッパばかりでなく、もっと戦前の米国人歌手に光が当たることを願うばかりだ。
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